コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
拘束が解かれ、警戒心を露わにしながらも、少女は自分の置かれた状況を理解する為、話を聞く事にした。
場所はミューゼの小屋。周囲の視線を気にしないようにという配慮である。
話に参加するのは、少女の他に、ピアーニャ、ムームー、イディアゼッターの4人。必要最低限の人数である。
しかし、ピアーニャが目の前に座った時、少女は思わず手を出してしまった。
それに対し、ピアーニャは激怒。伸びてきた手を殴って弾いた。
「アタマなでるなっ!」
「うぇっ、ごめんなさい、可愛くてつい……」
『なら仕方ないですね』
「オマエらなぁっ!」
ピアーニャに味方がいない。
そんなやり取りをしている間に、少女は警戒を緩めていた。話をするなら今だと、怒りを無理やり引っ込め、総長らしく話を進行した。
「わちはピアーニャ。リージョンシーカーというソシキのソウチョウで、ここにいるレンチュウのダイヒョウだ」
「えっ……子供……」
「じゃないぞー。100ねんイジョウいきてる、オ・ト・ナだからな」
ピアーニャはオトナの部分を強調した。しかし、少女によって即否定されてしまう。
「うそだぁッ!!」
「なんでそんなゼンリョクで、ヒテイするんだ!?」
何故か物凄い形相で叫ばれ、怒りよりも驚きが勝ってしまった。
「ま、まぁまぁ。キミも落ち着こうか」
「ふぁいっ! ししし失礼しましちゃっ」
「この人が大人で、一番偉いのは本当だからね。信じてくれる?」
「は、はいっ。もちろん信じますぅっ」
(ムカつくほど、チョロいなコイツ。っていうか、もしかしてムームーのコト、きづいているのか?)
訝し気な視線を少女に向けるピアーニャ。話しかけた流れで、次はムームーが名乗る事になった。
「えっと、わたしの名前はムームー。シーカーっていう仕事をしてるんだけど、その仕事については後で詳しく、ね」
「はい♡」(ムームーさま、ムームーさま。この凛々しいお名前を後でしっかり復唱しておこう)
うっとりとした顔で、少女はムームーの顔を見つめる。惚れている事を隠そうともしない。そんな視線を浴びて、ムームーは内心苦笑いである。流石に顔には出さないようだ。
ピアーニャが軽く咳払いをし、イディアゼッターを見た。イディアゼッターはコクリと頷き、礼をする。
「続きまして、儂はイディ──」
「私はクォン! クォン・パイラと言います! ムームーさまっ、これからよろしくお願いしますっ!」
ムームーの次は譲らないとばかりに、少女クォンが名乗りを上げた。元気が良すぎてムームーは驚くが、笑顔になって頷くと、クォンは少し俯き、上目遣いでモジモジしだした。
「あのー……」
「あ、はい。なんでしょう?」
「……儂はイディアゼッターと申します」
「どうもご丁寧に。ところでムームーさま。ここは何処なのでしょうか? やはり魔界なのでしょうか?」
「えっと……えぇ……」
塩対応をされた神は、小屋の端までスススッと移動し、2本の指で床にグルグルと渦巻きを書き、もう2本の手の指をつんつんと合わせ始めた。
「すねるなよ……」
とは言っても、ピアーニャも内心ハラハラしている。知らないとはいえ、神の扱いが雑過ぎたのだ。
とりあえず迫られて困っているムームーを睨みつけた。
(オマエがなんとかしろ)
(……はい)
目で語り合う上司と部下。大事な事はムームーも分かっているので、説明を全面的に任せる事にした。
「ここは『マカイ』っていう場所じゃなくて……──」
異世界という概念を教える為に同行したイディアゼッターと、シーカーの事と帰る方法について話すつもりだったピアーニャが省かれた会話は、その2人の目の前で、長い間行われる事になったのだった。
落ち込んでいるイディアゼッターはともかく、ピアーニャは居心地が悪いのを、ひたすら我慢する事になってしまった。
