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城プル
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アズールとノスフェラトゥの猛攻を退けた試練場の跡地。
緊迫した空気も去り、廃工場の広場には静けさが戻っていた。
Gatitoは魚の骨柄パーカーのフードを深くかぶり直し、物陰から広場の様子を伺っていた。
緑のドミノクラウンの奥で、赤い眼が不機嫌そうに細められている。トゲ付きの首輪と腕輪が、彼の苛立ちを示すようにカチカチと音を立てた。
彼の視線の先には、サバイバーの隠れ家で他のサバイバーと親しげに会話するRatの姿があった。
「――つまり、この発電機の電圧可変パーツを応用すれば、試練場内の局所的な電磁場を書き換えることができるんだ。君の脱出経路の確保にも役立つはずだよ」
Ratは右手の黒手袋と左手の赤手袋を器用に動かしながら、楽しそうにメモ帳を広げて説明している。
頭上のヘルメットとサングラスを軽く指で押し上げ、時折赤い瞳を輝かせて相手のサバイバーへ微笑みかけていた。
その光景を見た瞬間、Gatitoの胸の奥でドス黒い何かが渦を巻いた。
「……なんだよ、あれ」
低く掠れた声が漏れ出る。
さっきまで、己の身を挺してノスフェラトゥの爪から助けてやったというのに。
あんなに必死になって「そいつを殺していいのは俺だけだ!」と他のキラーにタンカを切ったというのに。
当のドブネズミは、無傷で逃げ延びた途端に他のサバイバーと仲良く実験の話に花を咲かせている。
「俺のこと……あんなに追いまわしてたくせに。俺の身体をジロジロ見て、解剖だの観察だの言ってた癖に……!」
一度燃え上がった苛立ちは、収まるどころか激しい「嫉妬」となってGatitoの思考を塗りつぶした。
強がりで意地っぱりなプライドはどこかへ吹き飛び、気づいた時には身体が勝手に動いていた。
ガシッ!!
「――おや?」
他のサバイバーと会話していたRatの白衣の襟首が、背後から強烈な力で掴み上げられた。
「ちょっと借りるぞ、ドブネズミ」
「わっ……!? Gatito!?」
何が起きたのか理解する間もなく、Ratは白衣を力任せに引っ張られ、そのまま広場の裏手にある薄暗い給水塔の物陰へと強引に引きずり込まれた。
「痛いな、少し乱暴じゃないかGatito。急にどうしたんだい――」
壁に背中を叩きつけられたRatが体勢を整えようとした瞬間、彼の言葉は途切れた。
目の前には、至近距離で呼吸を荒らげるGatitoの顔があった。
背中のパーカーは大きくはだけ、半透明な胴体の奥で心臓がトク・トクと狂ったような速さで拍動している。
透ける肋骨が必死に空気を求めるように激しく上下し、ドミノクラウンの奥の赤い眼は、屈辱と激しい焦燥で潤んでいた。
Gatitoはダイヤモンド並みの硬度を誇る緑の大きな爪をシャキーンと立て、Ratの顔のすぐ脇のコンクリート壁へ突き立てた。
退路を完全に塞ぐ、強引な壁ドン。
「……なぁ、ドブネズミ」
「Gatito……?」
「てめぇ……さっきから他の奴とヘラヘラ何話してやがったんだよ」
掠れた低い声。
威嚇というよりは、今にも泣き出しそうなほど追い詰められた声だった。
GatitoはそのままRatの白衣の胸元を両手で強く掴み寄せ、顔をさらに近づけた。
鼻先が触れ合うほどの至近距離。
「俺の身体に……興味があるんじゃなかったのかよッ!?」
「っ……!」
Ratの赤い瞳が驚きで見開かれる。
「俺の肋骨が綺麗だの、爪の硬度がどうのだの、首筋が過敏だの……散々俺の身体を弄くり回して、変態みたいに観察してただろ!? なのになんで……なんで急に他の奴と楽しそうにしてんだよッ!」
Gatitoの赤い耳が、恥じらいと怒りでペタリと寝そべる。
オラオラ系として威張ってきたプライドも、キラーとしての立場も、すべてを投げ打った自暴自棄な問い詰め。
自分でも信じられないほどみっともなく、直球な「嫉妬」の露呈だった。
「俺を見ろよ……! 俺だけを解剖して、俺だけを追いまわせよバカ……ッ!」
掴んだ白衣の手が、微かに震えている。
Ratは至近距離でGatitoの全身から溢れ出る情熱と、あまりにも不器用で愛くるしい独占欲を全身で受け止めた。
「……ふむ」
Ratの口元がゆっくりと、甘く歪む。
ヘルメット上のサングラスを指先で完全に外し、赤い瞳を露わにしたRatは、左手の赤手袋でGatitoの掴んできた手首を優しく、逃がさないように包み込んだ。
「観察記録その115……検体Gatitoは、僕が他の存在に興味を示すと、著しい嫉妬反応を示し、自ら検体としての価値を主張し始める……」
「っ……! 記録なんて取ってんじゃねぇよバカッ!」
「可愛いよ、Gatito」
低い、耳元を焦がすような男の聲。
Ratは右手の黒手袋をすっと滑らせ、Gatitoのトゲ付き首輪の裏側――過敏な首筋へと指先を滑り込ませた。
「誰が君以外の検体に本気になるものか。僕の探究心も、この胸の熱も……最初から君だけのものだ」
「あ……っ、んぁ……っ」
首筋を撫で上げられたGatitoの口から、甘い喘ぎが漏れ出る。
他のサバイバーへの嫉妬で自ら迫った黒猫は、ネズミの腕の中で再び、骨の髄まで狂わされていくのだった。
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