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「7年目だし、もう女としては見られてないんだろうな…って、私に原因があるのかな……」
彼は静かに話を聞いてくれたあと、少し考えるような顔をしてから口を開いた。
「うちの弟がごめんね。大丈夫、きっと一颯も疲れてるだけだと思うな。それに玲那ちゃんは何も悪くないよ」
その目は真剣そのもので、思わずドキッとするほどだった。
しかし、次の言葉に耳を疑った
「ただ、一颯がそんなならさ、玲那ちゃん…僕の奥さんにならない?」
一瞬、何を言っているのか理解できなかった。
しかし、その意味を理解すると同時に顔が熱くなるのを感じた。
和くんはそんな私を見てくすりと笑い、続けるようにして言う。
「実は僕もね、玲那ちゃんのこと中学のときから好きだったんだよ。玲那ちゃんが僕のこと好きだったことも、知ってた。まあ一颯が玲那ちゃんに恋してるの知って諦めたんだけどね」
「え…っ?」
「…玲那ちゃんは今も昔も、一颯が本命?」
まるで悪戯っ子のような笑みを浮かべる彼に、心をかき乱される。
「……っ」
そこでハッと我に返った私は慌てて否定するように言った。
「昔は、正直に言えば和くんのこと気になってたよ、でも今は…一颯くんがいるから……っ」
すると彼は苦笑いするような表情で言う。
「フフ、ごめん。分かってるよ」
本当に、昔から変わらない。
そうやっていつも私の心を弄ぶ。
すると、突然手を握られた。
ぐいっと顔を近づけられたかと思うと、握られた手の甲にキスを落とされた。
その瞬間、全身が熱くなるのを感じた。
思わず後退ろうとしたが、熱い視線を向けられ手を強く握られては不可能であった。
そんな私に構うことなく彼は言う。
「でもさ、双子なんだし、一緒にデートしたって周りはそう簡単に気づけないよ。ねえ、玲那ちゃん、一颯にはナイショで僕と付き合わない?」
「だ、だってそれって浮気…不倫をするってことでしょ?!…そ、そんなこと……!」
「好きなのに相手はえっちもキスもしてくれない。そんな男より、僕を選んでよ。僕なら絶対にそんな思い、させないよ」
私はどうしたらいいのか分からず混乱していると、和くんは私の手を離して言った。
「迷ってる?いいよ、またLINEで答え教えてよ。待ってるからさ」
そして何事もなかったかのように伝票を持って立ち上がる彼に、呆然としながら着いていく。
慌てて財布を出そうとすると、ここは俺が出すからいいよと、スマホを取りだしキャッシュ決済で会計を速やかに済ませた。
その真摯さに思わずキュンとしてしまった。
「今日は会えてよかった、ありがとね。いい返事が聞けること、期待してる。それじゃ」
──その夜、一人ベッドに入ったもの、なかなか寝付けず何度も寝返りを打っていた。
明らかに、和くんの影響だろう。
思い出すだけで胸が高鳴り、頬が熱くなるのを感じた。
ダブルベッドで一人、隣には大きな空き、一颯くんは今日もまた残業らしい。
ここ最近ずっとだ
本当に私に、飽きちゃったのかな…だったらもういっそのこと……
そんなことを考えているうちにいつの間にか眠ってしまっていたようで、翌朝起きると一颯くんがすでに起きていた。
どうやら珍しく朝食を作ってくれたようで、起きたばかりでまだ眠たい目を擦っていると、眠気を覚ますように目玉焼きやウインナーの香ばしい匂いが鼻をぬけていく。
「出勤前なのに、朝ごはん作ってくれたんだ、しかも私の好きな目玉焼き…!すごく美味しそう」
言うと、彼は笑顔で答える。
「たまにはね」
彼が料理をするなんて、2年ぶりか。
それは、残業続きでなにも夫婦の時間を作れていないことに対する申し訳なさを込めたご機嫌取りなのか
それとも、なにか別の理由で、後ろめたさを隠すために私のご機嫌取りをしようとしているのではないか、なんて考えてしまう。
玄関で彼を見送ると、私はリビングに戻りスマートフォンを手にするとLINEを開く。
ふと和くんの言葉を思い出したからだ。
『一颯にはナイショで僕と付き合わない?
──またLINEで答え教えてよ、待ってるからさ』
脳内で繰り返されるあのときの和くんの言葉、私は意を決して和くんのトーク画面に移動するも、中々指が動かない。
(レスだからって、夫がいることに変わりは無い、ここでOKしてしまえば不倫は避けられない)
そんなことを考えていると、ポンっとメッセージが送信されたような音がし、画面に目を向けると、和くんから《今から会えたりする?》というメッセージが届いていた。ずっと和くんの画面を開きっぱなしだったので、すぐに既読をつけてしまった。
やば、と思いすぐに返信しようとすると、またポンっと。
《既読早くてびっくり、もしかして同じタイミングでLINEしようとしてくれたのかな?嬉しい》
それに対し、一昨日の返事を送ろうとしていたということを伝えると
《それなら今からそっち行ってもいい?》
そっちって、まさか家…?
嫌な予感がして《そっちって?》と素直に聞き返すと
《そりゃあ、一颯と玲那ちゃんが住んでる家だよ》
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