テラーノベル
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#追放
──蜘蛛の巣エリア突破。
口から吐き出す糸を天井に引っ掛け、
スパイダーウーマン移動で進む。
「これ、首が疲れるし女子力ゼロだわ……」
そんなボヤキを漏らしながら次のエリアに辿り着くと、
目の前に広がったのは、幻想的な地下湖だった。
青く輝く水面に、思わず見惚れる。
「おぉ……! 水分!?」
歓喜したその時。静かだった水面が大きく波打った。
──ドパァァァンッ!!
巨大な触手が湖面を破り、私の頭上へ振り下ろされる。
「うわっ!?」
咄嗟に横に転がって回避。
「タコ……? 巨大タコ!?」
湖から現れたのは、家一軒分はありそうな巨大なタコだった。
8本の触手が、私の頭上、四方八方から襲いかかる。
身をかがめ、触手の下をくぐり抜ける。
「っていきなりかよ!」
二本目、三本目が連続で襲いかかる。
私は糸を天井に向けて射出し、空中に逃れた。
「これならどうだ!」
空中から鉱物化した拳で触手を殴りつける。
ゴッという鈍い音と共に、触手が弾かれた。
タコが怒りの咆哮を上げ、
今度は4本の触手を同時に振り回してくる。
触手の一本が、私の足首を捕らえた。
「やば!」
逆さまに吊り上げられる私。
タコの口が大きく開き、鋭い歯がギラリと光る。
「冗談じゃない!」
私は鉱物化した腕で触手を掴み、怪力を発動。
【スキル:《怪力》──『酢豚のパイナップル否定派を見つけた時』モード発動】
「パイナップル残すやつはなぁ!!
最初から入ってるって分かって頼んでんだろうが!!
あとで文句言うな!!人生もそうだろうがぁ!!」
筋肉が膨張し、血管が浮き上がる。
握力が異常なまでに高まり、
触手の表面がミシミシと音を立て始める。
ブチブチッ! ゴリッ!
触手が断裂していく音が聞こえ、
ブチィッという音と共に、触手が完全にちぎれた。
「ふん!」
ドスッと地面に着地した私は、
手についた触手の破片を振り払う。
「喰らえ! 酢豚パイナップルパンチ!」
ドガッ!!!
渾身の一撃でタコの頭部を殴りつける。
爆音と共に、タコが湖に倒れ込んだ。
私は髪をかき上げタコを睨みつける。
「……カレーへのハチミツは認めないけどね。そこは譲らない」
*
「はぁ……倒した……」
今の戦いと、これまで岩ばかり食べていたので空腹が限界に達している。
「……岩や蜘蛛より絶対美味しいよねこれ……」
巨大タコの触手に、恐る恐る噛みついてみる。
カプッ。……もぐもぐ
「……あ……タコだわ。……醤油欲しい……」
プリプリとした食感。
久しぶりに「食べ物」を食べたという実感が湧く。
数分後、頭の中にシステムメッセージが響いた。
\\ ぺーぺーぺったん♪ 新スキルを習得しました! //
【新スキル習得:墨吐き(インク・スモーク)】
「!?」
私はタコを持ちながら、目を見開いた。
「もうやめてぇ!? 普通の女の子でいさせてぇ!?」
口の中に、妙な違和感が走る。
\\ ぷしゅっ //
真っ黒な液体が、口から噴き出された。
「うぇっ……。口から糸の次は墨を吐けるようになりました……」
絶望的な顔をしたその時、ハッと気付く。
「あ!? これ、ムダ様の『毒霧』じゃん!? プロレス技とめちゃくちゃ相性良いじゃん!」
「墨吐きは、プロレス女子の特権よ!」
ちょっとテンションが上がった。(単純)
*
──その先の奈落の奥。
薄闇に紛れて動く、巨大な影に気付く。
「……ん? なんか……いる?」
糸を吐いて慎重に近づく。
影が、もたげた顔を見た瞬間──心臓が止まった。
「え……辰夫……?」
巨大なドラゴンの姿。
でも、あの瞳の形、顔つき。間違いない。
身体は傷だらけだった──
鱗が剥がれ、深い爪痕が翼や胴体に刻まれ、古い血がこびりついている。
「辰夫ッ!!」
私は糸も使わず、地面に飛び降りた。
「辰夫! 私よ! サクラよ!」
走り寄ろうとした、その瞬間。
辰夫の瞳が赤く濁っているのに気づく。
そこに宿るのは──憎悪と、混乱と、狂気。
辰夫が、瘴気を全身から噴出させながら咆哮し、鋭い爪を振り下ろした。
ズガッ!!!
「うわぁっ!?」
私は左に跳んで回避。爪が石床を削る。
「辰夫!? おい!」
必死に叫ぶも、辰夫の目に認識の光は宿らない。
辰夫の尻尾が鞭のように振り下ろされる──
「うわっ! 鉱物化!!」
私は咄嗟に鉱物化した腕をクロスさせて防御。
ガキィン!
金属同士がぶつかるような音。
衝撃で私の足が地面にめり込む。
「おんもっ!」
胸がキュッと痛む。あの日のことを思い出す。
辰夫が魔神族から私を助けてくれた『生きろ』──あの真剣な顔。あの温かい手。
今、その同じ手が私を狙っている。
「思い出せよ! おい! お前が私を守ってくれたこと!」
辰夫が咆哮し、今度は口から炎のブレスを吐いた。
「わわっ!!!」
私は糸を天井に射出し、空中に逃れる。
熱風が頬を掠め、髪の毛先が焦げる。
「熱っ!」
空中で体勢を立て直し、墨を吐く。
「【スキル:《墨吐き》】発動!」
真っ黒な墨が辰夫の視界を遮る。
その隙に私は壁を蹴り、辰夫の死角に回り込む。
「あんたがいなきゃ私は死んでた!」
辰夫の目に、一瞬だけ揺れが見えた。
「そうだ! 思い出せ!」
しかし! すぐに瘴気が彼を支配し直す。
辰夫が墨を拭い、今度は巨大な体で体当たりしてくる。
ズン!
