テラーノベル
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東京駅の改札から、大きな荷物を抱えて出てきたらんちゃんを見つけた瞬間、僕の心拍数はレコーディングの山場より跳ね上がった。
やっとだ。
やっと、彼女を僕の目の届く場所に連れてくることができた。
「おかえり」
自然と口から出たその言葉に、自分でも驚くほど実感がこもっていた。手伝いに来たマネージャーの視線が痛い。「大森さん、公私混同しすぎですよ」という無言の圧力を、僕は華麗にスルーして彼女の荷物を奪うように受け取った。
案内したマンションは、事務所が管理しているとはいえ、僕が事前に内見して「ここなら日当たりもいいし、セキュリティも万全だ」と太鼓判を押した部屋だ。
「……Wi-Fi、ちゃんと繋がるかな。レポート、大変でしょ?」
なんて、もっともらしい理由をつけて部屋に居座り、二人で「ここにソファ置いたら?」なんて未来の話をする。らんちゃんが目を輝かせて部屋を見渡すたびに、胸の奥がチリチリと焼けるように熱くなる。
本当は、このまま僕の家に連れて帰って、片時も離さずにいたい。
でも、そんなことをしたら彼女の「夢」を壊してしまう。今はまだ、最高に理解のある「プロデューサー」であり、「先輩」でいなきゃいけないんだ。
「じゃあ、片付け無理しないように。……また明日ね」
極めて日常的なトーンを装って、僕は玄関の扉を閉めた。
パタン、という乾いた音。
……その直後だ。
「……っし!!!」
誰もいない共用廊下で、僕は思い切り拳を振り下ろした。
ガッツポーズなんて、いつ以来だろう。
「また明日」。
あの日、上野公園で震えながら渡したメモから始まった物語が、ついに「毎日会える日常」に変わったんだ。
明日からは、スタジオに行けば彼女がいる。
僕の歌を、一番近くで聴いてくれる。
僕の作る世界を、一緒に支えてくれる。
込み上げる独占欲と、それ以上の幸福感に包まれながら、僕は足取り軽くエレベーターへと向かった。明日、彼女にどんな顔で「おはよう」と言おうか。そんなことばかりを考えながら。
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🌹はなみせ🍏
コメント
2件
神作ありがとうございます!