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#怪異
阿炎快空
123
リユ
232
#ダークファンタジー
阿炎快空
82
阿炎快空
111
鍵を閉めると同時に、それまで存在していたドアが、ふっと消滅した。 無機質なコンクリートの壁を前に、僕らはへなへなと地面に崩れ落ちた。
「今度こそ、死ぬかと思った……」
息を整えつつ、新たな部屋を見渡す。
つくりは先ほどの部屋と一緒だが、今度は何一つ物を置いていない。
だだっ広いだけの、がらんとした空間だ。
部屋の奥にはやはり出口があったが、扉は設置されておらず、上へと昇る階段が見えた。
危険な気配も特にない。
「にしても、いつの間にあんな力を使えるようになったの?」
僕が尋ねると、由宇は、
「いや、ホントに偶然っていうか——とにかく、必死だったから」
と、照れた様に笑った。
一方の蒼梧は、
「確かに、さっきまでと比べて存在感が増した気はするな。今の椎名だったら、気合いをいれれば殴れそうだ」
と物騒なことを口にした。
(由宇がギョッとして、僅かに身を引いた)
「まあいいや——考えるのは後だ」
蒼梧がスマホを取り出し、時間を確認する。
「あと二十分だ。行こう」
蒼梧の言う通りだ。
僕は必要のなくなった鍵をポイと捨てると、よしっ、と言って立ち上がった。
そのまま、奥の階段へと向けて歩き出した僕らだったが——部屋のちょうど中央あたりで、僕は足を止めた。
先を歩いていた蒼梧と由宇が、何事かと僕を振り返る。
「どうしたの?」
尋ねる由宇に、僕は歯切れ悪く答えた。
「いや……何ていうか、このまま、この部屋を通り過ぎちゃ駄目な気がする、っていうか」
「あの出口は罠ってこと?」
「ううん、別に、あの先に危険があるわけじゃないんだけど……ただ、その……」
駄目だ、上手く言えない。
僕はそれ以上の説明を諦め、後方を振り返った。
部屋の隅——僕らから見て右手の角のあたりをじっと見つめる。
「あの辺が気になるのか?」
蒼梧の言葉に、僕は躊躇いがちに頷いた。
確証はない。
こうしている間にも、残り時間は減っていく。
しかし——
「ごめん。ちょっとだけ待って」
僕は左目を左の掌で覆うと、もう片方の右目で、部屋の隅をじっと見つめた。
先に述べた通り、僕は小学六年の春休みに自動車事故にあった。
入院中は、夜中に不気味な笑い声や足音を聴いたり、金縛りにあったりと不可思議な経験もしていたが、退院して暫くはそうしたこともなかった。
しかし、ほっとしたのも束の間——休み明けのある日のことだ。
僕は学校で行われた健康診断で、視力検査を受けていた。
昔から、目は良かった。
親が読み取れないような遠くの看板の文字なども、はっきり認識することができた。
しかし、その日は違った。
例年の様に、僕は黒いスプーンのようなもので片目を隠し、指定された円のどの部分に切れ目があるかを指で示していった。
左目は特に問題なかった。
問題は右目だ。
検査表の前に、黒い点のようなものが、幾つも漂っていた。
少し前に、ボクシング漫画で知った「飛蚊症」という奴だろうか?
「わからないかな?」
「あ、ちょっと待ってください——」
医者の言葉に焦りながらも、点の集合に目を凝らす。
すると、それらは徐々に増殖していき——やがて、人の形を形成した。
驚きのあまり棒立ちになる僕に向かって、その人影は一歩一歩、ゆっくりと歩み寄ってきた。
医者が何かを言っている気もするが、体が動かない。
僕のすぐ眼前まで、真っ黒な顔が近づく。
そして。
——ネエ、ミエテルノオ?
それは男か女か、年寄りか子供かも判別不能な、奇妙な声でそう言った。
僕は悲鳴をあげ、その場に尻餅をついた。
落ち着くまで保健室のベッドで休んだ後、結局、その日は早退することになった。
おかげで残りの検査は後日、地元の病院で受けることとなったのだが——それはともかく。
気配や視線を感じても、何の姿も視えない時。
右目だけで注視すると、普段は見逃してしまうような、存在が儚かったり、姿を隠しているような怪異の姿を見つけることができた。
ちなみにだが。
右目だけで鏡を覗き込むと、僕の右目はぼんやりとした黒い靄に覆われているように見える。
一応、蒼梧にも確認してもらったが、やはりその靄は他人には視認できないようだった。
基本的に、この方法を使わねば視えない様な者達に害はないし、進んで見たいものでもない。
だから、この体質に頼ることは殆どなかった。
しかし——
暫く見つめても、部屋の隅には何も見えてこなかった。
やはり気のせいだったか?
いや——
僕は左目を隠したまま、隅に向かって歩き出した。
瞬きをなるべくしないようにしながら、姿を潜めているものと、必死に〝波長〟を合わせようとする。
やがて、角まであと数メートルという位置まで近づいた時——ぼんやりとした〝それ〟の輪郭を、右目が捉えた。
「やっぱり……!」
足を止め、徐々に像を結び始めた〝それ〟を、まじまじと見つめる。
「何か見えたのか?」
隣に並んだ蒼梧が、僕に尋ねた。
僕は頷き、そっと左目を覆っていた手を下ろした。
経験上、一度見えてしまえば、しばらくは見失う心配はない。
「何となく気になってたんだ。ビルの前での、魔女の言葉が」
——生者の肉体は目に見えるし、話もできる。反対に、死者の魂は目に見えないし、話もできない。そんな宇宙の摂理を、アタシの魔法で反転させたのさ。その小娘に魔法をかけてね。
「摂理の反転——魔女はそう言った。だから、もしかしたらって思ったんだ。由宇の魂が認識できるようになった代わりに、体の方は認識できなくなってるんじゃないか、って」
僕の右目には、部屋の隅に無表情で立ち尽くす、半透明な由宇の姿が映っていた。
コメント
1件
うわ、めっちゃゾクッときた…!伏線の回収の仕方が上手すぎる。「摂理の反転」って魔女の言葉がまさかこんな形で生きてくるとは思わなかった。由宇が隣にいるのに、魂だけ離れて立ってるっていうビジュアルが鮮明に浮かんで鳥肌立ったわ。主人公の右目がただの特殊能力じゃなくて、事故の後遺症とちゃんと紐づいてるのも好き。あと二十分のタイムリミットの中で、直感を信じて足を止める決断もカッコいい。この先どうなるのかマジで気になる🔥