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くい、と給仕に降谷はやられ、頭取へ近づく。
もうそんな目で見られるのは一生ごめんだ。が、とす、と太ももに手を置き耳打つ。
「(奥へどうぞ……)」
案内する他の給仕を見てから、ひらひらと所轄の刑事たちにニッコリ手を振った。
ひとりを除いては真っ赤だった。
しゃっ!とカーテンを閉める。
「…風見」
ジ、という音がして「はい」と風見が言う。「二度とごめんだ、やつに会うのは…」
目の前に現れた風見が、「えぇ。私も」二度とあなたのあんな声を聞くのはいやです、と。
「そして私は」カーテンの前で風見が肩越しに言う。「…織田颯真、です」
「うそ」
公安がいます、と耳に入る。任についたままだ、今はそれどころじゃないーー。
佐藤は現れた風見に立ち上がりそうになるが、白鳥に肩を引かれる。「我々は今日ーー」
鏡を見た。そうだ…防衛省幹部の警護だ。
「くっ…」
「佐藤さん」と高木に囁かれ、ピアノを見た。
まさかーー
「な…」
「リストのラ・カンパネラ…」知ってるわよ、と佐藤は後ろの白鳥に少し怒鳴る。
「すごい腕前……」
「ぼ、僕だって猫踏んじゃったくらいは…」という高木を皆無視した。
「なんだか」後ろから風見の演奏中にスミスが言う。
「…感じないわね。この演奏……うまいけど。弾いてるの、ほんとに風見?」ちら、と彼女に見られ、「座席を汚さないでくれよ、スミス…」降谷は前を見たまま言った。
風見じゃない。と。
弾き終わると、満足したような拍手があちこち聞こえた。
どうしますか?と耳から聞こえる。
カーテンの後ろに入る風見。
頭取が動きます……所轄にも風見の耳にも入る。
頭取はspがつきますーー
「ねぇ、さっき」佐藤は囁く。「安室さん…話しかけてたわよね?頭取に」
「飲み物を聞いただけですよ、きっと」ぶわ、と白鳥が佐藤の耳に近づくので、高木は「あ!」と言う。
「音楽が」と白鳥が上を指す。「うまく聞こえないじゃないですか、近くなきゃ」
「まぁ、そうよね…わっ」高木のじと顔が振り向いたらあった。
足音が登ってくる部屋で、風見は立っていた。
「…頼むぞ、風見」はい、とは答えられなかった。ドアが開いた音がして。
「っーー!」
【冬馬】ーー!
あぁ、やはりか。と風見は月明かりに振り向く。「父さん……」ゆら、と頭取に近づき、どっ、と膝をついてしがみつく。「あぁ!ようやくっ…」「冬馬!冬馬なんだな!?」
風見は自分でも役者だと思って続ける。なんて情けない…日本経済を動かす大の男が。目の前でわなわなと震えて、自分に手を伸ばす。
「颯真じゃなかった?」スミスが尋ねるので、降谷は前を向いたまま言う。
「彼は……」
「ほ、ほんとに……生きていたのか…」
「はい…」風見はその手をとる。
「【都合】がよいでしょう?そのほうが…」
頭取は月明かりでもわかるほど、ぐっしょりと汗で濡れていた。ずりずりと後退り、首を振る。
「と、うま……は、肺炎をこじらせてと……」
「父さん!あなたが愛していたのは兄だけなのですかーー」
はっ!と頭取は四つん這いで近づいてくる。「ち、ちがう!」ばっ、と顔にしがみつかれ、風見はわっと泣き出した。
「…これ必要?」スミスがはぁ、とため息をつく。
「黙ってろ」まだだ。まだなんだよ、と。
「い、生きていると知っていたらっ…」
「知っていたらっーー」風見は彼を抱き締める。
きら、と眼鏡が光る。
「知っていたらっーー!捨てた僕にも!同じように……金だけはーー贈ったんですか!」
ひいっ、と息を飲むのが降谷にも聞こえる。
かかったーー降谷も風見も、同じように前を見上げる。
「知っているんです…!スイス銀行にはっ……」
「言うな!」頭取は真っ青だ。
「スイス銀行にはっ……兄さんの誕生日で暗証番号の口座があるーー!」
うっ、うっ、と風見は泣いてみせる。
「でも僕は……父さん!金なんかいらないっーーただっ…」
ばっと顔をあげる。「母さんに謝ってくれ!僕は……僕は生まれたらいけなかったんだあっ!」
「冬馬!」頭取は風見を抱く。つ、と肩に涙が落ちる。「もうやめて…父さん……僕たちを……解放して…兄さんの真似なんかしたくないんだ!」
「だがーー」
「わかってる!」がっ、と頭取の肩を掴む。
「あれは……あれは日本の金だよね…父さん……」
「そうだ!お前たちの金だーーお前たちは!お前たちの命は首相より重い!」
んん。と降谷は顎に手をやる。スミスは頷いた。なるほどね……
「父さん……僕の誕生日を知ってる…」
「っ」
だろうな、と風見は思う。隠し子なんだ。数えきれないくらい、いるんだろうが…。
「ならっ!もうやめてくれよーー」
「冬馬!」
「父さん…ずっと……あなたが立派な人だと信じて生きてきたんだ…僕はあっ……」
あなたを越えたいと……思っていたのに!
