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白黒つけたい自分の性格でもこればっかりはハッキリとした、結論を求めようとは思えなくて・・・
ただ何も考えずに彼の傍にいると楽しいのだ
彼は貧乏役者だがお金なんかどうでもいい
毎回高級レストランの気取ったディナーより、私達は公園でピクニックの方が似合っている
彼の生活が苦しければ自分が養ってやればいいのだ
彼の夢を応援する、くるみにとって何より大切なのは彼の笑顔なんだから
ポロリと涙がこぼれた、これはうれし泣きだ
彼への愛を激しく自覚した今、心が彼に飛んでいく
私達はここから始まるんだ、きっと二人は素晴らしい恋愛が出来る
そしてようやく、くるみもたった一言彼に返事を返した
―私も会いたい―
・:.。.・:.。.
・:.。.・:.。.
「秋元主任!今月の「ナショナル・ジオグラフィック」に阿部会長ファミリーが巻頭見開きページで乗っているんです!経理課から秘書課へ持って行くように言われました、何部置いておきますか?」
その声にくるみがパソコンの画面から目を離して、くるっと振り向くと、経理課の久本が腕に雑誌を山ほど抱えていた
「きゃあ!杏奈先輩とおこちゃまも載ってる?ありがとう!久本君!そうね~・・・秘書課は10部頂こうかしら」
経理課に新卒で入った彼は、役員の息子で、ついこの間までは大学生だった子だ
彼はいつもくるみが経理課のオフィスに入って行くと、顔を赤らめ、話しかけても二言以上返事が返って来るだけで、とてもシャイな性格をしていた
そして今もかなり緊張して、ディアマンテ海運でも有名の女の園「社長秘書課」に緊張しながら脚を踏み入れている
「わぁ~・・「ナショナル・ジオグラフィック」に会長が載るなんて~」
「世界でも有名な金融雑誌ですよ!これ!お金持ちしか載らないの」
「さすがねぇ~」
「私にもちょうだい」
ドサドサドサッ
「わぁ!」
新入社員の久本に秘書課の女の子達が集まって来た、するとあまりにも緊張した彼は、胸に抱えていた雑誌を落としてしまった
クスクス笑いと共に秘書達に手伝われながら、顔を真っ赤にした新人久本が雑誌を拾う
「それじゃ私も一部貰うわね、今夜おうちでゆっくり見るわ」
「ハ・・・ハイ!どうぞ、どうぞ」
「くるみ先輩~ちょっとこの令状のデーター見て下さぁ~い、保存できないんですぅ~~」
奥の資料データー係が困り顔でくるみに助けを求める
「あ~・・もしかして旧ソフト使ってる?変わったのよ、今行くわ!」
ポンッとくるみは雑誌を自分の机に放って呼ばれるままにデーター係の所に向かった
無造作に机に置かれた雑誌の背表紙には一人の男性がこちらをみて微笑んでいた
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―仮想通貨界の貴公子(佐々木洋平)未来を語る―
【本誌独占取材】
佐々木洋平氏はまだ30歳にもかかわらず、2020年に彼の仮想通貨開発で業界に進撃をもたらした1人だ、世界中300万人のXフォロワーと業界内からの多くの支持者を獲得している、日本を代表する富豪、QFSブロックチェーンシステムの開発者の彼にこれからの世界の価格変動の予測を本誌でたっぷり語ってもらった――45P
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週末の土曜日くるみは生まれて初めて男性を自宅に誘った
ゆっくり彼と美味しい夕食を食べながら、いろんな話をしたかった
保守的な両親はくるみをとても奥手の女性に育て上げた
いつの間にか妹が結婚する歳になり、自分も大人の恋をそろそろしてみてもいい頃だ
誠とは初体験もその後の行為も何回か、彼の部屋で慌ただしく体を重ねただけだが
それがとても良いもので、ロマンチックなものだとは、くるみには到底思えなかった
でも今夜はくるみは洋平に部屋に泊って欲しいと思っていた、そのために今週はずっとこの日の為に準備してきた
部屋をクローゼットの中まで整理整頓し、カーペットには丁寧にコロコロをかけ、髪の毛一本も見逃さず部屋をピカピカにした
冷蔵庫を二人で食べる食品で満たし、お菓子もたっぷり用意し、彼の着替えまで用意した、それはただ彼に喜んでもらいたかったから
きっとお金のない二人のデートは、いつもどちらかの家を行き来するようなデートになるだろう
それでも十分楽しいはずだ
くるみは大きな耐熱皿に腕によりをかけてローストビーフを作った、キッチンには肉の焼ける匂いと、ローズマリーの香ばしい香りが充満した
シャワーを浴び、シーツまで取り替えて彼がやって来るのを、ときめきながら心待ちにした
約束の7時になったが彼は現れなかった
くるみは経理課の久本に貰った雑誌をパラパラめくっていたが、どれも活字を追いかけているだけで内容は入ってこなかった
彼を心待ちにするあまり、10分間に三回も壁の時計を見た
テーブルのローストビーフのクレソンが、少し萎びてきて、洋平の好きな白ワインが刺さっているワインクーラーの氷が解け始めていた
