第1章 第3話「受け止める覚悟」
グラウンドに活気が戻り始めた柳城高校。
毎日の声出し、練習後の整備、用具の手入れ。
一見小さな積み重ねだったが、数週間で空気は確実に変わっていた。
ある日の練習後、城島監督は捕手志望の新入生・小早川啓介を呼び止めた。
「お前、キャッチャーをやりたいんだったな。」
「はい!」
「キャッチャーはただ球を受けるだけじゃない。チームをまとめ、投手を引っ張り、試合の流れを読む。監督の目と頭を持つポジションだ。覚悟はあるか?」
小早川は、泥だらけのユニフォームのまま深くうなずいた。
「あります。どんなボールも、僕が全部受け止めます。」
その言葉を聞いた監督は、久しぶりに口元を緩めた。
「なら次の練習試合、お前に任せる。」
――試合。
対戦相手は県内の私学、実力は柳城より格上と評判のチーム。
上級生の中には不安を口にする者もいたが、小早川はむしろ胸を高鳴らせていた。
練習で城島監督が繰り返し言ったことが耳に残る。
「キャッチャーは試合の心臓だ。試合を動かせるのはお前だぞ。」
翌日の放課後、部員たちは整えられたグラウンドで白球を追った。
そして、いよいよ初めての対外試合の日が迫っていた。