「あ、あなたがそんな人じゃないなら…」
「よせ」
「に、兄さんを…」やめろ!という頭取に、spがドアを叩く。「頭取?」
「わかった!わかったーーもうその話はするな……金の話をどこから?」
いや自分で。と風見は思うが、首を振った。
「兄さんだよ……兄さんはそれで会社を。知ってるんだろ!?あぁ、自慢気に言われたよーーでも僕にはっ……」
何もないから……
肩を落とす風見に、さめざめと泣く風見に、「わかった…」頭取は手をとる。「颯真には必要なときだけにする…だから……」
「言わないよ、父さん…僕たちはもう…二度と…会えないんだろ……」
「と、」
「いいんだ。そのほうがいい、僕は、僕はひとりで生きていける…兄さんのように……」つう、と風見の頬を涙が一筋流れた。
「父さんに頼り続けるようには…だって、僕は」
母さんを守らなくちゃ!あんたの代わりになーー!
「っと…」ふら、となった頭取を抱き止めた。「大丈夫…父さん……ベッドへ」
風見は頭取を寝かせる。顔が青いな、と思いながら布団をかけた。
「眠ったよ」
外のspに告げる。彼らは顔をそむけた。
かん、かん、と階段を降りる。
「…終わりました。降谷さん」
ずっ、と鼻を拭う。「あぁーー泣けたよ、風見…いや冬馬くん」よくやった。彼も浮かばれるさ。という言葉に、どうだか。と思いながら非常口を開ける。
「あ」風見はそう口にしたあと、ふら、と足がぐらついたのがわかった。
だめだ……寝てないし緊張感が……
「風見刑事ーー!」
その声はもう届かなかった。
ぶっ倒れている風見に駆け寄ろうとした刑事は、はっと息を吸った。
「あぁ……よく…」
スミスがゆらりと風見の前に立つ。ぺたり、と座ると、風見のことをひっくり返す。「…ぐ……」頭をゆっくり撫でる。眠っている。いびきをかくほど深く。
「降谷さんーー」「いや」いい。降谷はそう呟く。
「眠って……だんな様…」
すべて忘れてーーわたしが……つれてってあげるから……
スミスはそのまま口付けた。
ガチャッ!という聞き慣れた音がして、まだ口づけたまま目を向けた。
「その人から離れてーー名字名前」
ちっ!降谷は舌打ちして車を出す。顔が安室として割れている自分がいるのはまずいーー!
