「僕も参戦します」
レビンは多くのエルフが見守る中、決意を伝えた。
「ダメだ。レビンくんを戦争に参加なんてさせたら、レイラに怒られてしまう。恐らくミルキィにも」
考える余地もなく、レビンの参戦は却下された。
「レイラさんは僕の好きにしたらいいと言ってくれました。ミルキィはこれまでもずっと好きにさせてくれました。
お願いします!
僕は嫌なんです!
エルフの皆さんが傷つくのも嫌なんですが、一番はその時に何もしていない自分が嫌なんです!」
「…ふふ。そうか。レビンくんは正直だな。いや、この場合は馬鹿正直と言うべきか。
わかった。それなら好きにするといい。だが、こちらから君にお願いするつもりはないよ。
君の命を預かるには、私には負担が大き過ぎるからね」
バーンナッドは、未だ見ぬ成長した愛娘に恨まれる事だけは避けたかった。
バーンナッドの肩には、すでにエルフの国という責任がのしかかっている。十五年前にミルキィをレイラへ託した時から、その肩には他のモノの乗り場はなくなっていたのだ。
「もちろんです!それまでお世話になりますね!何かできる事があれば言ってください。ただで泊めてもらうのは忍びないので」
「そうか。それなら物々交換だね。わかった。仕事は山ほどあるからお願いするよ」
バーンナッドはエルフが苦手とする力仕事を、これでもかとレビンに回していった。
この辺りは流石夫婦である。
レビンも途中で『早まったかもしれない…』と、少しばかり後悔していた。
「では僕は好きに動きますね」
あれから10日。精霊魔法によりダークエルフの接近が報された。
この10日で、壊れた建物はレビンが下に落とし一箇所に固めてある。
復興は以前進んでいないが、まずは片付け。そして戦争の決着。
それからだと伝えられていた。
「ああ。頼むよ」
好きに動くと言っているが、もちろん方便である。
ダークエルフの陣容を先日聞いた時に、レビンは色々と説明を受けた。
そして、勝利する為の条件を確認してある。
非戦闘員は相変わらず木の上。
残った数少ないエルフの戦士は、バーンナッドを中心に固まって行動をする事に。
この時点でダークエルフ側は不自然に思うことだろう。
精霊魔法の使い手であるエルフは、固まった軍事行動はとらない。
どちらかと言うと精鋭の戦士がゲリラ作戦を取ることが多いのだ。
固まっていても5人もいれば多いくらいだ。
そう考えていたダークエルフだったが、エルフの部隊は300程の規模を見せていた。
先日、作戦会議の場にて。
「馬鹿な事を言うな!」
エルフの古参の戦士は激昂した。
「こうすれば犠牲は最小限です」
「人族に託せと言うのか!このエルフの国の未来を!」
さらに詰め寄ってくるエルフの戦士だが、レビンは臆することなく伝える。
「人族とかエルフとか、僕には関係ないです。困っている人がいれば、種族は関係なく助けたいのです。
それに、エルフの国の未来を託されても困ります。
僕はあくまでもこの戦争に勝つ事。そして、一人でも犠牲者を減らす事をしたいだけなんです」
このエルフの戦士もレビンを侮っているわけではない。エルフとしての誇りを守りたいだけなのだ。
「レビンくん。だが、私は君に頼む事はしないよ」
そこにバーンナッドが声を挟む。
どんな結末が訪れようとも、バーンナッドは王である。
勝てばその後の統治が待っており、エルフを纏める為にも人族に頭を下げることは出来ない。
負けたとして、レビンのことは知らぬ存ぜぬを貫き通し、ダークエルフ陣営からのレビンに対しての追求や処刑を回避したい。
バーンナッドに出来るのは、我関せずを貫くことのみ。
「わかっています。皆さんは戦力差から守りに入るだけです。その時に偶々居合わせた、どこかの人族が勝手に何かをするかもしれませんが」
「うーん。何だか結局頼んだのと変わりないような?」
「二人には黙っておくので大丈夫ですよ」
最早建前などあってない様なモノだ。レビンは参加できれば良い。
