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レッドリア国のファイア陛下から感謝はされても、嫌われる原因なんて思いつかない。
正直、ランナは何が起こったのか分からない。
「え、あの、私……ファイア様からも、ルアージュ様からも感謝されたと思うんですけど……なんで?」
ランナの声は頼りなく震えている。正面のアサは怒っている訳ではないが、ため息だけをついた。
「陛下のご病気と宣戦布告は別の話です」
「え、でも、ファイア様って平和主義なんじゃ……」
「はい。ですが、それ以上に娘主義なのです。ルアージュさんを弄んだヨルが許せないのでしょうね」
そういえばファイアはルアージュを溺愛している。結局はファイアが国王に復帰しても争いは免れなかった。
恐ろしくて直視できないが、確実に隣のポーラはランナを睨みつけている。突き刺さる視線が痛い。
「……あんた、レッドリア国に何しに行ってたのよ」
そのポーラの口調も冷たく心に刺さる。そもそもルアージュがヨルを刺したのに、なぜルアージュばかりが被害者なのか。
それに根本的な原因はヨルの聖女遊びにあるのだが、それは何を言ったとしても直らない。
アサは、こんな時でも朝日のような爽やかな微笑みでランナを安心させようとする。
「分かってますよ。ランナさんのせいじゃありません。しかし和平の条件としてヨルの謝罪を求めています」
「そんなの絶対に無理じゃないですかぁ……」
「はい、だから僕が和平に尽力します。おそらく宣戦布告は脅しですが、国交が正常に戻るまでは警戒を続けます」
それを聞いたランナは別の部分で心に落胆を感じた。レッドリアは両親の母国である。
レッドリアに行けなければ、両親の死の真相の手掛かりを得る手段がなくなってしまう気がした。
アサの隣に座るモニカは、ランナが責任を感じて落ち込んでいると思って優しく微笑む。
「私も第一王妃としてアサ様と一緒に掛け合いますわ。母国のレッドリアに行けないのは悲しいですもの」
アサとモニカは表面的には天使のような夫婦なので外交には向いている。そこでランナは、ふと疑問に思った。
(両親、母国……そういえば、ヴァクト陛下の両親って?)
ジョルノ国の先代の王と王妃の話は一度も聞いた事がない。王位を譲って隠居したのかもしれないが、結婚式にも来なかった。
この際なので、アサに聞いてみる事にした。
「あの、そういえば、アサ様のご両親は今どちらに?」
ランナのその質問を耳にすると同時にアサとモニカから笑顔が消えた。この反応で見当がついてしまう。
「両親はだいぶ前に亡くなっています。僕が王位に就いたのは6歳でした」
ランナと同様、ヴァクト陛下も両親を亡くしていた。表情を曇らせたランナだったが、ある事に気付いた。
(アサ様が6歳の時? 私が3歳の時だから……父さんと母さんが失踪した頃だ)
偶然とは思えなくて強い胸騒ぎがする。レッドリア国出身の両親と、ジョルノ国のヴァクト陛下には繋がりがある気がする。
ヨルはランナの両親に会った事があると言っていた。ヒルは何も知らないらしいから仕方ない。
(アサ様とヨル様の記憶を繋げれば真実が見えてくるかも?)
二人が真実を語るかどうかは分からない。それでも真実の先に三人格の争いを解決する方法も見つかるかもしれない。
そう思い立ったランナは、急にテーブルに両手をつくと腰を上げて前のめりになる。
「アサ様! 私、アサ様と二人きりでお話がしたいです。もっとアサ様の事を知りたいんです!」
「いいですよ。では早速、行きましょう」
「え? 行く?」
ランナとしては人払いをしてくれるだけでも、別の機会を設けてくれるだけでも良かった。
アサも腰を上げると、隣のモニカに笑顔で告げる。
「デートに誘われたので、出かけてきます。モニカさん、お留守番は頼みました」
「はい、アサ様。行ってらっしゃいませ」
その会話は冗談なのか、ランナがアサをデートに誘った流れになっている。
呪いで倫理が崩壊しているモニカは、たとえアサがランナと本当にデートしようが何も感じない。
ポーラに至ってはアサとランナが何をしようが全くの無関心。ポーラはヨルにしか興味がない。
会議室を出ると、ランナはアサと二人で馬車に乗って城を出発した。
(本当にアサ様とデートみたいになってる……なんで?)
ランナは馬車の車内で、隣に座る白い貴族服を着た銀髪の貴公子を横目で見る。アサはすぐに爽やかな笑顔を返してくる。
紳士なアサはヨルみたいに押し倒してくる心配はないが、どういう顔をしていいのか分からない。
城下町を進んで僅か数分、馬車が止まったのは小さなカフェの前。屋根は平だが丸太や角材で作られていて外観はログハウスのようだ。
「僕の行きつけのお店です。ここで朝食にしましょう」
先に馬車から降りたアサは、続いて降りようとするランナに手を差し出してエスコートする。やはり紳士だ。
店内に入ると資材の木の香りとコーヒーの香りが程よく調和していて心を落ち着かせてくれる。
今の時刻は朝9時ごろ。客はまばらで、アサとランナは男性店員に窓際の席に案内された。店員はアサと顔馴染みなので国王が来ても驚かない。
四角い木のテーブルに向かい合って座ると、アサは店員にコーヒーとサンドイッチを二人分注文した。
「さて、ランナさん。どうぞ何でもお話ください」
「あ、はい。私の両親とアサ様の両親について、知っている事を教えてほしいんです。ヨル様は私の両親を殺したなんて言ってましたが本当ですか?」
アサは顎に指を添えて考える素振りをした。何かを企んでいる顔にも見えるが、ヨルのように悪人顔ではない。
「なるほど、ヨルが……ある意味、間違いではないですね」
「どういう事なのですか? アサ様は全てを知っているのですか?」
「そうですね、お話しても良いですが……」
アサは悪魔の赤い瞳で天使のように微笑む。今のアサは天使なのか悪魔なのか分からない。
「ランナさんが僕のものになるなら、お話して差し上げます」
今日一番の笑顔で残酷な条件を突きつけるアサは、やっぱり悪魔であった。
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