降谷さん!という声に、よせ。と言う。
「お前も……私から大事なものを奪うかい……?」
スミスはつ、と風見とつながった糸をぬぐわないので、佐藤は顔を引いた。
「っ、そ、その人に何をしたのーー」
「お休みの挨拶だ…何が問題なんだい」
風見の耳にある通信機から会話が降谷にも入る。よせスミス。そんなこと言ったら…
降谷は言わなかった。
佐藤はぐ、と後ろ足を引いた。なんだ?今一瞬……
「両手をあげて膝をつきなさい!」
よく見えないーーなにーー!?佐藤は雨が降っているせいかと思った。
ああ、幽霊がーー見える、のに……
「…だめだ。もう……私から……」
なにも……す、と風見の頬を撫でる。
びしゃん!と水溜まりに顔をつっこんだ佐藤に、一斉に公安の刑事が寄ってくる。
「な、まさか」
そう言う刑事にスミスは首を振った。風見を引っ張りあげていく刑事を見ながら。
「いずれ目を覚ます」
どちらもなーー…というスミスの声が、降谷にも届いていた。
「はあ?ポーカー?」とコナンが言う。「ねー!」とガキら3人は顔を見合わせ、映画の画面を見せた。「すごい頭脳戦で!」「なぁ!めっちゃ面白かったよなぁ!」元太は首をかしげる。よくわかんなかったけどーー
あのな、影響されすぎんだよお前はすぐに……
はあ。とため息をつく。きゃっきゃっとする3人に、隣から蘭が言った。「でもだめよ、歩実ちゃんたち」「ポーカーは賭け事だしね」さらに隣の世良は言う。「日本じゃ違法さ」とんっ、と背もたれによりかかると、キッチンにいる安室が見える。
「あ、あとこれっ」歩実が音楽をかける。またkpopーーはっとした。
「ん?コナンくんどうかした?」
「あ、いや…」
「何もないどころか」きい、と灰原はパソコンから振り向く。「なんだよ?」コナンは阿笠邸で言う。
「ちょ…」画面には警視庁、とある。
ハッキングしてんのかよーー
「大丈夫よ。足はつかないわ」カチャカチャとキーボードを動かす音がする。
「博士の腕を信じるならね」と。
「あぁ、いや」と博士。「(あんまりやべぇこと…)」「(調べろと言ったのは君じゃろ、新一)」
「移民局の入国届も調べた。何も不自然な点はないし、それに」とまた灰原は振り向く。
「警視庁にあるのは、屋形船の。あの事件の不当扱いの被害届だけだわ」
コナンはうなり、腕をくんだ。
「ドリルの音で発作を起こしたり、弓を人に向かって躊躇いなく打ったり……それにあの屋形船の事件、明らかに1番前の船からトランクを投げたのは彼女だし、彼女以外がいない間に発砲があった。なのにーーなのに消炎反応はない。消す方法なんて山ほどあるが、なぜ彼女がそんなこと?」
でも安室さんはトランクは自分が投げたと……
なぜだ?なぜ彼はうそをつく?
「さぁ…まあ、でもあれだけならまるであの映画の主人公ね」
戦地の兵士ーー
「あっ!名前さーん」歩実は入ってきた名前に手を振る。「久しぶりですね!」蘭も嬉しそうに座り直す。
た、と安室さんはキッチンが出て2人は顔を傾けて「コナンくん見ちゃーー」口付ける。
「今…」世良が呟く。「うん…」コナンも頷いた。
Where have you been?
Uh, you already know…
「よかった。風邪が治らないからキスもできなくてね…」
さっ、と赤くなる女らに、はあ、とため息をついた。
今までどこにいたんだ?
知ってるくせに……
そんなこと付き合ってて言うかよ、と。
「それ」名前はタブレットを指した。「消してくれる。覚えてしまうわ」
「え!」歩実はタブレットを抱く。「名前さん!このダンス覚えられたの!」
蘭はがばっ、とそれを覗きこむ。「あぁ、大丈夫そう…」と。
「えぇ」名前が髪をあげる。ポニーテールにされた髪に、「わたしは1度見たものは……忘れないのよ」「わあーー!」歩実はどちらになのか、感嘆する。
