そうこうして過ごしていると、時間と言うものはあっと言う間に過ぎるもので、温かさに触れた氷は必ず溶けるもので、主が面倒くさそうな奴を拾ってくるのは無くならないようで。
この家に、少しばかりの変化が訪れた。
1つ目は、主が東ドイツの化身とそのドールを連れて来た事だ。
なかなかに警戒心と嫌悪感剥き出しで、下手すりゃグレてマフィアにでもなりそうなそのドールの事まで時々面倒を見てやらないといけなくなった。
しばらくしたら、自国の方で仕事をさせるらしいし、東ドイツとそのドールと過ごすのは数日か、数週間程度だ。
2つ目は、炎露の部屋の氷が溶けた事だ。
俺にとっては、それが何よりの喜びだった。
その日、俺はいつも通りに炎露の部屋へ朝食を運んでいた。
目の前にいつも通りあると思っていたその氷は、春の陽気に照らされたかの様に溶け切っていた。
ドアに鍵こそかかっていたが、全てを拒絶するようにドアを覆っていた氷は本当に、無かった。
きっと、中華が毎日通って、炎露にたくさん話しかけてくれたおかげだろう。
「炎露、おはよう。今日は、いい朝だな。飯、置いとくからな」
感極まって少し声が震えた。
その場で泣き崩れそうなのをグッと堪え、津炎達にも飯を届ける。
朝食を届けて、俺と主も飯を食った後、いつもより少し早く、ダイニングを飛び出すように俺は炎露の部屋の前へ駆け出した。
炎露が、ほんの少しだけでも前に進めてる気がしたから。
なんの根拠も無いただの勘だが、その時ばかりは、その勘を信じてみたかった。