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【惚れ薬を飲んだら】
会社の飲み会帰り、亮さんが私の部屋まで送ってくれた。
少し冷える夜だったので、私は温かいお茶を出した。
──実はそれ、友達からもらった「惚れ薬」と冗談で書かれたハーブティーだった。
効くわけないとわかっていたけれど、ちょっと面白半分で。
「……なんか甘いな、これ」
湯気越しにカップを傾ける亮さん。
数分後──様子が少しおかしいことに気づいた。
「○○」
名前を呼ぶ声が、やけに低くて近い。
ソファから身を乗り出し、私の方へじわじわ距離を詰めてくる。
「な、なんですか……?」
「さっきからさ、なんか……お前のことしか考えられない」
頬がほんのり赤く、目が熱を帯びている。
心臓が跳ね、冗談では済まない空気になる。
「……それ、惚れ薬なんです。友達がふざけて……」
「惚れ薬?」
彼は小さく笑い、さらに近づく。
「じゃあ今の俺は、お前のせいだな」
気づけば手首を軽く取られ、逃げられない距離。
「○○……正直に言う。前から好きだった」
耳元に落ちる吐息が、熱くて、くすぐったい。
次の瞬間、彼はゆっくりと私の額に唇を押し当てた。
「これ、副作用だとしても……もう止められない」
心臓の音が、自分でもうるさいくらい響いていた。
ソファで向かい合ったまま、時刻は深夜を回っていた。
惚れ薬の効き目が切れたのか、亮さんの顔色は落ち着いてきている。
でも──距離は相変わらず近いままだった。
「……もう大丈夫ですか?」
「ん? ああ、落ち着いた」
「じゃあ、さっきのは薬のせいってことですね」
少し寂しさを隠しながら笑うと、彼は眉をひそめた。
「いや、違う」
その声は低く、はっきりしていた。
「確かに、きっかけは薬かもしれない。でも言ったことは本当だ。俺、前から○○のこと好きだった」
「……」
「効き目がなくなっても、まだこうして触れてたいって思ってる」
そう言って、亮さんは私の手をそっと包み込む。
指先が触れるたびに、胸が熱くなる。
「薬なんかなくても、もう止められないから」
そのまま、ゆっくりと頬に触れられ、目が合った。
視線から目を逸らそうとしても、逃げられない。
「……○○、俺にさせてくれ」
耳元で落ちる声に、心臓が大きく脈打った。
唇が触れる寸前、私は小さく頷いた。
薬なんて、もう必要なかった。
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