「すごいですねぇー!」「じゃあねえちゃんポーカーもできんのかー!?」
え?と名前は素直に振り向く。
「できたらなんなの?」
「ルール教えてーみんなねっ」とカウンターに背を伸ばす。「みんなねっ、歩実たちには早いっていうの!」
「はは」安室はまな板を見たまま笑う。
「たしかに…蘭さんの言うとおり、まだちょっと難しいんじゃないかい」
「えー!」と歩実。「子供に早いも遅いもないわーー」ばさ、と毛先を揺らして名前はカウンターから身を乗り出す。
「わたしが教えてあげる、もっとも」
ぱし、と安室が名前がだそうとした手を掴んだ。だがそのまま、す、と安室のこめかみに人差し指が当たる。
「頭脳戦は、冷静にやらなきゃいけないから…すぐ感情が入るやつには」
「あむっ…」ばさ、と彼がエプロンをとる。
「やべ…」またスイッチ…とコナンは身を縮めた。
「おい、あの二人って…」と言う世良に、コナンは「そうだよ、付き合っ…」と言いかけて世良に止められる。「ちがうちがう……僕にはまるでふたりは」
くるん、と笑顔の安室がかごに入った飴を持っている。
「賭け事はお金を使うから、僕らはこうしようか」
「僕ら、って…」
名前はカウンターから出た。
「ルールはまあ簡単なんだが」コナンはトランプを切る。ばららら、と左右から重ねると、「それすごい!」歩実に言われて「え、あぁ…」「まさかコナンくんやり慣れてないわよね?」「いや、ハワイで親父にーーああっ!はい!」とん、と安室と名前の前に慌てて置く。
「プレーヤーはそれぞれ伏せて配られた2枚のカードと、テーブル中央に表向きで並べられるコミュニティーカード(共通カード)5枚によってより高い手役を競います!」
光彦が言う。
「ポーカーゲームの最大の目的は、ゲームに勝利しポットに集められたチップ」
ちら、と飴を見る。
「全てを手に入れる事……」
コナンはじゃあ、とふたりを見る。
ふたりはカードを見る。
安室はぱら、と飴を一握り出した。
「すでにワンペアできてるのか」と世良。「わからない」本当にわからない。コナンは1枚カードをめくる。
名前はこんこん、とテーブルを叩く。
「今のはチェック」と囁くコナンに、歩実は少し赤くなる。「チェック?」「あぁ、賭けないってことーー」「ギャンブルっていうのはな、歩実ちゃん」
勝たなきゃ、やっちゃいけないんだよ…
コナンは3枚目をめくる。
「…レイズ」す、と安室が飴を2回掴んだ。
ふふ、と名前が笑う。「……レイズ」3回飴を掴む。
「レイズは、相手よりさらに賭けること…」
「次、3枚目だが」
「数字しか出てない。2人のどちらかは、おそらくストレートを狙ってるんじゃないか」
「ストレートは連続する数字のカードを5枚揃えることです」光彦が囁く。
「アルファベットがでれば……」コナンはカードを引いた。「エース」
強く囁く世良に聞きたそうな歩実に言う。「次はショーダウンだ」「え?」「手札をすべて見せ合う。2人が賭けるか、チェックしたら…」
勝敗が決まるよ。と。
名前は「ねぇ」と言うが「話しかけないでくれないか」安室はぐぐ、と押し返すように言う。
「リドルストーリーを?」
「結末がいくつもあるお話だよね」小さなディーラーは言う。
「そう…」
ある国の国王は、結婚することになった。
だが、娘の顔は当日までわからない。
「でも当日……娘は3人いた……ひとりは真顔、ひとりは顔をしかめ……」
名前は髪をほどく。あの揺らし方をし、「ひとりは……笑ったわ……」
とん、と名前はトランプに指を置き、笑う。
れいーー
髪の広がる上に、スミスが寝転がってそう唇を動かすのが見えた。
彼女はーー…
こん、と安室が自分のかごをひっくり返した飴が一粒、落ちた。
「あなたは誰が……」
彼女は兵器なんだよ、降谷ーー
自分の花嫁か、わかる……?
