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え、泣いて良いですか🥹
最高ですぅ…おまけって出来ますかね…どうしても見たいんです!
泣きました(´;ω;`)最高でした。
”必ず戻ってきます”
凍えるような寒さが少し落ち着いた、二月中旬。お前はそう言って、おれの前から姿を消した。
「好きです、テヒョンイヒョン」
告白は突然だった。
バイト先で知り合った、二つ下の高校生、チョン・ジョングク。
完全に一目惚れだった。モデルやアイドルでもおかしくないその容姿に、すぐに魅入ってしまった。一緒に働いている内に、彼の人間性にも惹かれていった。人懐っこい性格で、優しくて、思いやりがあって、、
全てにおいて完璧な彼が好きだった。
そしてそんな彼に、告白された。
「嬉しい」
返事はもちろんOKして、無事付き合うことになった。
彼は付き合ってからも、変わらず優しくて、おれのことを気遣ってくれた。おれはそんな彼のことが、もっと好きになっていって。そして心の底から愛していた。
記念日は二月中旬。美味しいご飯を食べて、彼の上着のポケットの中で手を繋ぎながら、少し小さめの公園の中を散歩する。
「今日で付き合って一年だなんて、実感湧かないです」
「そうだね〜一年って結構はやいね」
真っ暗な空に白い雪が電灯に照らされ、おれたちの白い息が重なり合う。
「ヒョン、今日、家に泊まっていきませんか」
「いいの?」
「もちろんです」
一年付き合って、意外にも彼の家に行くのは初めてだった。リビングに通され、ソファーに腰掛ける。
「ココア用意するので待っててくださいね」
「ありがと。、、、一人暮らしの割には部屋綺麗だよね。ちゃんと掃除してるんだ」
「ヒョンとは違って綺麗好きなんで」
「あ、ひどい」
部屋を見回すと、白い花の入った花瓶があることに気付いた。
「わぁ、この花綺麗だね。なんて言う花?」
「スノードロップ、です。実はそれ、ヒョンにプレゼントしようと大切に育ててたんですよね」
「そうなの?嬉しい」
「見つかっちゃったけど、笑」
「すごい嬉しいよ!ありがとう」
出来上がったココアを手渡される。掌から全身が、じんわり温かくなっていく。
「聞いていいのか分からないんだけど、ジョングガのご両親は、、」
「あぁ、僕が中学二年の時に亡くなってます。両方とも」
「事故、、?」
「いえ、、火事です。前住んでいた家に放火されて。僕だけが生き残りました」
「そうだったんだ、、ごめん」
「謝らなくていいですよ、笑」
ココアを一口飲んでから、おれへのプレゼントだというスノードロップをじっと観察する。
下を向いた白い花は、何だか寂しげだった。
「え、留学?!」
「ごめんなさい、ヒョンには早めに言おうと思ってたんですけど、、なかなか言い出せなくて」
バイト終わり、驚きのあまり歩き出していた足を止める。
「それって、、一年とか?」
「いや、、二年です」
「いつから行くの?」
「二週間後に、、」
「二週間後?!」
彼と過ごせるのはあと二週間。
「、、でも、夢を叶えるための勉強だもんね。おれ、応援してるから、!」
悲しんではいけない。これはジョングガの未来のための途中経過なんだ。
「あ、でも、」
「はい」
「タイプの人がいても浮気しないでね?」
「しませんよ!僕にはヒョンしかいません」
そう言って触れるだけのキスをおれに落とす。
「絶対ね、笑」
そして二週間後、雪が舞う中、あの公園で散歩をしている。
「明日だね」
「ですね、、寂しくなってきました」
「おれも、」
「ヒョン、僕があげたスノードロップ、ちゃんとお世話してあげてくださいね」
「うん」
「ヒョン、」
彼がおれを真っ直ぐ見つめ、言った。
「必ず戻ってきます」
「留学なんだから当たり前じゃん」
「確かに、そうですね笑」
おれたちは静かに笑いあった。
だけど、彼は嘘をついた。
二年経っても、彼はおれのところに戻って来なかった。
連絡をしても返事はなく、おれはただ彼を信じて待つことしか出来ない。あのスノードロップと一緒に。
「ねぇ、ジョングガ、待ちくたびれたよ、」
相変わらず連絡のないスマホの画面を見つめ、ため息をついた。
それから数日後、家に警察が来た。
「キム・テヒョンさんで間違いないですか」
「はい、、あの、おれ何かしましたか?」
「お話は署で伺うので、ご同行願います」
おれ、何もしてない。
警察署に着いて、警察から話されたことは、衝撃の事実だった。
「あなたの父親が起こした事件、ご存知無いですか?」
「父とはもう何年も会っていません」
「あなたの父親は、三年前に放火事件を起こし、被害者二人が死亡しています」
「放火、、」
「三人家族の家で、そのうち親が死亡、息子一人が助かっています。助かった息子は当時14歳」
放火、両親が死亡、当時中学二年だった息子だけが助かった、
ジョングガが話していたことと、よく似ている。
「恐らくこの三年間、この事件を金で揉み消していたのでしょう。世間にはコンロの火の消し忘れ、と報道されていたので。それと、被害者の名前はチョン・ジョングク」
「まさかそんな、」
ジョングガは、おれの父親が放火したと知っていておれに近付いた、、?
