テラーノベル
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「────ッ!!!」
左手から脳髄へと直接突き抜ける、凄まじい衝撃。
それは単なる電気的な痛みではない。
三十年前の親父の怒号、大河内の冷徹な殺意、神崎が積み上げた数式
そして『黒い百合』が葬ってきた数多の犠牲者たちの無念
――そのすべてが、一滴の混じり気もない「情報の濁流」となって俺の意識を蹂躙する。
「兄貴!!」
駆け寄ろうとする山城を、源蔵が必死に羽交い締めで止めている。
「やめろ、山城!今の和貴に触れたら、お前の脳まで焼き切れるぞ!」
視界が明滅する。
赤、青、白。現実の洞窟の景色が消え、俺の脳内には「新宿」という街のグリッドが浮かび上がっていた。
志摩の声が、遠い海の底から聞こえるような感覚で響く。
『……黒嵜、聞こえるか!繋がったぞ、お前の意識が公安のメインフレームに食い込んだ!今、ドローンの照準コードが見えるはずだ。それを…それを書き換えろ!』
「……どれだ…どれが、新宿のコードだ……!」
膨大な文字列の中、赤く点滅する『SHINJUKU-00』の文字。
その背後には、街を焼き払う「焼却」という文字が無機質に並んでいる。
俺は情報の海を掻き分け、その赤い文字を無理やり掴み取ろうとした。
だが、組織の防衛プログラムが「黒い刺」となって俺の意識を刺し貫く。
『警告。未承認のアクセスを検知。精神防壁を強制起動します』
「…がはっ……!」
現実の俺の口から、どす黒い血が溢れ出す。
鼻からも耳からも熱い液体が滴り落ちるが、俺はタンクから手を抜かなかった。
「……舐めるなよ…!俺の街を……俺の生きた証を…勝手にゴミみたいに燃やすんじゃねえ!!」
俺は脳内の「新宿」に、親父が守り、俺が駆け抜けてきたあの汚くて熱い路地裏の記憶を叩きつけた。
計算式にはない人間の情、理屈を超えた意地。
すると、無機質なデジタル空間に、一瞬だけ亀裂が入った。
『照準変更、受付。…代替目標を入力してください』
「志摩……!どこに、どこに逃がせばいい!」
『……洋上だ! 伊豆諸島のさらに先、誰もいない廃島…「X-03地点」へ書き換えろ!』
俺は残った全精神力を指先に込め、架空の座標を打ち込んだ。
【目標変更:新宿全域 ⇒ X-03地点】
カチリ、と脳内で何かが噛み合う音がした。
と同時に、俺の意識は深い闇へと突き落とされた。
「……和貴!!」
源蔵の叫び声が最後に聞こえ、俺の体はタンクから弾き飛ばされた。
残された時間は、あと30分。
空から降る死神の矛先は逸らしたが、俺の命の火が、今にも消えようとしていた。
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