名前もかごをひっくり返す。
「ショーダウン」コナンは呟いた。
「まさかさぁ」ははは、参った。と言いたげな世良がカラオケボックスの入り口に寄りかかる。
「はい!」「すごかった!」「なんか俺疲れたぞ…」
「まさかお互い、最弱のハイカードだなんて……」やられたよ、と世良は入っていく。
「でもほんとに頭脳戦だったね」蘭がコナンに言う。
「最弱のカードで全額レイズなんて、ギャンブルではだめだよ」
「そこをついたのよ!」と歩実が言うのでびっくりする。
「まさか1番弱いカードで、お互いに全額レイズするとは思わないじゃない!」
「そう!」あははは、と世良は鞄を背に笑っていた。
「怖いね、あの人」
どっちのこと?コナンは尋ねたかったが、世良にはまるで聞こえたようだった。
「安室透ーー…」
「なんで怒ってるの?」
「…れ」
「え?」カウンターからミルクを飲む名前は、中の安室を振り向くが顔が見えない。
「出てってくれ……」
「出てってって。あなたの店じゃ」
「…だよ」
ええ?と名前はまた苛立った声を出す。彼の顔も見えない。
「苦痛なんだよ!お前がそばにいるとなあっ…!」
「ーーっ」びり、とした空気にスミスは顔をそむけた。
「…頼む」また、降谷の顔は見えなくなる。「…出てってくれ……」「すき」
はっ、と降谷が動いたのがわかり、スミスは背を向けた。
「…あなたの下手な嘘のつき方は」
カラン、とベルは鳴り、降谷はずり落ちた。
「苦痛と安寧を……」動かないドアを。
ぱっ!と明かりがつきジョディは猛烈に拍手して、コナンは顔をひくつかせた。
「So sexy girls! Whip it!」
「うん」隣の昴さんもとい、赤井さんは言う。「かわいい。かわいいーー」となぜかはいはい。といった感じで遅れて拍手する。「でも勃たないな、あれじゃ」
げっ。とコナンは口にしてしまう。
やばい、赤井さんてアメリカにいたんだよなーー本物を見てないわけ……ない、よな……と。
「わああ…」よれよれと世良が背を丸める。「すごいな…こ、こんなの毎日してるプロはさ…」「きみ」と赤井さんが言うのでなぜかジョディとコナンはぎょっとする。
「きみは…体幹があるね。動き方が」す、と自身の胸元に手を当てる。「あぁ…僕は男だからできないな……」にや、とする。
「…こう」腰からウェーブする動きを世良はする。と、「それっ」蘭と園子はぐわ!と世良に寄った。「なに!?どうやったら…」「名前さんがやってたやつ!」
きら、と赤井さんは眼鏡を光らす。
「名前……?」
「あぁーー」コナンは聞こえないように呟く。「…この前赤井さんを」「ほう」首を傾けてポケットに手を突っ込む。
だろうな。と囁く声にジョディは顎を引いたが、ぱっ!と先生の顔をする。
「Oh, 誰かに教わったんですかー?」
「えぇ」はぁ、と息をする蘭から目を離すコナンに、ふふ。と笑う声が赤井さんがらする。
気に入らない。この人蘭といったいどんなダンスをーー
「安室さんと名前さんに。ほら、先生も行ったことあるでしょ?ポアロの…」
イケメンと【彼女】!園子が人差し指をたてる。
ああ……面倒なところに住み着いたな…子猫ちゃんーー
「シュウ」しっ、とジョディが言う。
「公安か……そりゃそうか。灯台もと暗し…」
ってね?と笑う赤井に、ジョディはまた先生になる。
「知ってますよー!あの人、彼女いたんですねーdamn…」パチン!と悔しそうに目の前で指を鳴らす。
まあ、たしかに演技としてはうまい。
「で」赤井は女子らに近付いていく。
「んー…」考えるしぐさをしたのが背中でわかる。くる、とコナンを振り向く。
「さわったらだめかい?もちろん、アドバイスとして」
「なっーー」
「はい!」とブンブン頷く蘭に、皆ぎょっとする。「スミマセーン」ジョディがじと目で手を広げた。ちっちっと指を動かす。
「アメリカでは未成年に手を出すのはとんでもないでーす」
日本だってそうだよ、とコナンは思う。
ていうか蘭、とふと見た。
なんでそんな熱心にーー
「おねがいしますっ」ぐ、と蘭は赤くなりがら言う。
「新一くんの目玉飛び出させたいもんねぇ?」
いっーー!とコナンも蘭も縮み上がる。
もう十分なんだよ!と叫びたかった。
「じゃあ蘭さんだよね?僕と踊るのは」
「はいっ!」蘭は位置につく。「あぁ、だめだよ」とんとん、とポールをつつく。耳打ちされた声は聞こえない。蘭は真っ赤になる。
