テラーノベル
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「あと、60分だと……?」
志摩の悲鳴に近い通信が、火花を散らす地底の空洞に響き渡る。
予言システムという「舵」を失った組織の巨大な機構は、暴走する防衛本能のままに
癌細胞と見なした新宿を細胞ごと焼き払う「強制焼却」を選択したのだ。
「和貴、どうする!ここから地上に戻るだけでも30分はかかるぞ!」
源蔵が崩れ落ちた守護者の残骸を飛び越えながら叫ぶ。
山城も血の気の引いた顔で俺を見た。地底の試掘坑道は、今や巨大な棺桶に変わろうとしていた。
「……志摩、気化爆弾の投下地点を割り出せ。どこから来る!」
『米軍横田基地から偽装されたドローンが4機、すでに発進した。到達まで残り52分。投下目標は……新宿駅を中心とした半径2キロ、この街のすべてだ!』
地下の住人たち数百人、そして何も知らずに地上の包囲網の中に閉じ込められている一般市民。
すべてが、あと一時間で「なかったこと」にされる。
「兄貴、俺たちがここで死んだら、誰がみんなに逃げろって伝えるんですか! 戻りましょう、今すぐ!」
山城が俺の腕を掴むが、俺は動かなかった。
俺の視線は、火花を吹き、真っ白な紙を吐き出し続けている輪転機の「脳」――
あの液体に満たされたタンクに釘付けになっていた。
「……いや、戻るんじゃねえ。ここから『命令』を書き換える」
「書き換えるって…そんなことできるのかよ?」
源蔵が絶句する。
「志摩!この地底のシステムは地上の公安サーバーと直結してるんだろ?だったら、お前がさっき送り込んだエラーコードを逆流させて、ドローンのターゲットを『新宿』から、別の場所に書き換えられないか」
『……正気か!? 理論上は可能だが、そのためには物理的なロックを解除しなきゃならない』
『あのタンクの内部、脳と直結している神経インターフェースを直接…手動で操作する必要がある。だが、そんなことをすれば、操作する側の脳に膨大なデータが逆流して、無事じゃ済まないぞ!』
「……俺の脳みそなら、親父の代から散々泥水啜って鍛えられてる。多少のノイズじゃ壊れねえよ」
俺は脇差を床に突き立て、不気味に脈動するタンクの前に立った。
「山城、源蔵さん。…二人は先に行け。地下の連中を、できるだけ都庁の地下駐車場、あそこならコンクリートが厚い。そこまで避難させるんだ」
「兄貴!また一人で……!」
「行け!!これは『新宿の野良犬』の、最後の大博打だ!」
俺は山城の胸を突き飛ばし、意を決して
電気信号が走り続けるタンクの接続部へと、自分の左手を深く突き入れた。
「ああああああああああッ!!!」
視界が真っ白に染まる。
一億人分の悲鳴と、数十年分の血の記憶が、俺の意識の中に一気に流れ込んできた。
残された時間は、あと45分。
俺の脳内で、組織の「全歴史」との死闘が始まった。
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