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屋上。
夜風。
街灯の光。
二人はフェンスにもたれながら、静かな街を見下ろしていた。
動画の撮影も終わって、ただぼんやりしている時間。
この世界では、そういう時間が一番長かった。
悠真が缶コーヒーを揺らしながら言う。
「なあ」
「ん?」
「もし向こう戻ったらさ」
蒼は空を見たまま返事する。
「うん」
悠真は少し黙った。
それから、笑うみたいに呟く。
「再会できんのかな」
風が吹く。
その言葉だけが、静かな夜に残った。
蒼はすぐには答えなかった。
向こうの世界。
人がいる世界。
朝が来る世界。
もし戻れたとして。
自分たちはどこへ行くんだろう。
三年前の続きを生きるのか。
それとも、まったく別の人生になるのか。
「どうなんだろ」
蒼が静かに言う。
「だよな」
悠真は笑った。
でも、その笑いは少し不安そうだった。
「なんかさ」
「うん」
「向こう戻った瞬間、普通に他人になってたら嫌だなって」
蒼は少し驚いた顔をする。
悠真はフェンス越しに街を見る。
「だって世界違うし」
「三年経ってるし」
「もしかしたら住む場所も変わるかもだし」
夜風が制服の裾を揺らす。
「そしたら、急に全部夢みたいになりそうで」
その声は小さかった。
蒼はしばらく黙る。
夜空を見る。
最初に出会った日も、こんな空だった。
雪の日。
誰もいない水族館。
夕焼けの学校。
雨の屋上。
全部、悠真がいた。
三年間。
世界には二人しかいなかった。
その時間は、たぶん普通の友達とは少し違う。
もっと静かで。
もっと深い。
蒼は小さく笑った。
「まあ」
「?」
「絶対また会うだろ」
悠真が目を瞬く。
蒼は続ける。
「お前、多分普通に連絡してくるし」
「いやそれはする」
「じゃあ会う」
悠真は吹き出した。
「単純」
「でもそういうもんじゃね」
蒼は夜景を見る。
「世界変わっても、人間そんな急に変わんないだろ」
悠真はしばらく黙っていた。
それから、小さく笑う。
「……そっか」
風が吹く。
遠くで信号が青に変わる。
誰も渡らない横断歩道。
静かな夜。
でも、不思議と寂しくなかった。
「なあ」
悠真が空を見上げる。
「もし向こう戻ったらさ」
「うん」
「普通に映画とか行こうぜ」
蒼は少し笑う。
「急だな」
「だって人いる映画館気になる」
「確かに」
「あとコンビニ店員いるの見たい」
「そこ?」
「なんか感動しそうじゃん」
二人とも笑う。
その笑い声が夜に溶けていく。
しばらくして。
蒼がぽつりと言う。
「でも」
「?」
「向こう戻っても、たぶんこの世界の話は誰にも信じてもらえないかもな」
悠真は少し考えてから笑った。
「じゃあ二人だけの秘密にしとく?」
蒼も笑う。
「それもありかも」
夜空には星。
三年間、ずっと見上げてきた景色。
もし世界が戻っても。
この夜を知っているのは、きっと二人だけだった。