「は、は…い……」
指を1本ずつ折り畳むような握り方に変わる。
「んん」ジョディが唸った。「教えすぎよ、シュウ」「は?」
それは……【僕】だから、もっと優しく握ってくれるかい…
蘭は息を飲んだ。安室さんと名前さんは付き合ってるけど……わたしはーー
「みんなは好きな人がいるかな?」
園子も赤くなる。「いないとなに?」世良は首をかしげる。
「なら…うん。別にいいか。高校生だろ、ちゃんと性欲を自覚してるね?抱かれたい男は?」
赤井は蘭の後ろから顔を出す。「タレントとか、ああ、ここは日本だからアニメの人物とか…架空でも」
ふ、と笑う。「いないならーーとりあえず僕でもいいよ。恥ずかしいけど」
「ちょっとー!」とジョディは言う。「あなたもう、これですよー!」両手を差し出して見せる。逮捕だ。
「っそ…それがなんで関係あるんで…ひゃあっ!」「っす!昴さ……」蘭の腰を両手で掴む。
ああだめだだめだーー!コナンはぶんぶん首を振る。
「そんなに激しく左右に腰を動かさないでくれ。男は意外と繊細だから。ただ激しくされても感じないよ。もっと、こう…」ぐ、と蘭をポールに押す。「8の字を横にしたみたいに、動かす……」
「うぅ…」蘭はもう泣きそうに見える。恥ずかしくて、だ。だが彼がそうやって動かすので、仕方ない。
新一にだって、新一だって……
「はい」ぱっ、と手を離す。まるで無罪といわんばかりに両手をあげて。「やってごらん」という声に娘らは、がた、とポールにのけぞった。
完全に有罪なんだけど。
「…あれは」はあ、とジョディは流暢に喋る。「【プロ】のやり方だわ。あの人学生になにを…まったく」コナンは睨んでいる教師を見てから言った。「まぁ……あんまり言いたくないんだけど…」赤井さんも……男、だから……。
ダンス部の女子ひとりひとりにまわっていき、まるで点検だ。
てか、妹ーーに……なに教えてんだ。
「ま、また頼む人間違えたっ…」園子は泣きそうになって囁く。「でもっ…成功させたいでしょっ!マドンナになるんでしょ」きっ!と蘭。
わたしだって、わたしだって新一をドキドキさせたいんだから!
蘭は言わないがそう思っていた。
「音楽をーー」という彼の声に、段々ボリュームがあがってくる。
「そこ」蘭の額に後ろから手をやり、はっ!と息を飲む蘭の喉が見える。
「頭ごとじゃないよ、髪の毛を振って。振り乱して、首から……動かして……」
頭を振り乱すのは本当に【最後】に…
「やべ…」コナンは素直に目をそらしたり見たりした。「No, no no」先生は目を見開く。
「ほんとに……これじゃ……」
「なったかい?」昴が顔を覗きこみ、蘭は息が止まる。「僕に……」
抱かれてる気分にーー。
強く吐息を出され囁かれ、蘭は「んーーっ…!」ぶるぶるっ!と震えた。
昴さん……!もうやめ、と声を出したくなるが、ばたん。と床に倒れる振り付けだ、と思い出してそのとおりにする。
「んあっーー!」
また額を持って上体を起こされる。
「頭をその教えた男はつかんだろ?」
「そうだよーー」とコナンは暗闇から本当に嫌そうに叫ぶ。
蘭のやつ……あんな顔するのかよ……と。
あんな顔?って?にや、としたやつを思い出した。舌打ちした。
でもなんでわかったんだ?頭を掴んだって、と。
「でもそんな乱暴にしたらだめだから、あくまで演出だからこれで…」
コントロールしないで……と彼は耳元で囁く。
「苦痛なほどの……」
か、い、ら、くをーー
スミスが同じ言葉を1文字ずつ口にする。フードをかぶっている。深く深く。
蘭が膝を同じようにつく赤井の太ももに手をやる。「く…」「そう、そのまま…手を伸ばしてーー」
まるで蛇。ただ、いるだけで恐ろしいんだよ……
「僕にただ君はーー」
伸ばした手を彼は、指を折り畳みながら握る。相当力がこもっているのか、指先が赤い。
耳元で囁く声は聞こえない。はあーっ!と蘭が口を開けるほど息を飲み、少し胸元をのけぞらした。
ふ、と明かりが消える。ついたとき、蘭は「蘭っ!?」丸まって床に頭をついたまま。「蘭姉ちゃん!?大丈夫…」ふるふる首を振る。顔は見えないが、震えている。耳まで赤い。
「っほ、ほっとい、てっ……」
皆が一斉に、誰かを見た。両手をあげる。「逮捕するわ」ジョディは聞こえるように言った。