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#ダンジョン
#ファンタジー
ポーラとの確執はあるものの平穏な日々が続いた、ある日の昼下がり。
今日は休日なのでヒルはランナと二人で自室で寛いでいる。
休日はいつもランナと一緒に外出したがるヒルであったが、今日は違う気分らしい。
「なぁ、ランナ。休日のデートもいいけどさ、たまにはランナと一緒に寝たい」
「へ?」
リビングのテーブルに座って食後の紅茶を飲んでいたランナは、ティーカップに口を付けたままで変な声を出した。
ヨルとは違って純情という言葉が似合うヒルは、今までキス以上の願望を口にする事はなかったのに。
「ちょっとヒルくん、何言ってるの? 変なものでも食べてさらにバカになったの? 寝るって、まだ昼間だよ」
「今日もすげー毒舌だな……」
ヒルの愛のおかげで毒薬を調合できるようになったランナは、自身の毒舌の能力も高まっていた。
大胆な要望を口にした割には、ヒルの顔は無邪気で小動物のように可愛らしい。
「いや、だってオレたち、夫婦なのに夜も一緒に寝れないじゃん?」
「まぁね、夜はヨル様になっちゃうし」
「だからさ、一緒に昼寝しよう」
これでもヒルは22歳の男だ。昼寝と言うと聞こえはいいが、要はランナと初夜を迎えたい。いや、夜は不可能なので初昼とでも言うのか。
不思議とランナは拒否する気にならない。本当にヒルの呪いが効き始めたのかもしれない。
(夫婦なんだから当然……だよね?)
ランナは左手の薬指で輝く金の指輪を見て自分に問いかける。夫婦とか指輪とか呪いは関係ない。ランナはヒルと向かい合うと素直な気持ちになれる。
(私は、ヒルくんが……)
その続きを心で飲み込むと、ランナは頬を赤らめて笑顔で返す。
「うん、いいよ」
いつもは一人で寝ていたキングザイズのベッドが今は少し狭く感じられる。
カーテンは閉めていても正午過ぎの部屋は明るくて、ヒルの金の髪も素肌の色も明るく輝いて見える。
「ランナ、愛してる。愛してる」
ヒルはランナの耳元で何度も何度も愛を囁く。まるで呪いの呪文のように。ランナの身も心も愛という呪いで支配されていく。
二人で肌を重ねる事が、こんなにも熱くて幸せだなんて初めて知った。
「オレたち、やっと夫婦になれた感じだな」
ヒルの腕枕に頭を預けているランナは小さく頷く。ヒルの腕がこんなにも逞しくて頼もしいのも初めて知った。
ランナは涙を浮かべながら瞳を閉じて愛を感じ取る。ヒルの胸の中に埋めている身体が火照りと悦びで満たされている。
「私、ヒルくんが好き」
「へへ、嬉しいな。でもまぁ当然だな」
「……バカ」
ランナの金色の長い髪を撫でたり指に絡めたりしていたヒルは、上半身を少し起こすと両肘をついて覆いかぶさる。
改めて視界に飛び込むヒルの鎖骨や胸筋のラインの美しさに見惚れてしまう。ランナは今さら赤面して身体まで再熱してしまう。
さらに唇を接近させたヒルはランナの耳たぶを甘噛みした。耳元に吐息がかかり愛を囁くと思ったのだが。
「なぁ、ランナ。そろそろいいだろ。作ってくれよ、薬」
「……え?」
夢見心地だったランナの意識が現実に戻る。ヒルの口から紡がれたのは愛の言葉ではなく、悪魔の残酷な願望だった。
「オレはこんなにもランナを愛してる。これでランナの聖力は最大まで高まっただろ」
「やめて……」
「なぁランナ、頼むよ。アサとヨルを殺すための薬を……」
「やめて、やめて!!」
ランナはヒルの体を押し退けて横に逃れた。ランナが目を背けたい現実、それはヒルの愛が目的のための仮初めであるという事。
それが涙が出るほどに辛く悲しいと感じる事で、ランナは本当にヒルを愛しているのだと自覚した。
「どうして殺す事ばかり考えるの? 他の方法を考えないの? 私は……私の薬は、殺すための道具じゃない!」
「あぁ、ごめん、ランナ。でも信じてくれ、オレはランナを本気で愛してる」
ヒルはランナの涙を指で拭うと、乾きかけた唇に柔らかく口付けて潤いを与える。互いの両手を重ねて指を絡めると指先まで熱くなる。
(ヒルくんは本当に悪魔みたいに……ずるい……)
その温もりと安心感にランナは自然と瞼を閉じて、やがて眠ってしまった。
それから数日後の朝。今朝もランナは一人で起床してドレスに着替える。
あくびをしながらリビングに行くと、いつものようにメイドのカレンがランナを待って立っている。
ランナはいつも思うが、カレンがいつ部屋に入って来たのか分からない。ランナが起きるまでずっと無表情でリビングで立っているのだろうか。
そんなミステリアスな黒髪ボブの20歳のメイドは、今日も丁寧なお辞儀をして挨拶から始める。
「おはようございます。アサ様からお言付けがございます。大事な話があるので、朝の城まで来てほしいとの事です」
「大事な話? また朝食を一緒に、とかじゃなくて?」
「ポーラ様もお呼びするように言われておりますので、深刻な話かと思われます」
三人の王妃が全員アサの元へと呼ばれた事になる。今は朝なのでモニカは朝の城から移動できない。必然的に朝の城に集まる事になる。
そうしてカレンの案内で向かった先は朝の城の会議室だった。室内は白い長テーブルと椅子があるのみで、すでにアサとモニカが並んで着席していた。
アサはランナの姿を見ると片手を差し出して正面の席に座るように促す。
「ランナさん、おはようございます。朝早くにすみません」
ランナが着席すると、続いてポーラも会議室に入ってくる。同じようにアサに正面に座るように言われたのでランナの隣に座る。
この白い部屋では、長い髪も瞳もドレスも全てが漆黒のポーラの色は際立つ。ランナが横目でポーラを見ると無表情で前を向いている。
(姉さんが隣に……なんだか気まずい)
カレンはすでに退室したので、会議室にはアサと三人の王妃のみになった。よほど重要な話だと思われるが、良い内容なのか悪い内容なのか予想ができない。
よく見るとアサの前には白い封筒が置かれている。アサはそれを手に持って正面のランナとポーラに掲げて見せる。
「この書状は今朝届きました。レッドリア国のファイア陛下からの正式な文書です」
緊張して背筋を伸ばしていたランナは、ファイアの名を聞いて思わずアサの発言の途中で口を挟む。
「ファイア様、お元気でしょうか!? ご体調については書かれていましたか?」
「はい。病は全快して王位に復帰なさったとの事です」
「よかった……! わざわざ感謝状を下さるなんて律儀ですね!」
ランナはようやく肩の力を抜く。話とはこの事だったのかと安堵の笑みが溢れるが、隣のポーラは微笑みもせずにアサに確認する。
「アサ様。それは感謝状ではないのでしょう?」
「はい。これは果たし状です。ファイア陛下からの宣戦布告です」
「え……?」
まさかの事態に、ランナはその言葉の意味が理解できなかった。
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