「オぉっ、んおォぅっ! 皮がッ、皮が剥けテぇっ!」
「うるさいのよっ」
ザクッ
パフィはイモ型の皮を剥き、真っ二つに切った。すると、キュロゼーラの声が永遠に収まった。そのまま薄く切っていき、他の野菜と共に炒めていく。昼食の準備である。
「総長達長いねー」
「ホントなのよ。いつになったら帰れるのよ」
朝から帰れると思っていたミューゼ達だったが、クォンとのいざこざがあって未だに帰れていない。ピアーニャには既に謝られ、これからの事を説明されているので、あとは待つしかないのだ。
だからといって焦っているわけではない。ただ暇なのである。早くアリエッタを家で休ませてあげたいという想いはあるが。
「まぁでも、楽しそうに絵描いてるし、良っか」
「ごはん出来たのよー」
「ごはん?」
3人はのんびりと、パンと野菜炒めを食べた。その横で、ラッチが温めた石板を美味しそうに食べている。
「そういえばラッチは、このままシーカーになるのよ?」
「うん。知らない事ばっかりでまだ怖いけど、昨日も色々教えてもらったよ。暫くはいろんな人と一緒に仕事すると思う」
「そうだねぇ。時々そうすると良い練習になるよね」
「ふっふっふ。皆の衆、そなたらは我が人生の糧として──」
「アリエッタ、絵出来たー?」
(えーっとたしか否定は……)「ううん」
「そっかまだかー。食べたら続きしようねー」
(食べたら描いて良いって言ってるのかな?)
「あーしのセリフ聞いてよ……」
のんびりとした時間を過ごし、再び各々のやりたい事をする一同。
それから暫くして、小屋からイディアゼッターが出てきた。
「ゼッちゃんなのよ。話は終わったのよ?」
「ええまぁ、大体は……はぁ」
「なんで落ち込んでるのよ?」
「何でもありませんよ。ははは……」
パフィは首を傾げるが、イディアゼッターは語らない。そのまま塔へと向かって行った。
そしてアリエッタの絵が出来上がった時、小屋からピアーニャ、ムームー、クォンが出てきた。
「おーい、かえるぞー。またせたなー」
「待ったのよー」
「アリエッタ、帰るよ」
「はいっ」
ついにファナリアへ帰る時が来た。新リージョンであるネマーチェオンを探索するという仕事は、これにて一旦終了となる。あまりにも広い事が判明したので、徐々に行動範囲を増やしていくという方針になったのだ。
「皆さん、マた来てくダさい」
「うん。あんまり食べてって言わないでね?」
キュロゼーラを食べる事に、まだまだ抵抗がある一同。流石に数日では慣れなかったようだ。
報告の仕事があるピアーニャや、子連れのミューゼ達が先行して帰り、バルドルを中心とした数名のシーカーが、しばらくネマーチェオンに残る事になった。
同時に、数体のキュロゼーラがファナリアにやってくる。報告の後、用済みになったら食べてほしいと懇願されたのだ。キュロゼーラの価値観にはまだまだ馴染めないが、いっその事王族の目の前で捌いてやろうと、ピアーニャの中でエグいイタズラ心が芽生えていた。
「ところで、その子は?」
「ああ、コイツはクォン。もといたリージョンにかえすにも、ハナシをすすめるにも、いったんファナリアにつれていくのがよくてな」
「ふーん。ムームーにベタベタなのよ」
「はい。不束者ですがよろしくお願いします」
「……え、どゆこと?」
「あはは……」
クォンはムームーの横にピッタリくっついて、離れようとしない。お陰で逃げる心配も、錯乱して周囲に危害を加える事も無いという安心感もある為、そのままでいるようにと、ムームーはピアーニャに命じられたのである。その顔は、今は笑って切り抜けようとしているように、パフィには見えていた。
塔の中では、イディアゼッターが転移の準備を進めていた。後は台座に乗って起動するだけとなっている。
「すまんなゼッちゃん。ヒトシゴトおえたら、どこかいこう」
「ええ、ありがとうございます」
「一体何があったのよ……」
