テラーノベル
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『音、聞こえないんだw』
『それじゃ、喋れないねw そんなんじゃあ、友達なんて無理かなw』
はっきりとこんな文字を打たれた画面を見て、彼は寂しげに涙を浮かべた。
決して泣き崩れる事は無かったけど、私の視界にはいつも 彼の姿が映っていた。
それも、毎日毎日…
誰も話しかけず、救われず、孤独の中で生きる彼。
私がたまらず彼に話しかけたのは、1学期の春の事だった。
『ありがとう』
ゆっくりと、でも無邪気な笑みを浮かべて 彼が画面に映してくれたその言葉は、私の胸に響いた。
そして同時に、鼓動がどんどん速くなっていくのを直に感じたんだ。
その時からだろうか。
彼に恋していると、自覚したのは。
「今日から1年A組の担任になる木原だ。 よろしくな〜!」
“よろしくお願いします!!”
今日から中学生となった私達。
不安と期待を胸に登校してきた皆は、元気に担任となる先生に挨拶を返した。
私もそれに混じって挨拶をしたけど、そんな中で 一人、キョトンとした顔をして座っている人が居た。
それは…
小鳥遊 海(たかなし かい)くんだった。
私は最初、少し変な人なのかなと感じ、距離を置こうと思っていた。
でも、私が思っていた理由とは全く違った。
――私が疑問を抱き始めた数分後、木原先生がこう話した。
「皆、知っておいて欲しい事がある。」
「このクラスの小鳥遊は、耳が不自由なんだ。 一緒に過ごす時は、スマホや紙面で言葉を伝えてくれ。」
「治療出来るかも知れないと言われているらしいんだが、今は喋るのは難しい。」
「仲良くするんだぞー!」
その言葉に、皆は元気よくうなずいた。
そして 自分の話をされていると悟った彼は、アタフタしながらも軽くお辞儀をした。
そんな中クラス中では、クスクスと耳障りな笑い声が響いた。
「こいつ、耳が聞こえないのか…w?」
「え、なんかキモい…w」
「極力話さないでおこっとw」
「私も」
「うん、それが良さそw」
私はこの時、絶対に「障害者だから」といって特別扱いをするのは辞めようと思った。
いじめに発展して、最悪の場合……
と考えてしまったからだ。
そして私は初日から、 モヤモヤした感情を抱きながら、家に帰った。
―――翌日
私の昨日の嫌な予感は当たり、早速も、今日から海くんの陰口大会がスタートしてしまった。
だけど更に嫌なことに、それを止める人は誰一人として居なかったんだ。
学級委員長でさえ、止めようとはしない。
私は小心者だから、もちろん止めるなんて出来なかった。
でも、絶対に彼を救いたいと心で誓っていた。
――その日から、ずっと彼への嫌がらせが続いた。
クラスラインで大量の悪口が書き込まれたり、上履きを隠したり。
そんな隠密ないじめばかりだからか、木原先生もこの事態に気付いていなかった。
そして私もまだ話しかけれないまま、日付だけが過ぎていった。
「(このままじゃダメだ… 今日こそ、話しかけよう…!)」
私は勇気を振り絞り、海くんの席にさり気なく近づいて、スマホの画面を見せた。
『おはよう!』
私は笑顔でそう打ってみた。
すると、彼もまた笑顔で、スマホを見せてくれた。
『おはようございます! まさか、俺に話しかけてくれる人がいるとは思わなかったよ!嬉しい!』
そんな気持ちの込もったメッセージを見せてくれて、私は心が温かくなった。
でも同時に、辛い彼の思いをしみじみと感じた。
たぶん海くん、すごくフレンドリーな子なんだろうな。
それなのに、障害があるというだけで仲間外れにされて…
考えるだけでも 辛い。
だから絶対に、助けてあげるんだ…!
私はそんな強い思いから、優しいメッセージを返し続けた。
それに対して 彼も毎回笑顔で、ずっと会話をしてくれる。
私もだんだんとハブられるようになってきたけど、そんな事気にしていなかった。
でも、彼が優しく気遣ってくれた。
『俺と話してると、ルルちゃんが仲間外れにされちゃうよね。 ごめんね…』
そんな文字を見せた彼は、悲しげな顔をしていた。
私は急いで、彼に画面を見せる。
『そんな事無いよ!こうして話せるだけで楽しい!』
その私の言葉に、彼は驚いたらしい。
――そして、その後もずっと会話は続いていった。
『ルルちゃんは優しいよね。俺、ルルちゃんの声が聞いてみたいなぁ…。』
『でも、治療で治せるんだよね…?』
『うん。たぶん。』
『そっか… 私も、海くんの声が聞いてみたいな! 直接、会話してみたい!』
『俺もだよ。治療、頑張る…!』
『うん!!応援してるからね!!』
『ありがとう!』
そして、私は微笑みを浮かべながら家に帰った。
彼の声を聞けるかも知れないとなると、胸が高鳴る。
いつか、この願いが叶いますように―――。
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