テラーノベル
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「……暇だな」
ぽつりとつぶやいたのはテヒョンだった。
高級リゾートのようなファミリーの別荘に集められた7人の男たち。
悪魔は暇を嫌っている、そんな中数日の“平穏”は、男たちにとって苦痛だった。
「任務もねえし、女も飽きた。さすがに退屈だろ」
ユンギがため息混じりに呟くと、ジミンがソファの上で伸びながら笑う。
「退屈するくらいが平和ってことだよ。……ま、それもたまには悪くないんじゃない?」
「湖でも見に行かないですか?」
ジョングクがぽつりと呟いた。
その声に、全員の視線が集まる。
「……湖?」
「この別荘の裏の森、抜けた先にあるらしいです。地図で見ました。誰も行かない静かな場所……俺、行ってみたい」
「珍しいね、お前が一人でどこか行きたがるなんて」
ジンが微笑みながら立ち上がった。
「じゃあ皆で行こうか。せっかくだし」
•
森を抜けた先、静寂に包まれた湖に彼らはたどり着いた。
風が止み、空が映りこむ鏡のような水面。
人工の音ひとつないその場所は、時間すら止まっているようだった。
「……綺麗だな」
ジョングクが息を呑んで立ち尽くす。
その視線の先に──ひとりの少女がいた。
•
長い薄金の髪が風に揺れ、水面を滑るように舞う白いワンピース。
背中からは、柔らかな光を放つ大きな“翼”が伸びていた。
まるで神話から抜け出したようなその存在に、全員が声を失った。
「……天使……?」
ジンが呆然と呟く。
「……いや、違う。そんなもの、いるわけ──」
「俺、見つけたのかな……」
ジョングクが一歩前へと進み出る。
その表情は、いつもの冷静さとはまるで違っていた。
「……彼女を、離したくない」
その言葉に、誰も異を唱えなかった。
ただ全員が、ミンジュの姿に心を奪われていた。
•
木陰に気づいたミンジュが、振り返った。
ジョングクと目が合う。
──その瞬間、世界が動いた。
彼女の表情に浮かんだ警戒と恐怖。
翼をたたみ、逃げようとする動き。
「……逃げないで」
ジョングクが呟いたその瞬間、彼は湖に走り出していた。
「待ってッ、──!」
ミンジュは飛び上がるようにして水面から離れようとした。
だが、ジョングクの手が先に彼女の手首を掴む。
「ごめん。でも、行かせない。……お願い、ここにいて」
•
その日から、全てが変わった。
退屈だった日々に終わりが告げられ、
7人の男たちにとっての“運命”が始まった。
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