ステージの照明が、ゆっくりと落ちていく。
あたたかな光が、ゆるやかに会場を包み込むように柔らかく灯り、まるでこの時間を名残惜しむように、ゆっくりとフェードしていく。
アンコール後のトークも終わりに差しかかり、最後のMCの時間になった。
SHOOTは、マイクを胸元に持ち、そっと一度深く息を吸う。
その小さな呼吸の音さえ、静寂の中ではっきりと聴こえた。
客席には無数のペンライトが揺れていた。黄や緑、淡いピンク、そしてSHOOTカラーの光が、夜空に浮かぶ星のように、彼の前に広がっている。
その光のひとつひとつが、まるで彼の歩みをやさしく照らす道標だった。
ここまで来る道のりに、いくつもの壁があって、迷って、傷ついて、立ち止まって。
でも今、こうして光に囲まれている自分がいる――その現実が、彼の胸をじんわりと満たしていた。
唇が、少しだけ震える。
けれど、その震えを隠すことなく、SHOOTは正面を見据えて、ゆっくりと語りはじめた。
「……今日は、ほんとにありがとう。
こうして、またステージに立ててること、みんなの前で話せてること……当たり前のように見えるかもしれないけど、自分にとっては、すごく、すごく特別なことです。」
言葉のたびに、彼の声が真っ直ぐに会場の隅々まで届いていく。
客席の誰もが目を離さず、彼の一言一言に耳を傾けていた。
「しばらく、うまく笑えなかった時期があって……
歌も、踊ることも、自分の声すら信じられない日もあった。
でも……そんなときに、そばにいてくれた仲間がいて、
見えない場所でも、応援してくれてる“バディ”がいた。」
そのとき、SHOOTの視線がふっと上を向いた。
天井の高いホールの奥。
自分が何度も迷いながら歩いてきた、孤独な夜を思い出すように。
だが、もうそこには孤独はなかった。
いま、確かにこの場所に「つながり」がある――そう感じられる風景が、目の前にあった。
「コメントとか、手紙とか、SNSでくれたメッセージ……
全部は返せなかったけど、ちゃんと届いてたよ。
“声”って、こんなにあたたかくて、力になるんだって、はじめて知った。」
静かに、深く、胸に染み入るような声だった。
その優しさに、客席のあちこちからすすり泣くような音が響く。
「今も、まだ完璧じゃないし、不安になることもある。
けど……もう、一人じゃないって思える。
それを教えてくれたのは、BUDDiiSのみんなで、そして、ここにいる“きみ”です。」
SHOOTはうつむきかけた顔を、まっすぐに上げた。
目には涙がにじんでいたけれど、その瞳の奥にはしっかりとした光が宿っていた。
「……だから、今度は、俺が“きみ”の声を待ってる。
つらいとき、苦しいとき、誰にも言えないとき……
どんなに小さくてもいい、“声”を、聞かせてほしい。」
マイクを、そっと両手で包み込む。
それはまるで、誰かの心をそっと抱きしめるような、あたたかくて慎重な仕草だった。
「俺たちはここにいる。
これからも、ずっと。
声にならない声にも、ちゃんと気づけるように……聴いていくよ。」
やがて、会場中に大きな拍手が広がった。
それは音ではなく、感情そのものだった。
「ありがとう」「おかえり」「またここで会おう」――そんな言葉にならない声が、拍手に乗ってSHOOTに届いていた。
彼は、ゆっくりとメンバーの方を振り返る。
10人が並ぶステージ。
その中心に、迷いながらも帰ってきた自分がいた。
ふと、春のような笑みがこぼれた。
10人は自然と肩を並べ、客席へ向けて、深く一礼をする。
まるで、新しい季節のはじまりを告げるように――。
その夜。
SHOOTの部屋には、静かな春の夜が流れていた。
開け放たれた窓からは、花の香りを含んだ柔らかい風がカーテンを揺らしている。
街の喧騒も遠く、時計の針の音すら、やけに優しく聴こえる夜だった。
スマホの画面が、小さく点灯する。
彼はインスタライブを開いた。
画面に映った彼は、メイクも照明もなく、素顔のままだった。
けれど、その表情はとても穏やかで、どこか晴れやかだった。
「今日、来てくれた人も、来られなかった人も……ありがとう。
自分がここまで戻ってこれたのは、みんなのおかげです。」
コメント欄には、瞬くように「おかえり」「無理しないでね」「だいすきだよ」と言葉が溢れていく。
SHOOTは、それをひとつひとつ目で追いながら、優しく頷いた。
「……あのね、最近、ちょっとだけ好きになった言葉があるんだ。
“希望って、誰かの声から始まる”って。
俺にとっては、ほんとにそうだった。」
少しの沈黙のあと。
彼はまっすぐ画面を見つめて、静かに、でも確かにこう言った。
「だから、きみの声を――待ってるね。」
画面がスッと暗転する。
配信は静かに終了した。
SHOOTはスマホを置き、カーテンの向こうに目をやった。
春の風が、街をやさしく撫でている。
窓の外には、芽吹き始めた街路樹。
道端の小さな花たちが、夜風に揺れていた。
その景色の中で、彼は確かに思った。
――誰かの想いが、誰かに届く未来を信じていいんだ、と。
そして、どこかでまた――
声にならない誰かの想いが、誰かの心に届こうとしていた。
ご期待に添えたかはわかりませんが、素敵なリクエストをいただき、ありがとうございました。
またのリクエストを心よりお待ちしております。
コメント
2件
なんか私も背中を押されているような物語でぐっときました!ありがとうございます✨