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月曜の朝はいつもけだるい。



四年勤めて仕事の急所は掴んだものの、この『けだるさ』をうまく処理する方法がいまだによく分からない。要するに気分が乗らないのだ。電車のなかで好きな音楽聞いたり小説読んだりして対処してるけど。


毎日、同じ日々の繰り返し。それはとても単調で――



だった、はずが。



『きみの、こころが、欲しい』



あんなにドラマティックなことが自分の身の上に起こっただなんて、……実感が沸かない。昨日は――


課長のマンションに行って。やっぱりベッドのうえで愛し合って。


美味しいご飯を食べ。


そしてまた別れたのだった。


ちなみにさすがに自慰のことは言えてない。たぶん言えない。


出社しているのはわたしひとりだった。念のためもう一度見積もりをチェックしたかった。ざっと目を通し――うん、大丈夫そう。道中さんにメールを送信……


していたら当の本人がやって来た。自分から挨拶をする。「おはようございます」


「おはよう。……金曜は悪かったね。できてる?」


「いまメールで送りました。机のうえに印刷して置いてあります」


「さっすが桐島ちゃん。助かる」どうやらその見積もりをチェックするために、彼も早く出社したようだ。


送信を終えると、ざっと新着メールをチェックする。……緊急のもの。そうでもないもの。……いつも思うんだけど、メールって性格が出る。仕事の要領を得ないひとのメールは長ったらしくてなにを言っているか分からないし、反対に、段取りのいいひとは手短でシャープ。


みんな切れ味のいいメールをよこしてくれるようだったらチェックの時間が半分に減るのになあ……。


件名も結構大事。長ったらしいのは大っ嫌い。


ため息つきつつブラックコーヒーを口に含む。……ブラックは、あんまり好きじゃないけど、課長に、憧れて……。


「うん? 桐島ちゃん、なんかいいことあった?」


わたしはメールに集中していて気づかなかったのだが、彼はどうやらわたしの席の後ろに回りこんでいた。てかそんな暇あるなら見積もりとっととチェックしろよ。


「ないです」わたしは冷たく答える。絡まれるとめんどくさいんだこの先輩。飲み会のときも。


「またまたあ。髪、切った?」


「いいとものタモさんですか。切ってません。なにもありませんよ」


「来てるのがおれひとりでよかった」きしし、と後ろに立つ彼は笑いデスクに手をつき、わたしの顔を覗きこむと、


「ついてるよ、ここ」


と、自分の首根っこを押さえたのだった。


キスマーク……!


慌ててバッグからスカーフを取り出してぐるぐる巻く。襟付きのシャツで隠してたつもりが、見えてたみたいだ。


その慌てた様子が可笑しかったらしく、道中さんはけらけら笑う。「桐島ちゃんにそんな男がいるとはねえ。いつから?」


「えっと……」


この先輩は。


わたしがにこりともしない冗談を言わない女だからかえって構ってくるというのをわたしは知っている。


ならば――



わたしは椅子を回転させ。


にっこりと、微笑んでみせる。


なに? と好奇をむき出しにした彼の瞳が揺れる。


これを言うとどんなに驚くだろう。勿論信じないことも知っている。


男遍歴ゼロのわたし。


隠れイケメンで堅物の課長とのマッチアップ。


『ありえない』と周囲の人間が思うだろうことも分かっている。



わたしは――


たっぷりと間を置いて。


彼の反応をうかがいながら、おもむろに口を開いてみせた。




『昨日、課長に抱かれました』



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