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案の定、聞くまでもなかった。
《だって今、一颯は仕事でしょ?なら二人きりで話が出来る》
かりにも和くんは一颯のお兄さんで、二人とも私の幼馴染だ。
一颯くんがいないからといって、そんなの、ダメに決まってる。
なのに、私の指は気づけば和くんの返事に対して《話をするだけだからね、そこで私の答えも聞いて》と送信していた。
それから10分ほどでインターホンが鳴り、玄関のドアを開けると、秋の風が少し冷たく感じられたのと同時に、彼は秋らしいカジュアルでありながらシックなコーデに身を包んで現れた。
ブラウンのカシミヤコートを軽やかに羽織り、中には薄手のタートルネックセーターを合わせて、控えめなエレガンスを漂わせている。
カラーはシンプルにアイボリーで統一されており、全体的に落ち着いたトーンながらも柔らかな雰囲気を演出。
ボトムスは、シルエットの美しいスリムフィットの黒いウールスラックス、足元にはクラシックな黒のハイヒールビットローファーが光る。
腕には高級感のあるレザーの腕時計がさりげなく存在感を放ち、彼の大人の魅力を引き立てている。
首元に軽く巻かれたネイビーのカシミヤマフラーがアクセントとなり、全体を引き締めながらも暖かみを加えている。
彼の姿からは、余裕と知性、そして落ち着いた自信が感じられ、この人を前にして感情の揺れない女性はいないと思う。
ただでさえ、双子ということで夫と同じ顔をしているというだけでも別の意味でドキッとしてしまうのに。
私は玄関口で和くんを迎え入れると、寒かったでしょ、と彼をリビングまで招き入れる。
和くんはリビングにつくなり、コートを脱ぐ和くんのタイミングを見計らってハンガーを渡す。
コートを脱いだことによりタートルネック全体が露わになると、体のラインがよく分かる。
しっかりとした男のカラダだ。
「今、お茶入れるから、適当に座ってて」
私は紅茶を淹れるためにキッチンへ入る。
双子だし好みはそんな別れていなかったはず、と思って一颯の好きなダージリンのセカンドフラッシュでいいかな、なんて思いながら紅茶をミストラルのカップに淹れていく。
このカップは一颯くんと結婚して1年のお祝いにプレゼントしてくれたもの、今は全く使っておらず、棚の奥にしまっていた。
いざそれを取り出して紅茶を淹れてみると、あの頃の楽しかった思い出が浮かび上がってきて、どうにも泣きそうになってしまう。
(昔は、わたしが紅茶を淹れていると、玲那の淹れる紅茶が一番美味しいよ、俺にも教えてほしいなとか言ってくれたのにな。)
そんなことを考えていたからか、気配に気付かず、気がつくと和くんに後ろから抱きしめられていた。
「かっ、和く…?!いつの間に……」
「玲那が悲しそうな顔してたから、慰めてあげなきゃなって思って」
そのまま和くんの指が私の顎に触れるとクイッと持ち上げられ、和くんのことなので無理やりキスされるのかと思いきや
唇は重なることなく、代わりに耳元で囁かれた。
「僕なら玲那ちゃんをずっと愛してあげられる。セックスもデートも記念日も最高のものにしてあげられる自信があるんだ」
「…っ」
「私は今日、そんな言葉を聞きたくて和くんを呼んだんじゃないよ、誘いを断るために…」
言い終わる前に、柔らかい感触に口を塞がれた。
「玲那ちゃん…っ」
「やだ、やめて!なにするの…っ!!」
私は抵抗しようとするが力が入らない。
和くんは一瞬私を離したかと思えば、今度は手首を掴まれ、後ろの冷蔵庫に私の両手を押さえつけて強引に唇を重ねてきた。
「んん……!んふぅっ……!」
舌を入れられ、口内を犯される。
「やぁ……っ!やめ……んっ……!だめ……!」
(なんでキスするの……私が好きなのは一颯くんなのに……!!)
そのとき、なんとか口を離し精一杯の力で彼を突き飛ばした。
油断していたのか、さっきとは違い容易く対象から離れることに成功した。
「はぁ……っ、はぁ……、」
酸素を求めて息を吐く。
すると、和くんはそんな私に追い打ちをかけるように言葉を放つ。
「玲那ちゃんはさ、一颯にもう愛されてないよ」
「は……、?」
「一颯に愛されてないから、一颯と同じ顔の僕と関係持ったって変わらないでしょ?」
「そんなはずない……!だって私たちは愛し合ってるから……!」
私はいつの間にか泣いていた。
どうしてそんなことを言うの……
和くんは私の味方じゃなかったの……?
もう一颯くんに愛されてない?そんなわけない。
信じてる、ずっと信じて待ってるの。
でもおかしい、信じたいのに……
なのに、胸の中でどこかそれを受け止めている自分がいたのも事実だった。
「ごめん…泣かせたくて言ってるんじゃないんだ、ただ、玲那ちゃんと付き合えてるくせに寂しい思いをさせる一颯が許せないって僕のエゴ」
「僕は、玲那ちゃんのこと中学の頃から今までずっと好きだった。忘れようにも忘れられなかった……そんなとき、君と再会して、一颯と上手く行ってないの知ってさ、もう神の御加護かと思うぐらい嬉しくて、チャンスだと思ったんだ」