最初に比べて、いきなり距離が近くなったピアーニャとイディアゼッター。キュロゼーラを含む全員が台座に乗った事を確認し、転移を開始した。
「アリエッタ、目を閉じようね」
「う?」
「なんだかトランスポートに似てる……うわっまぶしっ」
クォンの呟きの途中で、台座の上が光に包まれ、そして消えた。
残ったシーカー達は、寂しそうに台座を眺めている。
「一気に女の子が減った……」
「話しかけるタイミングも、あんまり無かったねぇ……」
華やかだったミューゼ達一行が帰って、本当に寂しいようだ。男女比が一気に傾いたのである。
当然中にはミューゼ達の誰かを狙う者もいたりする。ピアーニャは見た目にも立場的にも対象にはならないようだが。
中でもシーカー歴がそれなりにあって、特に煌びやかな可愛らしさを持つムームーが、一番人気だった。
「あーあ、ムームー帰っちまったな。今度こそ口説きたかったのに」
「……本当に大したものね。あんなに自然体なのに」
「何の話だ?」
「さぁね~」(おっと、ルイルイに殺されるところだったわ)
シーカーの中でも、ムームーの秘密を知る者はごく僅か。そんなミステリアスな所も、人気の秘訣なのかもしれない。
「ほわぁ、ここが魔法の世界……色々浮かんでる~」
「はー」(いつ見ても不思議だなー。異世界って感じする)
「帰ってきてしまった……神の世はまだ我には早すぎたのかもしれぬ。今になって右手が疼くとは……」
エインデルブルグに到着し、塔から出たクォンとアリエッタは、街の風景に見惚れていた。アリエッタは何度か来ているが、やはり魔法にはいつでも魅せられている。空中でも物が動いたり、乗り物が浮かんでいたりするこの光景が、結構お気に入りだったりするのだ。
その隣ではラッチもまた、今まで木で出来たリージョンにいたという実感に浸っている。
「さてどうする? すぐにニーニルにかえるか?」(むしろかえってくれ。わちはシゴトなのだ)
「んー、せっかく来たし、軽く買い物して帰るのよ」
(ええい、かえれ! アリエッタつれてかえれ!)
口に出さずにアリエッタを拒絶するピアーニャ。別にアリエッタを嫌っているわけではなく、子供扱いされるのが嫌だったり、扱いに困るだけである。何よりイディアゼッターと共にアリエッタについても話すつもりなので、同行する人数は少なくしたいのだ。
「アリエッタ、ピアーニャちゃんが寂しがってるから、ナデナデしてあげようね」
「ぴあーにゃー」
「いーからかえれ!」
結局声に出た。
最後にアリエッタが、妹分が寂しくないように、抱きしめ、撫でまわし、頬ずりして「またね」と優しく囁いた。みんなに囲まれた状態で。
羞恥に震えるピアーニャの姿も、アリエッタにとっては寂しくて泣くのを我慢している健気な妹にしか見えなかった。無駄に溺愛が深まって、ミューゼ達も楽しそうである。
「さてと、行きましょうか、ピアーニャちゃん」
「ピアーニャちゃんいうな!」
王都で買い物をする事にしたミューゼ達を見送り、ピアーニャ、ムームー、イディアゼッター、クォンの4人は、リージョンシーカー本部で魔動機を借り、ロンデルとリリを連れて王城へと向かう。
ロンデルは記録係としての同行であり、リリは元王族の受付嬢なので、アリエッタの事も巻き込んでしまおうという魂胆である。念のためニーニルに使いを出し、ネフテリアも呼び出してある。
機内では、クォンが魔動機に興味を持って、見回していた。
「へぇ、魔法といっても、道具はクォン達の世界と似たようなものなのね」
「そうなのか?」
「魔力とエーテルは同じものですからね。道具のエネルギーとして使うのは、クォンさんの世界の方が長けているかと」
『へー……』
「またそんなジュウダイなジョウホウを……」
そろそろネタバレを控えてほしいと思うピアーニャであった。
そんな話をしているうちに、ロンデルの運転する魔動機は王城へとたどり着いた。