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地下は一階と逆に仄暗かった。炎はここまでは来ていないようで、造りは一回とだいたい同じようだ。中央に受付があった。
照明に手を伸ばし何回かスイッチを押すが、点かなかった。女子トイレは奥の方。私は噛みつかれて、出血をしている左手で額の汗を拭う。
ゆっくり、歩く。
一階が騒がしくなった。
女子トイレのドアをやはり一度、ノックする。
「安浦? いるのか? 大丈夫か?」
私は酷い痛みの右手は避けて、左手でドアを開ける。
女子トイレは真っ暗だった。私はそれでも奥へと歩きだした。さすがに使用中ということはないはずだ。
何が起きたのか。痛む頭で考えたが、結論はすぐそこ……。
一つ二つとドアを開け、中を緊急時よろしく覗く。多少の罪悪感が募ったが、私は安浦のことだけを考える。
「誰?」
安浦の声がした。もっと奥だ。
打ちっ放しのコンクリートの女子トイレだった。冷たい風にあたるかのように冷やりとしている。
「ご主人様?」
安浦の声に応えてやりたいのだが、何故だか怖くなった。
私は一番奥の女子トイレのドアを開け放った。
「きゃあ!」
見ると、暗い一室の中に安浦と同じ格好のマネキン人形が洋式のトイレに座っていた。
「安浦!」
私はさんざ血反吐を吐いた口で叫んだ。
まるで、これはたちの悪すぎる悪戯のように思えた。
「赤羽さん! 聞こえる! 返事して!」
呉林の声がコンクリートに響く。
「呉林! 頼むから安浦の居場所を教えてくれ!」
私は返事をする変わりに叫んだ。
走りだす足音がすると、呉林らしい人物がやってきた。
「恵ちゃんがどうしたの。あ、いないのね」
私は今度こそ本物の呉林だと思い。力いっぱい振り返る。
そこには、地味なスーツ姿の呉林が立っていた。どうやら、銀座で仕事をしていたようだ。
「怪我が酷い。体がボロボロよ、本当に大丈夫?」
呉林の心配そうな声はコンクリートに吸収されそうだった。私の顔を覗き込む。
「渡部は? 無事か?」
「ええ。私と同じく仕事をほっぽりだしたお姉さんの車の中よ。外の人たちも動かなくなったようよ。恵ちゃんはどこか遠いところにいるみたいね」
「え、なんで?」
私は全身に張り巡らせた痛みを感じなくなるほど驚いた。
「そう。その窓の向こう」