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夕暮れの校庭
放課後の校庭には、まだ子どもっぽさと大人への憧れが混ざった空気が漂っていた。
陽斗は木陰に座り、足元の落ち葉をいじっている。明るい笑顔の裏に、誰にも見せられない影を抱えているのを、誰も知らなかった。
「おーい、陽斗!」
藤原蒼の声が響く。蒼はいつも通り、前に出るのが得意ではないが、今日は少し勇気を出したようだ。航基も一緒に後ろから歩いてくる。
「遅いぞ、二人とも」
航基は言葉少なに笑った。目立たないけれど、皆のことを見守るような存在だ。
陽斗は顔を上げ、二人を見た。
「ごめん、ちょっと考え事してて…」
いつもの明るさを装う。しかし、言葉の端々に少しだけ疲れが混じっていた。
三人でブランコの前に立ち、交互に押し合う。風に揺れる髪と笑い声。ほんの少しだけ、日常が温かく感じられた。
そこに、西園寺衣が走ってきた。
「待ってー!」
彼女はクラスでも明るく、皆を引っ張る存在。蒼の目が自然と彼女に向いた。
「衣、そんなに走ると危ないよ」
航基が注意する。しかし、衣は笑顔で無視した。
「蒼、あのあと一緒に帰ろうよ」
陽斗の目には、ほんの少し嫉妬にも似たものが浮かんだが、すぐに消した。彼は誰にも負の感情を見せない。
夕日が校庭をオレンジ色に染める。三人、四人の影が長く伸びて、互いの距離を示す。
「明日もここに来ようか」
陽斗が小さく提案する。
「いいね、約束だ」
蒼が頷く。航基も無言で微笑む。衣は元気よく手を振った。
誰も気づかない、ほんの些細な距離の変化。
陽斗の心には、親に言えない寂しさや不安が潜んでいる。それでも、彼はこの時間だけはそれを忘れられる。
航基もまた、自分の感情を押し殺して皆を見守る。蒼は心のどこかで、少しだけ勇気を出してみたいと思っている。衣は、そんな空気を無邪気に明るく照らす。
帰り道、それぞれの足取りは違う。
陽斗は家路につきながら、空を見上げる。明日も、皆で笑えるだろうか。
航基は少しだけ立ち止まり、夕日を見つめる。
蒼は何も言わず、ただ衣の後ろ姿を見つめる。
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