「おい!」
私は横に転がって回避。
辰夫の巨体が壁に激突し、石の塊がバラバラと降ってくる。
「あぶ!」
落下する岩を避けながら、距離を取る。
辰夫が振り返り、今度は爪と尻尾の連続攻撃。
壁を蹴って跳躍し、糸を伸ばして辰夫の頭上を取る。
「あの時、私に『生きろ』って言ったの、覚えてないの!?」
辰夫の爪が一瞬、震えた。
巨大な瞳に困惑の色が浮かぶ。
首をわずかに傾げ、苦しむような仕草を見せる。
「あんたがいない間──
ずっと一人で……生きるために……怖かった……」
声が震える。
辰夫の瞳にほんの一瞬だけ、いつもの優しい茶色が覗く。
「そうだ! 思い出せ! 竜の王様なんだろ! しっかりしろ!」
しかし次の瞬間、瘴気が再び辰夫を包み込む。
瞳が再び赤く染まり、首を激しく振って咆哮した。
「辰夫……お願いだから、戻ってきてよ……!」
辰夫が苦悶の咆哮を上げる。
瘴気が身体を蝕んでいく。
「ぐぉおおおおおおーッ」
その姿を見て、私の胸に怒りが燃え上がった。
「そのモヤモヤ、殴れば剥がれんだろ?」
辰夫は翼を羽ばたかせ、空中に浮上。
頭上から炎のブレスを連続で吐いてくる。
私は糸を使って左右に移動しながら、炎の雨をかわし続ける。
「このままじゃダメだな……ぶっ壊すか」
炎の合間を縫って、私は大きく跳躍。
尻尾を掴み、そのまま辰夫の背中に着地する。
「やった!」
だが、辰夫は激しく身体を振って私を振り落とそうとする。
私は必死に鱗にしがみつく。
「うわああああ!」
ドゴン!
振り落とされ、私は地面に叩きつけられる。
「いたた……」
──そして、辰夫の爪が目前に迫る。
「やば──ッ!」
咄嗟に腕で防ごうとした、その瞬間。
──ぷしゅっ
「……は?」
口から黒い液体が、勝手に噴き出し、
そのまま辰夫の顔面に、ベッタリと浴びせる形になる。
ブシャァッ!!
「うわっ、ちょっ、ごめ──!」
辰夫の動きが一瞬、止まる。
「助かった……」
そして、私は壁を蹴って跳躍。
空中で素早く移動しながら連続して糸を射出する。
「【スキル:《蜘蛛の吐糸》】連続発射!」
天井、左の壁、右の壁、床へと立体的に糸を伸ばす。
巨大な蜘蛛の巣を形成し、最後に辰夫の真上から、太い糸を射出。
銀色の糸が辰夫の翼と胴体に絡みつき、辰夫の動きを封じる。
「どうよ? 動けねーだろ?」
だが次の瞬間──
ブチッ! ブチブチッ!
辰夫が力任せに身体を動かすと、
私の立体的な糸の網はあっけなく引きちぎられた。
「え……マジで?」
千切れた糸がひらひらと舞い散る。
「竜王の力、ナメてた……」
何度呼んでも、辰夫は振り返らない。
胸が裂けそうだった。
辰夫が目の前にいるのに、手を伸ばせば届くのに、遠い。
「辰夫? 私さ──お前、死んだと思ってた」
「……考えるの、怖くてさ」
「……生きてんじゃん……」
──鱗が剥がれて、翼もボロボロになるまで、一人で戦っていた。
だけど今は──もう辰夫じゃない。
「……そっか」
拳を握りしめる。
「言葉が届かないなら……」
──その時。
……頭の中で、あの声が勝手に流れた。
『タコは醤油で、友は拳で味わえ。
あと愛はイチゴ味ってホントですか。
マッチングアプリはじめました』
「……タコは醤油で」
「……友は拳で、だろ?」
「……イチゴ味?……私も知らねぇよッ!!!」
【スキル:《怪力》──トカゲのしつけモード】発動
「誰が主人だったか、身体で思い出させてやるわぁあああああ!」
──大気が揺れる。
辰夫と──親友と──家族と──戦う覚悟を決めた。
「思い出せ」
「お前さ──」
「私が倒して」
「辰夫って名前つけたんだろ」
「……」
「……お前はッ!辰夫だッ!!私がッ!!名付けたッ!!!」
瘴気に侵された竜の辰夫が、再び私に向かって突進してくる。
「例えあんたを傷つけることになっても──止めてやる。
元に戻してやる。お前は私の家来だからな?」
私はそれを正面から受け止める覚悟を決めた。
「辰夫ぉ!? 帰ったらパン買ってこい!! 美味しそうなやつな!!」
私は涙と鼻水でぐしゃぐしゃの顔で叫び、構えた。
(つづく)
◇◇◇
──【グレート・ムダ様語録:今週の心の支え】──
『タコは醤油で、友は拳で味わえ。
あと愛はイチゴ味ってホントですか。
マッチングアプリはじめました』
解説:
極貧と闘争の果てに「最強」を手にしたムダ様だが、恋愛だけは未実装だった。
血と汗の味しか知らない男が、「愛」という未確認の味に手を出した結果である。
なお、プロフィール写真は「熊をバックドロップしている覆面姿」。
いまだにマッチング(初勝利)は発生していない。
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