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#追放
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──奈落の底。
何日光を見ていない?
数えることさえ、もう意味を失った。
無機質な鉱物をガリガリかじって、
空腹と孤独だけがどんどん積もっていく。
「……岩、もう美味くねぇ……」
ぼそりと呟きながら、私は歩いた。
足音だけが虚しく響く。
「あー、もうやだ。なんで私がこんな目に……
スーパーの唐揚げ食べたいなぁ……二度揚げでカリッカリのやつ……」
そんなことを考えていると──
ふと、前方が少し明るくなる。
「……光?」
警戒しつつ足を進めると、
壁や天井に薄緑色の苔が淡く光っていた。
闇しかなかった世界に、ようやく微かな光が差し込む。
「おお……! やっと……!」
歩いていると、地面の質感も変わっていることに気がつく。
今までのゴツゴツした岩肌から、少し滑らかな石畳のような感触。
「地形が変わった……?」
そう呟いた瞬間──
何かが背筋を撫でる。
ひんやりとした、嫌な感触。
「……ん? なに、この感じ……」
本能的に上を見上げた瞬間、私の血の気が引いた。
見上げた天井一面、びっしりと広がる銀色の蜘蛛の巣。
「……う、うそ……」
その糸は私の腕よりも太く、
鉄線みたいな硬さと冷たさを感じる。
薄緑の苔の光に照らされて、蜘蛛の巣が不気味に輝いている。
見渡す限り、天井という天井が巣で覆われている。
暗闇で見えなかっただけで、
このフロアは”蜘蛛の巣”そのものだった。
「……いやいやいや……蜘蛛さんかぁ……」
私は無意識に後ずさる。
でも、床にも細い糸が張り巡らされていることに気がつく。
足の裏に、糸の振動が伝わる。
──カチ、カチカチ──
その瞬間。
天井の巣がギシギシと軋み、巣全体が揺れる。
そして──巨大な影が、音もなく降りてくる。
最初に見えたのは脚だった。
黒光りする鉱石のような外殻に覆われた、鋭い刃のような脚。
一本だけでも私の背丈ほどある。
次に、無数の目。
大小様々な黒い目玉が、こちらをじっと見つめている。
そして巨大な腹部。
まん丸で、表面に複雑な模様が浮かんでいる。
──超巨大な蜘蛛が、ゆっくりと地面に降り立った。
その巨大な目が、一斉に私を見つめる。
……
「──キンモォッ……!!!」
心の奥底から吐き捨てる。
カツン……カツン……
巨大蜘蛛の脚が床を叩く。
その一歩一歩で、岩がえぐれる。
「……逃げて暗闇に戻るか……戦うか……」
私は、歯を食いしばり、スキルウィンドウを開いた。
青い光が浮かび上がる。
「まぁ答えなんか決まってるけどさ……!」
そのとき、蜘蛛が動いた。
カツツツツツツ!!
8本の脚が一斉に床を叩き、巨体が宙に浮く。
そして、鋭い脚を振り上げて襲いかかる。
「おぉぉぉぉ!?」
慌てて横に飛び退く。
ドン!……パラパラパラ
脚が石床を貫通し、破片が飛び散る。
「こわ……心の準備が……」
しかし、蜘蛛の攻撃は止まらない。
今度は別の脚で横薙ぎに攻撃してくる。
「【スキル:《鉱物化》】発動!!」
両腕がミシミシっと音を立てて黒い鉱石のウロコが広がる。
その両腕を交差させて防御姿勢を取る。
──ガキィィィン!!
金属同士がぶつかるような音。
火花が散る。
衝撃で足が地面にめり込むが、耐えれた。
「……重ぉっ……! ま、でもこんなもんか」
「程度が知れたぞ蜘蛛ぉぉ?」(自分より弱いと思ったら強気になるスタイル)
私は【スキル:《怪力》】発動!
