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第1章 第2話「声を出せ」
新学期が始まって数日。
柳城高校野球部の練習は、外から見れば「野球部」と名乗るのもぎりぎりの状態だった。アップはバラバラ、キャッチボールでは声が出ない。ノックを受けてもミスをしても誰も声をかけない。
その光景を見て、城島史也はバットを置いた。
「――ストップ!」
部員たちが驚いた顔で監督を見る。
「お前らな、野球は声を出すスポーツだ。仲間の名前を呼べ! ミスをしたら励ませ! グラウンドに立ってる時に黙ってるやつは、もう戦ってる選手じゃない。」
選手たちは息を飲み、重苦しい空気が流れる。
「まずはキャッチボールからやり直しだ。声が出せないなら一球も投げるな。」
その中で一番に声を張り上げたのが、新入生の小早川啓介だった。
「よし来い! ナイスボール!」
まだ声は細いが、必死に出していた。
周りの上級生たちも次第に釣られるように声を出し始める。
練習後、土にまみれた小早川が声をからしていたのを見て、城島は心の中でうなずいた。
──やはりこいつは軸になる。
その日の最後、監督は部員たちに一つだけ言った。
「グラウンドはお前らの鏡だ。乱れていれば心も乱れている。明日からは練習の前に全員で整備だ。道具も同じだ。野球をやらせてもらってる感謝を忘れるな。」
かつて荒れたグラウンドは、少しずつ変わり始めていた。