「一弥先輩も買い物とかでリフレッシュできるんですね」
「うん。また一緒に買い物とか行こうよ。恭香ちゃんに洋服とか選んでもらったり……。美味しいものも食べたいし」
一弥先輩が、そう言って笑った。
「……」
「また……誘ってもいいかな?」
「か、一弥先輩………あの……」
それ以上、上手く言葉が続かなかった。
「前も言ったけど、僕、断られても恭香ちゃんのこと誘うよ。何度でも」
「……」
そんなこと言わないで……
一弥先輩に何度も誘われたら、そのうち断れなくなってしまうかも知れない。
一弥先輩と一緒にいたら……私はどうなるのだろう。
先輩は友達のつもりでも、私の気持ちは……
ああ、ますます自分が混乱してしまいそうで怖い。
「ごめんね。朝からいろいろ言って。また次も同じチームになれたらいいね」
「こちらこそ……すみません。心配かけてしまって……。私もまた同じチームで、仕事のこと、一弥先輩にいろいろ教えてもらいたいです」
「何でも教えるよ。恭香ちゃんが知りたいと思うこと、何でも……」
「……一弥先輩」
その真剣に見つめる瞳に思わずうっとりしてしまう。
一弥先輩にも男性としての魅力が充分にあって、そこに私は惹かれてしまう。
ズルいよ……
こんなの……
「じゃあ、あっち、行くね。恭香ちゃん、あんまり無理しないように」
「は、はい。ありがとうございます」
「……うん」
何だか無理に笑顔を作っているように見える。
一弥先輩も疲れているのだろうか……
それなのに、私のことを気遣ってくれて本当に優しい。
優し過ぎるよ。
会議や資料作成、今日も慌ただしく1日が過ぎていく。
無理するなと、一弥先輩には優しい言葉をもらったけれど、やはり休んでいる暇はない。
今はただ、がむしゃらに仕事をするだけ。
夕方になり、突然夏希が話しかけてきた。
「恭香、ちょっと来て。話がある」
「ちょっ、どうしたの、夏希。怖い顔して」
「いいから来て」
夏希が私の腕を引っ張って、部屋の外に連れ出した。
誰もいないところを見つけて夏希が話を切り出した。
「恭香」
「だからどうしたのよ、夏希。なんか怖いよ」
「恭香はさ、一弥先輩と付き合ってるの?」
「えっ?」
突然の質問にすごく驚いた。
「恭香が一弥先輩を誘惑したせいで菜々子先輩がフラレて悲しんでるって……。噂になっちゃってるよ」
そんな……
どうしてそんなこと……
私が一弥先輩を誘惑するはずがない。
確かに二人が別れたことは聞いたけれど、その原因が私だなんて意味がわからない。
「ちょっと待って。私、そんなことしてないよ。一弥先輩を誘惑するなんて、そんなことしないから」
私は、首を横に何度も振って夏希に否定した。
どうしてそんな噂が流れてしまったのか?
「……だよね。うん、わかってる。恭香はそんなことしないよね」
「当たり前だよ。それに、男性を誘惑するなんて、私にはそんな魅力なんかないし、私が菜々子先輩に勝てるわけもない。おかしいよ、そんなの」
「恭香に魅力がないとは思わないけど、だけど、今はそれを誰が言いふらしてるかだよ。そんな嘘を言いふらして何の得があるの?」
「……私を陥れたい?」
「だと思う。恭香の評判を落としたいのかも知れないよね。まあ……だとすれば、誰だかだいたいの検討はつくよね」
「……」
もしかして梨花ちゃん……
ごめんね……最初に疑ってしまった。
それが、今の私の梨花ちゃんに対する信頼度なんだろう。
「とにかく、恭香が変な噂立てられたままで黙ってられないよ。私、言ってあげようか?」
「えっ……あ、ありがとう。でも、大丈夫だよ。夏希が信じてくれたら、それが本当に力になる。どうしてそんな酷い嘘をついたのか、私が自分で聞いてみるから」
「……うん、わかった。それがいいよ。本当、梨花ちゃんなんかに負けちゃダメだからね」
「夏希……。私も同じことを思ってた」
「……だよね、きっと」