力が湧き上がるとともに体温が急激に上昇し、
皮膚の表面から湯気が薄く立ち上がる。
「──行くぞ! デカ蜘蛛!!」
鉱物化した拳で、蜘蛛の脚を殴りつける。
ドゴォン!
蜘蛛の脚に亀裂が入る。
「もうちょいか」
だが、蜘蛛は口から、太い糸を勢いよく吐き出してくる。
銀色の糸が空間を切り裂く。
「それ邪魔だな!【スキル:《貝殻生成》】発動!」
右腕に、ジワジワと白い物質が生成され、
瞬時に膨らんで丸い盾の形になる。
蜘蛛の糸攻撃を盾で防ぎながら、間合いを詰める。
「そのデカい腹をぶん殴る!!」
だが、蜘蛛も黙ってやられてはくれない。
腹部の下から、紫色の糸を無数に射出してくる。
「うわっ、キモい色!」
慌てて貝殻の盾を構える。
紫の糸が盾を弾く。
何とか致命傷は避けたが、
いくつかの糸が盾をすり抜け、腕に突き刺さる。
「痛っ……! しかも痺れてきた……色的に毒かよ……!」
毒が回り始めている。
「毒が回る前に決着つけないと……」
壁を蹴って跳躍。
空中で姿勢を整え、蜘蛛の頭部を狙う。
「女子の柔肌に何してくれてんだぁッ!!」
鉱物化+怪力のフルパワーで、蜘蛛の頭部に拳を叩き込む。
ズガァァァン!
蜘蛛の外殻にヒビが入る。
「ふーん。硬いじゃん?」
着地と同時に、蜘蛛の脚が私を狙う。
8本全てが連続攻撃を仕掛けてくる。
「おわおわおわ!」
必死に避けながら、隙を狙う。
「ちょ!脚!! 多ッ──」
ガシッ!
一本の脚に捕まり、そのまま私を高く持ち上げた。
「あ……調子乗ってました!」
無数の目玉と、不気味な口が近づいてくる。
「ごめん!! 食べても絶対美味しくないよ!
最近さ? 岩しか食べてないのよ……私ぃッッッ!!!!!」
捕まった状態で、脚に向かって鉱物化した拳を滅茶苦茶に叩き込む。
ドゴォン! ドゴォン!
連続攻撃で、脚にダメージを与える。
蜘蛛が痛みで私を放す。
「今だ!」
空中で体勢を整え、蜘蛛の腹部に狙いを定める。
「さっきから私を見下ろしてんじゃねーよぉッ!!」
【スキル《怪力》──ポケットティッシュが洗濯機で爆散したモード(筋力+350%)】発動!
「洗濯機を開けた時のあの絶望を、お前も体験しろ……」
鉱物化+怪力のフルパワーで、
蜘蛛の腹部に渾身の一撃を叩き込む。
ズガァァァァン!!!
蜘蛛の腹部に大きな穴が開く。
体液が大量に噴き出す。
「ふ。戦う私は美しい……」
でも、まだ動いている。
蜘蛛は苦しそうに暴れ回る。
「あれ? まだ生きてる……だったらもう一発!!」
私は再び怪力を重ね、拳を振り上げる。
最深のトラウマを呼び起こせ。
【スキル《怪力》──駅前でティッシュ配りにスルーされたモード(筋力+400%)】発動!
「あの時の『え?私、透明人間?』っていう疎外感を思い知れぇぇぇえッ!!」
鉱物化した腕に全体重を乗せて、拳を振り下ろした。
──ズドン!!
ついに、蜘蛛の腹部が完全に砕け、大量の体液が溢れ出た。
蜘蛛は苦しそうに脚をばたつかせ──
そして──静かに動かなくなった。
「配るなら全員に配れ……」
「……まぁ、貰えるまで三往復したけど」
(なんなら2個貰ったけど)
私は息を切らしつつ、蜘蛛を見下ろした。
でも、全身が痛い。
筋肉痛と毒の痺れで、立っているのがやっと。
「やばい……毒がまだ……」
腕の傷口から毒が回っている。
視界がぼやけ始める。
「毒消しなんて都合の良いもん、ここにあるわけないし……」
私は蜘蛛の死骸を見つめる。
毒を持つ生物は、自分の毒に耐性があるって漫画で見た!
