――最初に〝この子だ〟と思った子に出会えたのは、高校一年の春だった。
同じクラスになった、誰とでも明るく話せる女の子。
屈託なく笑うその顔を見た瞬間、僕は確信した。
この子は、僕のものになる。
自信はあった。
だって、僕はいつだって〝優等生〟だったから。
優しく、誠実に接すれば、誰だって心を開く。僕に惹かれないはずがない。
最初はうまくいっていると思っていた。
彼女はよく笑ったし、僕の誘いも断らなかった。
でも――気が付けば、彼女は僕以外の誰にでも、同じように微笑んでいた。
それが、許せなかった。
僕は焦った。
彼女が他の男子と親しげに話すたび、彼女の心が僕から遠ざかっていくようで、怖くて、切なくて、苦しくて……。
気が付けば僕は彼女のことを〝独り占め〟しようとしていた。
毎日数十分おきにメッセージを送った。
他の男の話をしたら、機嫌を悪くした。
心配だから、気になることがあれば「大丈夫?」としつこいくらいに電話をかけた。
その結果が――
「……重い」
吐き捨てるような、彼女の言葉だった。
ああ、そうか。
ただ欲しがるだけじゃ、人は手に入らないんだ。
僕は、そのとき初めて知った。
だから、学んだんだ。
ただ優しくするだけじゃダメ。
愛想よく笑いかけるだけでも足りない。
きっと、〝優しさ〟という名の首輪で、〝信頼〟という名の檻に閉じ込めて、少しずつ、少しずつ、逃げられないように縛っていくのが正解に違いない。
そうすれば、相手は自分から僕を求める。
次に好きな子ができたら……今度こそ、僕は絶対に失敗しない。そう心に誓ったのを思い出す。
ねえ、沙良。
君には、ちゃんと気づかせてあげるよ。
君が僕のものになるしかないってことに。
――ありがとう。
僕の人生に現れてくれて。
君が僕のものになる未来は、もう始まっているんだ。
これから少しずつ、僕に依存させてあげる。
楽しみにしていてね?
【END】2025/07/20
コメント
1件