それから
まゆとは平凡に暮らしていた
[おはよう、まゆ]
『 ん、おはよう明那』
朝起きると返事をしてくれる人がいる
『 ねー明那これってさ、』
家にいると話しかけてくれる人がいる
この日々がずっと続いて欲しい
でも
『 あ、あの日俺これもやってたな』
『 あ、これも、確か』
まゆは日に日にあの日のことを思い出すようになった
怖い、離れていく気がして
[ねぇまゆ、もう思い出さなくていいんじゃない?]
『 …どうしてそんなこと言うの?』
[いや、ほらこのままでもいいのかなって、]
『 いいわけないでしょ、』
[そんなの、わからないじゃん!]
わからないじゃんか、いいかもしれないじゃないか
[だって、それ思い出したら、まゆいなくなるかもしれないんだよ!?]
[もしかしたらもう二度と会えなくなるかもしれないんだよ!?、そんなの嫌だよ。離れたくない]
[“いかないでよ!まゆ!”]
大きな声で自分の本音を語る
いなくならないで欲しい
ずっと一緒にいて欲しい
そばで笑っていて欲しい
ずっと、俺と、生きて欲しい
『 明那、これみて』
そういうとまゆは自分の腕を俺に見せてきた
[え、?]
まゆの腕の中心が透けている
[どういうこと…?]
『 きっともう、時間がないんだと思う
腕だけじゃない、足も体も、徐々に薄くなっていてるんだ』
『 このままだとそのまま消えてしまうかもしれない』
[そんな…、]
まゆが消える?
そんなの嫌だ
でも、
[じゃあ俺はどうしたらいいの…]
まゆに協力して記憶を思い出す手伝いをしても
まゆを妨害して思い出させないようにしても
結局まゆはいなくなってしまう
一緒にいられなくなってしまう
『 明那!まだ希望はあるでしょ?』
[!]
『 ほら、いったじゃん、幽体離脱の可能性もあるってさ』
そうだった、
[うん、そうだね]
その希望に全てを託そう
my視点
[“いかないでよ!まゆ!”]
あれ、これ
この言葉
あぁそうか
ごめんね明那
俺、全部思い出した
“あの日”のこと
もう
希望なんてないんだ
過去回想
(記念日一年前)
イタッ
今日もだ
最近何故か心臓が痛む
明那には心配かけたくなくて言ってなかったけど
そろそろやばいかな、
とりあえず病院行ってそれから明那に伝えよう
病院に入り診察を受ける
安静にしてくださいね〜なんてにこやかに話していた看護師が突然顔色を変えた
「先生…!これって、」
「!これは」
そんなに大慌てされると流石に少し不安になる
何かの病気だったのかな
診察が終わり
医者に別室に呼び出された
すると先生は深刻な面持ちで
話を始めた
「大変申し上げにくいのですが…
黛さん、あなたの病気は進行が進みすぎました
手術じゃどうにもならないところまで、進んでいて…もって、あと一年です」
『 え』
余命宣告だった
俺は後一年しか生きられない…?
そんな、俺まだ、やりたいことが
俺がいなくなったら、明那が
・・・
それからはどうやって帰ったのか覚えていない
自分の死を間近に感じる
恐怖で胸がいっぱいだった
あ、そうだ、明那に伝えなきゃ
携帯を取り出そうとするが手が震える
大丈夫。何も怖いことなんてない。
でも、伝えてどうする?
優しい明那のことだから
黙ってドナーを差し出すかもしれない
俺よりまゆが助かって欲しいって
自己犠牲に走るかもしれない
そんなのは嫌だ
それに
明那を不安にさせたくない
俺はそっとポケットにスマホをしまった
『 ただいまー』
[あ!おかえりまゆ、ん?なんか元気ない?]
『 いや、ちょっと疲れただけ、大丈夫だよ』
[そっかーゆっくり休みなよー]
俺は明那には秘密にすることにした
俺がいなくなるその時まで
隠し通すんだ
ズキッ
心臓が痛む
後一年、俺は俺のできることをしよう
(記念日当日)
余命宣告をされてちょうど一年
本能的に今日が最後の日だと
悟ってしまった
何で、よりによって今日なんだろう
今日は明那と付き合って二年の記念日
一年目はお祝いできなかったこともあって
今年のお祝いは気合を入れていたのに
ギリギリまで、一緒にいよう
そして、最後は遠くに行くんだ
明那が俺の死を悟らないように
俺の亡骸を見付けないように
いい時間帯になってきた
ズキッ
そろそろいかないと、やばいかも
『 明那、ごめん俺、出かけてくる』
[え!?今日は一緒にいようよ]
本当は一緒にいたいよ
『 ごめんね、用事があるから、』
[その予定ってどうしても今日じゃなきゃダメ?
明日とかは無理なの?]
明日…
君にとって当たり前にくる明日でも
俺にとってはもう二度と巡ってくることはない
『 今日じゃなきゃダメなんだ』
もう時間がないから、
[…っ、何でよ、今日くらい一緒にいてよ!]
[俺よりも大事なことなの…]
明那より大事なものなんてない
ないんだよ
『 ごめんね、今度埋め合わせはするからさ』
守られることのない約束
“今度”なんてないのに
[っ、いかないでよ!まゆ!]
バタン
明那の言葉を無視して俺は外へと出る
さぁ遠くへ行こう
もう二度と明那に会えないように
案外お別れは呆気なかったな、
もう平気だ大丈夫。
この一年間やるべきことはやってきた
明那にいっぱい好きを伝えて
いきたいところは全部巡って
最後は明那に俺を忘れてもらうんだ
そのために私物は全て捨ててきた
俺を思い出させるものはすべて
きっと三年もすれば明那は俺のことを忘れてくれるだろう
そして新しく恋をして愛し合って
その相手と、幸せに
しあわせ、に
突然目の前がぼやける
『 …あ、れ?』
瞬間目から涙が溢れてきた
『 っ、グス、』
本当は
ずっと、ずっと一緒にいたかった
綺麗な声も顔も愛おしい仕草も
全てが自分に向けられているものじゃないと嫌だった
他の人と恋に落ちないで欲しい
俺を忘れないで欲しい
明那を思い、今まで行ってきた行動。
自分を忘れてもらうため、明那が幸せになるために。
自分の気持ちを押し殺してきた
そばにいたい、離れたくない、一緒にいたい
もう会うことができない今になって
気持ちが溢れてくる
『 あ、あきなっ、グス、大好きだった、よ』
いつまでも大好きだよ
『 お、俺のこと…』
“忘れないで、”
コメント
2件
効果音とかだけで痛いとか、重い病気ってわかるの凄すぎる…
myakの不穏な感じ見たことあんまりないけど、初めて見るmyakがわややさんでよかったです‥。 愛って尊いですね、