「……じゃあ、これ食えばいいか」
──その時。ムダ様のお言葉が脳裏をよぎる。
『賞味期限ちょっと切れてる牛乳も、飲めば分かる。
理由はあとからついてくる。』
「……行くか」
もしダメなら、最悪の場合は苔の光を浴びながら冬眠状態になって──
光合成で生き延びるしかない。
私は震える手で、蜘蛛の肉をより多く口に放り込む算段をつける。
「来い……耐性……
……えええ……マジでこれいくの……女子力……」
ため息をつきつつ、でも──毒が……ね。
「……飢えの凌ぎにもなるし……」
「生き残るため……タンパク質は正義……」
ブツブツと文句を言いながらも、蜘蛛の腹を裂く。
中から、白っぽい肉が出てきた。
「ん? 足が8本で、硬い殻があって、中身は白身?
……あれ?これって“陸で獲れるカニ”じゃん?」
そのまま白身を口に運ぶ。
歯で噛む。
プリプリした食感。
「……苦っ……でも、意外と……?」
「……あれ?」
「……岩より美味い」
(……終わったな、私)
泥っぽいようなコンニャク。
でも苦味のあとに微かに甘味もある。
ゴクリと飲み込む。
数分後。
徐々に痺れが和らいでいく。
視界もはっきりしてくる。
「……やった……毒消えた……?」
──次の瞬間。
頭の中に、システムメッセージが響いた。
\\ ぺぺ!ぺったん♪ 新スキルを習得しました! //
===============
【新スキル習得】:《毒耐性》(Lv1)
→ 毒系攻撃のダメージを軽減します。
【新スキル習得】:《蜘蛛の吐糸》(Lv1)
→ 強靭な糸を射出出来ます。(ただし口から)
===============
「よかった……毒耐性も付いた──って、新スキル……?」
安堵したのも束の間、口の中に妙な違和感が走る。
\\ ぴゅっ //
銀色の糸が、口から吐き出された。
「ん……!?」
思わず糸を手で掴む。
確かに、さっきまで私を苦しめていた硬い糸だ。
「は?」
「スパイダ◯マンみたいに手首から糸が出るのイメージしたけど……
口から?ビジュアル的に女子力完全に死んでない……?」
そのとき、頭上に天の声が響いた。
《天の声:本来は”お尻”からだが、一応……?
女みたいだし、倫理観により口仕様へ調整した。感謝しろ》
「一応ってなんだよ!!!ありがとよ!!!!!」
試しに、天井に向けて糸を吐いてみる。
糸が天井の苔に絡みつき、私の体を軽く引っ張り上げた。
「おお……! スパイダ◯マンみたいにいける!」
これなら、どこにでも移動できる。
「……口から出した糸で移動……
便利だけど、社会的に死ぬやつだこれ」
「……あ、前の世界で社会的に死んでたわ」
「……じゃあ今さらか」
蜘蛛の死骸を越え、奥に続く新たな通路を見つめる。
「……次は、どんな地獄だ……?」
口から糸がピュッと出る。
「ちょ……これ、慣れるのに時間かかりそう……」
──女子力は死んだ。
でもまあいいか。
生きてるし、強くなってるし。
引っ張ってぶん殴れるしな。
便利だわ、地獄。
(つづく)
◇◇◇
──【グレート・ムダ様語録:今週の心の支え】──
『賞味期限ちょっと切れてる牛乳も、飲めば分かる。
理由はあとからついてくる。』
解説:
迷うくらいなら食え。
当たったら、それは経験になる。
当たらなかったら、それは正解だ。