テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
寝返りを何度か打っていると
「葵、眠れない?」
瑞希くんが話しかけてくれた。
「あっ、ごめん。私が動いちゃったから起こしちゃった?」
「いや違う。普段ならこれから仕事終わって帰る時間だから。昼夜逆転しているからなかなか……。ね?」
そっか。いつもなら瑞希くんはまだ起きている時間なんだ。
「やっぱり眠れないよな。あんなことがあったから。俺が近くにいるから安心して」
なんでこんなに優しいの。
「良かった。生きてて」
尊にもしも刺されていたら、こんなことできないもん。
「縁起でもないこと言うなよ」
瑞希くんは、ハハっと笑っている。
「瑞希くんって強いんだね!一応、尊だって元野球部だったから力はあると思ったんだけど、瑞希くんが尊の手を持ったら全然動かなかった」
尊はナイフを振り落とすことができなかった。
「んー。あいつ、葵の元彼ってケンカとかしたことないタイプでしょ?」
「たぶん」
大学の時からそんな話聞いたことがない。
「だよな?なんか弱かった」
いや、だから瑞希くんが強いんじゃないの?
「俺はもともと荒れてた時期っていうか、ヤンチャしてた時もあったから。恥ずかしい話だけど。相手は、刃物とか持ち出す奴もいたし。うーん。やっぱり経験かな?」
そんな経験したくないよ。
「ああ、春人も強いよ。俺くらい」
「えっ、あんな可愛い顔しているのに?」
意外だ。
「あいつの方が裏と表激しいからな。怒らせたら俺より怖いかも」
想像ができないな。いつも優しくて柔らかな雰囲気だから。
「葵、今日はもう寝な?」
「うん」
瑞希くんの肩にピタッとくっつく。安心する。
「おやすみ」
何も考えずとりあえず今は寝よう。
私は目を閉じた。
一週間後。
「先輩、目の下、クマできてますよ。やっぱり眠れてないんじゃないですか?」
お昼休憩の時、華ちゃんが私の顔をまじまじと見つめてくる。
「んっ、そんなことないよ。大丈夫」
元彼の事件から、瑞希くん、華ちゃん、春人さんにすごく迷惑をかけてしまったことを後悔している。
確かにあれ以降、眠れていない。
夜、一人になると不安と恐怖が襲ってくる。
また尊が来るんじゃないかって。
当日は瑞希くんが一緒だったから、恐怖を感じなかった。夜一人になるとフラッシュバックが起こって。ナイフの映像が頭から離れない。
だから、引っ越しも本気で検討している。
あのマンションにいたら、また尊が来るんじゃないかって。トラウマになっちゃったみたい。
「最近、流星さんとはどうなんですか?」
「あ、瑞希くんとはあれから会えてないかな。忙しそうで。連絡はしているよ」
彼は私のことを心配して、毎日連絡をしてくれる。私から会いたいとかこれ以上求めてはいけない。
「ふーん。そうなんですか。素直になったらいいのに」
「えっ?」
「素直に、怖くて眠れない、会いたいって伝えればいいのに。流星さんなら受け容れてくれると思いますけど?」
確かに彼なら受け容れてくれると思う。
彼とは正式に付き合っているわけではないから。
葛藤している。
「そうだね。瑞希くんなら……」
私はそう返事をするしかなかった。
・・・・・
あの日から葵と会えていないけど、大丈夫だろうか。
絶対無理してるんだろうな、そんなことを思う。
開店前、お客さんに営業の連絡を入れながらそんなことを考えていた。
「流星。今日、元気ないけどどうしたのー?」
春人が話しかけてくる。
「考えごと」
こいつには俺が何を考えているのか、わかっていそうで怖い。
「葵ちゃんに会えてないのー?まぁ、ここのところ大変だったもんね」
ほら、やっぱり。そんなにわかりやすいのか、俺は。
「ていうか、この間の事件、流星あれだけでよく我慢できたね?」
「何が?」
この間の事件って、葵の元彼の時か?
「いや、もっと顔面ぐちゃぐちゃになるまで殴るんじゃないかと思った。久しぶりにあんなキレてる流星見たし。俺、止めるの本当は怖かったんだから!」
「ああ。本当はそうしたかったけど。葵も見てたから。そこまでしたら悲しむだろ?嫌われたくないし」
そんなところを見たら、彼女の中のトラウマがさらに大きくなってしまう。
きっと彼女の場合、自責の念から離れられなくなりそう。
「流星も大人になったね」
よしよしと頭を撫でられる。
「おいっ、やめろよ」
春人の手を振り払う。
「でもね、さっき、華ちゃんから連絡がきて、葵ちゃん元気ないんだってさ?目の下のクマが酷いって言ってた。眠れてないらしいんだよね」
俺がメッセージを送ったり、電話をする時は元気だって言っているのに。やっぱり無理しているのか。
そりゃ、眠れないよな。
「わかった。教えてくれてありがとう。明日、休みだしお客さんとの約束もないから、会いに行ってくる」
・・・ーーー
昨日も眠れなかった。そのためか、食欲もない。
やっぱり睡眠って大切なんだ。働いている時、頭は使っているはずなんだけどな。
華ちゃんに昨日クマがすごいと言われた。
体調があまり良くない。身体が怠い。頭痛もするし、完全なる寝不足とあと食事があまり摂れていないせいだと思う。
少しは痩せて、綺麗になれるかな?とプラスに捉えようとしたが、こんなにも顔色が悪ければ、キレイとは言えないよね。
今日は、華ちゃん有休だ。どこか遊びにでも行っているのかな。
私も残業しないで、早く帰って眠れなくてもいいからせめて横になろう。
珍しく、早く帰りたいと感じてしまった。
定時にあがり更衣室で着替え、会社を出ようとした。
季節は夏。七月初旬だった。
会社の中は冷房が効いているが会社から出ると、極端に気温が違う。
暑い。どうしよう、本当に具合悪いかも。
目がチカチカする。
身体がふらっとしてしまった。
あっ、倒れちゃう……。
そう思った時
「大丈夫ですか?お姫様」
身体を支えてくれた人がいた。
んっ?お姫様?この声とこの香水の匂いは……。