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ゆうき あきや
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友ゴリラ
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第225話:逆襲の狼煙と次なる海
北海道、帯広市。
家賃四万円、築三十年のボロアパート。その四畳半の空間は、今、異様な静寂に包まれていた。
俺——株式会社インフィニティ・ワン代表取締役社長、秋谷雪(40歳)は、PCモニターに映し出された法人口座の残高画面を前に、ただ呆然と立ち尽くしていた。
カタカタカタッ。
ディスコードの向こうから、我が社の冷徹秘書・結愛(ゆあ)のタイピング音が響く。
『ルシフェル様、最終的な今月の収益レポートがまとまりました。読み上げてもよろしいですか』
「あ、ああ……頼む」
俺の声は、極度の緊張と興奮でひっくり返りそうになっていた。
『やまむすめ第一期生、日向(ひなた)の初配信および、ゲリラ豪雨サバイバルロケのアーカイブ動画。総再生回数は現在450万回を突破。さらに、チャンネル登録者数は一気に30万人を驚異的なスピードで突き抜けました』
結愛の声には、いつもの氷のような冷たさはなく、確かな熱が帯びていた。
『動画の広告収益、プレミア公開時のスーパーチャット、さらに新規開設したファンクラブの月額会費。これらをすべて合算した、インフィニティ・ワンの今月の総売上高は……』
ゴクリ、と。俺は生唾を飲み込んだ。
『約、2200万円です』
「にっ……にせんにひゃくまんっ!!」
俺は三万円のゲーミングチェアから跳び上がり、天井に頭を強打した。
だが、そんな痛みなど全く気にならない。
「嘘だろ……。たった一つのプロジェクトで、月商2000万超え!? 大手事務所のエース級じゃないか!」
『……あー、社長ぉ、マジで信じられないくらいバズってるっすよぉ。海外勢からも「日本のクレイジーなサバイバルだ」って見つかって、スパチャの勢いヤバいっす……ふわぁ』
海外スタッフのヨモが、相変わらずの気だるげな声で報告してくる。
『ジェミニ先生、現在の法人口座のキャッシュフローを元に、ルシフェル様の負債返済シミュレーションを』
結愛の指示に、最強AIアシスタントのジェミニ先生が即座に応答した。
『計算完了。エウリアン(絵画商法)に騙されて背負った、社長個人の極悪ローン残高500万円。法人から社長への特別貸付、あるいは来期の役員報酬の増額という形で処理すれば、明日にでも一括返済が可能です』
「一括返済……」
俺は震える手で、顔を覆った。
長かった。本当に長かった。
見栄と欲望にまみれ、エウリアンにそそのかされて300万円の版画をフルローンで買わされたあの日。
そこから転落した、月給10万円のヒモ社長生活。
毎日毎日、部下のポケットマネーから配給される最安値の玄米と徳用塩昆布を齧り、空腹と屈辱に耐え続けた日々。
俺はゆっくりと顔を上げ、壁に飾られた三枚の極彩色アートを見上げた。
桜舞う美少女。星空の美少女。サイバーパンクの美少女。
俺をどん底に突き落とした悪魔たちは、今、確かな勝利を収めた俺に向かって「よくやったじゃない」と微笑んでいるように見えた。
「終わったんだ……。泥水すすって、機材の盾になって、ヒグマの恐怖に怯えながら……俺はついに、この借金地獄から抜け出したんだ!」
俺の目から、ボロボロと大粒の涙がこぼれ落ちた。
『泣くのはまだ早いですよ、ルシフェル様』
結愛が、フッと優しく笑う気配がした。
『会社の売上が爆発したとはいえ、社長の今期の役員報酬は税法上、月給10万円のまま変更できません。来期の決算を迎えるまでは、引き続き塩昆布と玄米の生活を続けていただきますからね』
「えっ!? 2200万も売上があるのに、俺の飯は塩昆布のままなのか!?」
『当然です。法人の金と個人の金は別です。社長が勝手に会社の金で焼肉を食べれば、業務上横領になりますよ』
結愛の容赦ないド正論に、俺は涙を引っ込めて項垂れた。
会社に2200万あっても、社長の明日の朝飯は塩昆布のまま。これが日本の税法と、しがない中小企業経営者のリアルだ。
