「帰って来てやったんだ。嬉しいだろ? 奉仕しろ」
帰宅後すぐに夫は美晴の身体を求めてきた。そんな気分にはなれないが、断ると後が大変だ。まったく感じない愛撫に感じるふりをするのも苦労するが、こちらの都合や気持ちはお構いなしに夫は精を放ってくる。
乱暴な営みだったが子供を授かるために耐えた。苦痛な行為でもやらなければ妊娠しない。下手な鉄砲ではないが、回数を増やすしか今の自分にはチャンスがないような気がして美晴は精いっぱい幹雄に奉仕することに努めた。
すると、あまり帰ってこなかった夫が満足したように毎日帰って来て美晴を乱暴に抱いた。
しかしそれも一か月ほどで飽きられてしまい、次第に幹雄の好物を並べた夕飯を用意しても、奉仕を促しても、帰ってこない日常へと戻っていった。
(どうすればいいのかな…)
以前は肌つやの良かったハリのある肌も年齢とともにきめ細やかさを失ってゆき、さらに毎日虐げられていては笑顔も忘れてしまう。もともと細身の彼女はあまり食事ができなくなり、ついに食べたものを繰り返し吐くことが増えた。気持ち悪く体調不良が続いている。
どんなに辛くても、養ってもらっている以上は食事の用意を放棄するわけにはいかない。美晴は自分の身体に鞭を打ち、買い物に出かけて幹雄の好物を作った。
「帰ったぞ」
「おかえりなさい」
笑顔で出迎え、幹雄の世話を甲斐甲斐しく焼いた。当然のようにリビングに座り、出されたビールを煽る。ふんぞり返っている夫のために炊き立てのご飯を用意する。白飯の香りで吐き気を催してしまい、手洗いへ駆け込んだ。
「どうした。僕の飯を放置してなにをやっているんだ」
手洗いから戻らない美晴を見に来た幹雄が、彼女の心配よりも自分の夕飯の心配をするような言葉を投げつけた。
「ここのところ体調が悪くて、すぐもどしてしまうんです」
「だからといって仕事放棄するな」
背中をさすって大丈夫かと声をかけることもしてくれない夫に期待はしていないが、こんな状態で夕飯を作れと言う鬼のような男。人の心は無いのだろうか。
「もうしわけ…っ、うっ」
再びもどしてしまった。
「チッ。役立たずだな」
吐き捨てるように言われ、涙が滲んだ。別にわざと体調不良を起こしているわけではないのに、なぜここまで言われなければならないのか。
「…ん、待てよ。美晴、生理は来ているか?」
「そういえば…来ていません」
「それ、つわりじゃないのか?」
夫に言われて気が付いた。美晴の脳裏に妊娠の文字がよぎる。
もしかすると――?
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