だったらジョングガの目的は、、
家族を殺された復讐。
それ以外考えられない。
「ジョングガは、、最初から嘘をついてた」
おれのこと、好きじゃなかったんだ。
「なんだ、、おれ騙されてたんだ、」
悪いのはおれの父親。おれじゃない。だけど彼にとっては同じだろう。おれは家族を殺した犯人の息子だから。
家に帰って、彼にもらったスノードロップを眺めた。季節が過ぎているからなのか、花は閉じてしまっている。
なぜスノードロップなのか。彼はどういう気持ちで僕にこれをプレゼントしたのだろうか。
スマホでスノードロップについて調べてみた。
「スノードロップの花言葉、、?」
気になってページを開く。
「、、、!」
スノードロップの花言葉
”あなたの死を望みます”
あぁ、おれは勘違いしていた。
この綺麗な花を見て、勝手に良い意味があると期待していた。
綺麗なものには、必ず毒がある。彼は、毎日毎日憎しみを込めながら、この花を枯れないように育て、やっとおれに手渡すことができた。
「ジョングガはもう、戻ってこないんだね」
幸せだったよジョングガ。短い間でもお前と過ごせて良かった。
「望み通り、おれは死ぬ、」
おれはジョングガを愛していた。それは変わることの無い事実。
おれはフラフラと外に出た。春が近付いているからか、もう雪は降っていない。春が近いとはいえ、夜はさすがにまだ寒かった。この寒さの中、橋から飛び降りて水に沈めば確実に死ねるだろう。
でも、最後にジョングガに会いたかったな。
「ジョングガ、、」
その時、電話がかかってきた。ジョングガからだった。
「もしもし、」
『ヒョン、全て分かりましたか?』
「、、分かったよ。放火事件の被害者がジョングガだってことも、スノードロップの花言葉も」
『そうですか、』
「お前はおれの死を望んでる。だから、おれは死ぬ。父親の罪を背負って、」
『いいえ』
『ヒョンが死ぬ必要はありません』
「え?」
『後ろを見てください』
振り向くと、そこには戻ってこなかったはずのジョングガがいた。
「な、んで、、」
「ヒョン、僕は、あなたを初めて見た時から殺してやろうと思っていました。だけど、どこかあなたに惹かれている自分がいて、、こんなの、信じられないけれど、」
「あなたが好きです」
「、、、え」
「両親を殺したあいつの息子なのに、死ぬほど憎んでいた相手の息子なのに、、こんな感情を抱いてしまうなんて、、情けない」
彼は瞳に涙を溜めて、おれの手を取った。その手は震えている。
「だけど、どうしようもなくあなたが好きなんです。心の底から愛してしまっているんです。スノードロップだって、、渡してから物凄く後悔しました。いつあなたが花言葉を知ってしまうか分からないから」
「じゃあ、、どうしてすぐに戻って来なかったの、?留学してから、必ず戻ってくるって言ったのに、」
気づけば涙が溢れていた。
「あなたに会うのが怖かった。今まで騙し続けて、本当のことを知ってしまったあなたは、きっと僕を拒絶する。そう思ったから、」
「、、拒絶なんてしない、おれはジョングガを信じて待ち続けた。だけどお前は戻ってこなかった。もう終わりだって、、もう会うことはないって思ってた、、」
ジョングガのことを、どうしようもないくらい愛しているんだよ、、
「ごめんなさい、ヒョン。ごめんなさい、」
「謝らなきゃいけないのはおれだよ、父親がお前の家族を殺した。罪を償わなきゃいけない」
「罪を償うのはヒョンじゃない。ヒョンの父親です。やっと冷静に考えられるようになったんです。ヒョンは、何も悪くない」
やっと本当に心が通じ合った気がした。嘘のない、本当の愛。
「愛してます。僕は、永遠にあなたのもの」
おれとジョングガは、すぐにおれの家に行って、ベッドの上で愛し合った。今まで欠けていたパズルのピースが揃ったように、互いの気持ちが通じ合った。何度も何度もキスを重ね、今まで以上の快感に溺れ、おれはジョングガの物だと再確認した。
おれはジョングガのために生きて、
ジョングガはおれのために生きる。
これからも変わることのない二人の関係。
そう、変わることのない、、。
一年後の記念日、雪が舞う中、あの公園でお前は死んでいた。自殺だった。手には、おれにくれたスノードロップを持って。
花は春の訪れを伝えるように、皮肉なほど綺麗に咲いていた。でもその花はあの時のように白くはなくて、彼の血で真っ赤に染まっている。
「ねぇ、どうして」
どうしておれを一人にしたの。
寒い。今すぐ凍えてしまいそうだ。彼の手を握っても、温かくはない。
やっと幸せを手に入れたと思えば、全てを失った。
不思議と涙は出なかった。寒すぎるせいかな、それとも、、こうなるって本当は分かってたのかな。
ねぇ、ジョングガ知ってる?
スノードロップには、他にも花言葉があるんだ。
スノードロップの花言葉
”切ない恋愛”
END