八時にはくるみは心配で部屋を歩き回っていた、彼は恐ろしい事故に遭ったにのかもしれない、LINEを二回ほど送ってみたが返事はなかった
白ワインは冷蔵庫にしまわれ、くるみはくたびれ果てて神経がピリピリしていた
ついに八時半に玄関ホールのインターフォンが鳴った
その時はすでに致命傷を負った洋平が病院の手術台に横たわった姿を想像していた
くるみは急いでドアを開けて、エレベータの前で彼を待ち構えた
エレベータ―が開くとそこには洋平がすっくと立っていた、目の下にクマをこしらえているが、素晴らしくハンサムだ
黒っぽいパーカーにカーキーのジャケットに、大きな花束とケーキのボックスを抱えている
カジュアルな服装をしていても、ちょっとした動作から彼の人柄の良さ、全身から発せられるエネルギーを強烈に感じずにはいられなかった
彼が意図しなくても、あの妹の結婚式の時に感じた通り、部屋に1歩彼が踏み入れた時からみんなの注目が集まる人、それは長年の俳優としての資質や訓練の成果だろう
くるみは彼の腕に飛び込んで花束を押しつぶした
「大変な歓迎ぶりだな」
洋平は顔を近づけ、くるみの唇に触れんばかりにして言った
「遅くなってごめん・・・仕事でトラブって・・・ひどい一日だった」
彼は花束をくるみに渡し、ぎゅっと抱きしめながら玄関まで、まるでくるみを抱えて、運ぶようにのしのし歩いた
クスクス笑いがこぼれる、彼に会えてとっても嬉しい
がチャンッと玄関に入り、ドアを閉めた途端、彼からの息もつかないほどのキスをされた
嬉しさで心がはずむ
そっと耳元で甘く囁かれた
「ある会合に捕まって、抜け出すどころか電話もかけられなかった」
「心配したのよ・・・・」
「何でも言う事聞くから許して」
「それじゃキスして」
「キスだけでいいの?」
くるみは彼にすり寄った、洋平がここに何の怪我も無く、元気で来てくれたことがとても嬉しかった
「あなたのお仕事は理解しているつもりよ、抜け出すのが難しいのはよくわかるわ。俳優が一度セットに入ってしまえばデートがあるから帰る時間だとは言えないものね・・・」
洋平は急に戸惑った顔をしてじっとくるみの顔を見た
「いや・・・セッ トじゃないんだ実はそれも・・・今晩君に話したいと思ってるんだ」
「あなたが今撮ってる映画のこと?」
ハッとしてくるみは洋平をじっと見た、ゴクンッと洋平はくるみを見て喉を鳴らした
「洋平君・・・あなた・・・・もしかして干されたの?元気を出して!あなたは素晴らしい俳優よ!」
はぁ~・・・と洋平が脱落して、その場にしゃがんで手をヒラヒラした
「いやいや・・・そうじゃない、心配しないで、首になったとかそんなんじゃ全然ないんだ」
洋平はくるみに手を引かれ居間に入り、準備万端整ったテーブルを見渡した
「うわぁ~!すごい!これ全部くるちゃんが作ってくれたの?」
「フフフッ・・・ねぇ・・早く食べた方がいいと思わない?もうクレソンも萎びて来ちゃっているから、ゆっくりお話しするのはその後ね?」
「僕腹ペコなんだ!!食べさせて!」
くるみは洋平を向かいに座らせて、取り皿にサラダとローストビーフを持った
「私のおすすめの食べ方は、ワサビ醤油でお肉を頂くの・・・後でラーメンもあるのよ」
「うまいっ!これマジで上手い!」
洋平はガツガツとくるみの作った料理とワインを、美味しそうに口に運んでいる
素晴らしいワインと美味しい食事、それに楽しい会話に心が弾んで、洋平と視線を交わすたびに、突き抜ける性的な感覚を、くるみは心地よく感じていた
つい数か月前ならベーカリーで彼に出会って、こんな風に熱く見つめられたとしても、胸が高鳴ることなど無かっただろう
彼の肩が・・・指が・・・・軽くくるみの体のどこかに触れる度に、息が止まりそうになることも無かっただろう・・・
頬がちくちくするのも、胃を締めつける痛みも、動悸がするのも皆、原因は一つ・・・・単純なことなのだ
彼は初めて会った時からその素敵な笑顔で、くるみの警戒心を溶き
少しづつ・・少しづつ・・・恋に傷ついたくるみの心の中に入り込んで来た
ああ・・・この顔が大好き・・・・
くるみは洋平に抱きしめて欲しかった、抱いてすべてを奪って欲しかった
彼に女であるとはどんなことなのか分からせて欲しかった
かつてないほど本能的になっている自分が怖くなり、くるみはまたそろそろとワイングラスに手を伸ばした。だが洋平がその手を取りくるみのグラスをそっと取り上げた
「今から大事な話をするから、君にはしらふでいて欲しい」
「私も大事な話があるの」
洋平はくるみの隣に座り、これ以上は無い優しさでくるみ頬の輪郭と・・・細い喉を指でたどった
くるみはご主人に触られて喜んでいる猫のような、気分になった、今ならゴロゴロ喉を鳴らせそうだ
「僕を見て・・・くるちゃん・・・僕達はお互いに正直になる時だと思う・・・もう演技はやめだ、今までさんざんついてきた嘘ももう終わりだ。君を恋人にするなら本当に正直な気持ちで向き合いたい」
「洋平君・・・・私もよ・・・」
くるみは熱い洋平の胸に体をあずけた、しっかり彼が抱きしめてくれている