『社長さーん! 結愛さーん!』
そこに、ディスコードの通話ルームへ元気いっぱいの声が飛び込んできた。
今回のプロジェクトを大成功に導いた最大の功労者、日向だ。
『動画のコメント、全部読みました! みんな「次のロケが楽しみ」って言ってくれてます! 私、明日にでも次の山に行けますけど、社長さんの腰の調子はどうですか!?』
「む、無理だ日向ちゃん! 俺の腰椎はまだ完全に粉砕されたままだ! せめて一週間は休ませてくれ!」
俺が悲鳴を上げると、日向は画面の向こうで「えーっ」と不満そうに唇を尖らせた。
『だって、次はヒグマの巣穴がある尾根ルートに行くって約束したじゃないですか! 私、もう五十キロの機材を運ぶためのソリも自作したんですよ!』
「お前は本当に山のバケモノか! ロケのペースが異常すぎるだろ!」
俺の悲痛なツッコミに、日向の無邪気な笑い声と結愛の呆れため息、そしてヨモの欠伸が重なる。
このイカれたメンバーが、俺のインフィニティ・ワンのすべてだ。
「……だが、日向ちゃん。結愛。よく聞いてくれ」
俺は姿勢を正し、社長としての威厳を振り絞って声を低くした。
「『やまむすめ』は大成功した。北海道の大自然を無料スタジオにするという俺たちのビジネスモデルは、完全に正しかったことが証明されたんだ」
『ええ。社長の無給奴隷労働というブラックな裏技のおかげですが』
結愛の皮肉をスルーして、俺は言葉を続ける。
「だが、俺たちの最終目標を忘れていないか。現在、ネット界隈の頂点に君臨する巨大プロジェクト『う○む○め』。あの大海原で暴れ回る覇権コンテンツに打ち勝つことこそが、インフィニティ・ワンの真のゴールだ」
俺の言葉に、通話ルームの空気がピンと張り詰めた。
「山を制した俺たちが、次に向かうべき場所。それは……」
俺はPCモニターに、北海道を囲む広大な海のマップを表示させた。
「【海】だ」
『海、ですか?』
結愛が怪訝そうに問い返す。
「そうだ。日向ちゃんの『やまむすめ』は、山のサバイバルとしてこのまま業界のトップを走らせる。そして、その莫大な収益を元手にして、俺たちは次なる特化型プロジェクトを立ち上げるんだ!」
俺は立ち上がり、四畳半の窓から帯広の夜空を指差した。
「プロジェクト名は、アウトドア特化型VTuber第二弾……『つりむすめ』だ!!」
沈黙が降りた。
『……ルシフェル様』
数秒後、結愛が氷のような声で口を開いた。
『海を舐めないでください。山での遭難も致命的ですが、海でのロケは一歩間違えれば即座に沈没、あるいはサメの餌です。小型船舶のチャーター費用、特殊な防水機材、そして何より……ルシフェル様は泳げないのでは?』
「お、泳げなくてもライフジャケットを着れば浮く! 船のチャーター代が高いなら、俺がゴムボートを漕いで沖に出る!」
俺の無謀な宣言に、ジェミニ先生の冷徹なアラート音が鳴り響いた。
『警告。ルシフェル社長が手漕ぎのゴムボートで北海道の海に出た場合の生存確率は、山岳ロケを下回る【0.1パーセント】と算出されました。完全に自殺行為です』
「ゼロ点一パーセント!? 低すぎるだろ!!」
『あはははっ! 社長さん、最高です! 海のロケ、私も絶対に行きたいです!』
日向の無邪気な笑い声と、俺の悲痛なツッコミが交差する。
「見てろよ世界! 北海道の海を制覇して、絶対に『う○む○め』を超えてやるからな!」
帯広の四畳半アパートに、俺のヤケクソ気味な雄叫びが響き渡る。
借金500万の地獄から抜け出したと思ったら、次は生存確率0.1パーセントの海地獄が待っているらしい。
限界社長の胃に穴が空くサバイバル労働は、どうやらまだまだ終わらない。
コメント
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ゆうきあきやさん、第227話お疲れさまです……🥀 やっと借金から解放されるかと思ったら、塩昆布生活継続&次なる挑戦は生存確率0.1%の海、って展開、好きすぎます。日向ちゃんの「ソリ自作しました」がもう完全にバケモノで笑ったし、結愛の冷静なツッコミとジェミニ先生の即死判定が絶妙すぎる。泣いて、笑って、また絶望して——このジェットコースター感、たまらないです。次の「つりむすめ」、ゴムボート♡♡♡行為すぎて胃が痛いけど応援してます……!