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月城 蓮桜音
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#いじめ
#三角関係
名瀬口にぼし
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王城から迎えが来ると指定された日。私はいつものように早起きをしてしまっていた。まだ外は暗い。仕方なく、私は持っていくものの整理をすることにした。だが、作業はすぐに終わってしまった。
必要な荷物が少ないからだ。着替えが二着と下着、それに使い慣れた布巾を一枚。それから、母の形見の小さな裁縫道具。それだけで、鞄は半分も埋まらなかった。もともと、私の持ち物は少ない。社交もしないのだから、ドレスなんて持っていない。掃除に必要なものは、すべてここに揃っていたから。
出立の時刻まで、まだ少し余裕があった。私は屋敷の中を見回してから、雑巾を手に取る。いつも通り、水を含ませ、絞る。指先に馴染んだ感触に、妙な安心を覚えた。廊下の隅。階段の手すり。人目につかない窓枠の下。
誰に頼まれたわけでもない。でも、やらずにはいられなかった。ここは、私の仕事場だったから。最後に、使用人用の裏口を拭き終え、雑巾を桶に戻す。水面に浮かぶ埃を見てから、静かに手を洗った。 ――これが、私の仕事だった。
玄関に向かうと、馬車がすでに止まっていた。御者が一人、黙って立っている。見送る人はいない。呼び止める声も、かけられる言葉もなかった。それでいい、と私は思った。そういう形で、ここにいたのだから。
馬車に乗り込む前、ふと足を止める。無意識に、屋敷を振り返っていた。二階の窓を見上げる。弟の部屋だ。
――行ってくるね。
声には出さず、そう思うだけで、視線を戻す。馬車に乗り、扉が閉まる。車輪が音を立てて動き出した。ふと、私が外から屋敷をまじまじと見たのは初めてではないだろうか。そんなことを思いながら、馬車に揺られる。
――住み慣れた屋敷が、ゆっくりと遠ざかっていく。
コメント
1件
第6話、読み終わりました。出立の朝の静けさが、逆に主人公の存在の大きさを浮き彋にしているように感じましたね。誰にも見送られず「それでいい」と思う胸の内と、弟の部屋を振り返る一瞬。声に出さない「行ってくるね」に、いろんな想いが込められていて。雑巾を絞る指先の感触で最後まで仕事を全うする姿に、彼女の生き方が滲んでいて、とても印象的でした。