これほど頼もしい援軍はないので、バーンナッドとしては出来たら参戦してほしいが……誇り高いエルフの戦士達の前でレビンに縋るような真似は出来ない。
よって、この茶番なわけだ。
国王は大変なのである。大なり小なり。
「みんな聞いてくれ。今となっては向こうとこっちの戦力差は歴然。私としては皆に死んでほしくない。
だが、国を守る為には犠牲がついて回る。
しかし、国を守れないのであればそれは犬死になってしまうかもしれない。
守ってこそだ」
守ってこそを強調して伝え、バーンナッドは続ける。
「『家族』『国』を守る為に、私に皆の命を預けてほしい。そして、一時的に誇りをここに置いてほしい。勝つ為に。守る為に。そして、私の大切な戦士達自身の為に」
王にここまで言われては、いくらプライドが高いエルフの戦士であっても頷く他なかった。
そして今に至る。
「うわぁ。かなりの数がいるなぁ。頑張らないとね」
戦場は森の中。向こうは森を得意とするダークエルフだ。
いくらレビンが森歩きが得意と言っても、それは人族の中ではと付く。
しかし、レビンは呑気だ。微塵も遅れを取るとは思っていない。
ダークエルフもエルフと同じく精霊魔法を使う。そんなダークエルフの陣容は五人一組の小隊が森に散らばるモノだった。
全ては把握できないものの、その数は優に1500を超えていた。
木々が邪魔で全ては見えないが、高レベルのレビンの視覚は遠くまで見通す。
「いた!あれがそうか。じゃあ、皆さん行ってきます!」
何かを確認したレビンはエルフの塊に向け挨拶をして、駆け出していく。
それを確認したダークエルフからどよめきが巻き起こる。
「は、速い!?」「何だ!?」「エルフの子供か!?」
そう認識した時には既にすれ違っていた。
そして、レビンは目的の場所へとすぐに辿り着いた。
「貴方がダークエルフの王ですね?」
レビンが辿り着いたのは、他とは違う大規模な集団だった。
周りの100人程のダークエルフ達とは違い、装飾過多で煌びやかな装いのダークエルフに向けて言葉を発した。
「エルフ…ではない?」
レビンに問われた王はエルフ以外がいることに驚くが、レビンがそれに答えるよりも先に、周りのダークエルフがレビンを咎める。
「貴様!?何奴!?」
ヒュンッヒュンッ
「ぐえっ!?」「ほげっ!?」
レビンは王と自分との間に割って入ったダークエルフに向けて、鞘に入ったままの愛剣を振るった。
「さっ。貴方には来てもらいます」
レビンがいとも簡単に周りのダークエルフを何人か倒すと、他のダークエルフはレビンの異様さに気圧され、動く事ができなくなってしまう。
「ち、近寄るなバケ「えいっ」ぐえっ!?」
ダークエルフの王はレビンによって意識を刈り取られ、連れ去られたのであった。
残された他の者達はあまりの格の違いに冷や汗を流しながら、それを見送る事しか出来なかった。
「あ、あれは…何だ…?」
その場の誰が発したのかわからない呟きは、森の風に流されて行くのであった。
「障壁を張れ!」
その掛け声により、300人のエルフを囲む様に半透明の壁が生まれた。
「いよいよか…レビンくん頼むよ」
ダークエルフの攻撃が始まる。そう思った矢先。
「ん?攻撃が来ないな。どうした?」
バーンナッドは周りにいる戦士に聞く。ここからは味方が邪魔で何も見えないのだ。
「はっ。何やらダークエルフ側が騒がしい様でして」
すると、すぐに別の報せが入った。
「お伝えします!あの少年…レビンがダークエルフの王を捕らえてきました!」
「…出来るとは思っていたけど……早すぎないかな?」
バーンナッドはこれまでの苦労を返してくれと、誰かに叫びたくなった。
ここにエルフを長年苦しめていた戦争は、一人の魔王の手によって、いとも簡単に終止符が打たれたのであった。
レベル
レビン:80(179)
ミルキィ:??
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