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「では、お皿下げちゃいますね」
玲奈は美蘭の皿を掴み、自分のものの上に重ねようとする。
「いえ、自分でやりますので大丈夫ですよ」
私が言うと、彼女は何も言わずに自分の皿だけを流し台へ置いた。その無言の背は私への宣戦布告。いや、私の宣戦布告への返答だろうか。
私は忘れていた。彼女だって元となる原動力は私と同じ、彼への愛。敵でありながら、私たちは同志なのだ。
この戦いは一晩程度で終われるほど甘くは無い。私の認識があまかった。たとえ、晃一へ離婚や社会的信頼の剥奪という復讐をしようと、彼女がいるならば何も復讐としては、機能しない。
この手に愛さえあれば、人は幸福なのだ。それがいかなる境遇であろうと。
――いや、違うな。これは果たして、争いなのだろうか。なぜ私はこの女を憎く思う。テーブルを拭く、その姿が重なる。私と彼女は何が違う。結果としての部分は全くもって別。しかし、その本質にある想いには何も差異は見られない。
「……美蘭さん」
彼女が呟く。
「もしかして……『なぜ争っているのか』なんて考えてます?」
反論しようと口を開く。しかし出てきたのは僅かな息ばかりだった。
感情的になっていた肉体が、突如として起き上がる。私の勘ぐりが全力で注げているのだ。何かがマズイ。この女はマズイ。この状況に適切な言葉が脳に浮かばないほどに、寒気と熱が同時に私を襲っている。
そんな時に何が私の衝動と化したか。それは吐き気であった。不安が最頂上へ達し、先程まで食っていた彼女の手料理が歪な何かに思えたからだ。喉に手を突っ込んででも良いから 、今すぐに取り出したい思いで溢れている。
心臓が痛い。晃一に殴られたあの時よりも、いつよりも、私はこの命に危機を覚えている。マズイ。マズイ。マズイ。
防弾ガラスの向こう、高月玲奈。あの時、私があなたをバカにしていなければ、自滅を予想する事も無かったというのに。彼女はずっと前から理解し、演じていたのだ。
窮地に思えた、先程まで泥水を啜っていた女は、魔女のように笑う。
世界揺らす爆音が、盛大なる暴風が、すぐそこまで迫ってきていた。あの、彼女を超え、この壁すらもぶち壊し、私を殺すのであろう光は何だ。
鷹か? 戦闘機か? 英雄か?
否、ミサイルだ。