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次の日の朝。
窓際から差す光が淡くて、
すちは昨日より少し緊張した面持ちで
声をかけた。
「おはよ、こさめちゃん」
こさめは一瞬だけ顔を上げて、
「……おはよ」
小さく会釈して、すぐに目を逸らした。
(あ、やっぱ避けてる?)
すちの胸に、
小さな棘みたいな違和感が残る。
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
──昼休み。
すちとみことは中庭のベンチで弁当を
食べていた。
「ねぇ、みこちゃん」
「ん?どしたの?」
「最近こさめちゃん、なんか俺のこと
避けてる気がして」
「避けてる?こさめちゃんが?」
「昨日までは普通だったのに、
今日は目も合わせてくれないんだよ」
「……そっか」
一瞬だけ、みことの箸が止まった。
そのあと、にこっと笑って、
「じゃあ、俺がすっちーとずっと喋ってて
あげよっか」
「え?」
「だってさ、すっちーが誰かと楽しそうに
してたら、こさめちゃんも何か思うかも
しれないじゃん?」
「……いや、それはどうなんだろ」
みことは笑いながらそう言ったけど、
その目の奥にはほんの少しだけ、
何かが滲んでいた。
──そのやりとりを、
廊下のドア越しに偶然聞いていたこさめ。
(みことくん…、そういうつもりで
言ってるんじゃ、ないよね…?)
(でも……なんで、胸がこんなに痛いの)
胸の奥でチクリとした痛みが広がる。
こさめはそのまま、
何も言えずに踵を返した。
──背中の向こうで、すちとみことの
笑い声が混じって聞こえる。
その音が、どうしても耳から
離れなかった。
(なんで……、こんなに、胸が痛いの…)
手のひらで目元を押さえて、
小さく息を吐く。
──その時。
「……こさめ?」
声をかけたのは、いるまだった。
隣にはなつもいる。
「え、いるまくん…? あ、なつくんも」
「どしたの。泣いてね?」
「な、泣いてないよ、全然」
こさめは慌てて笑顔を作るけど、
鼻の奥が少し赤くなっている。
なつが小声でいるまの袖を引っ張る。
「(多分、なんかあったんだと思う)」
いるまは静かにしゃがんで、
こさめの目線まで顔を下げた。
「……無理すんなよ」
「え?」
「わかんねぇけど、そういう顔の
ときって、強がると余計しんどいだろ」
一瞬で、
こさめの目が潤んだ。
「……やだなぁ、ばれたか」
「ばればれ」
なつが小さく笑う。
「でも、話したくなったら聞くから」
「うん……ありがと」
なつは何も言わず、
ただ黙ってカステラを渡す。
「ほら、これしょうがねーから上げる
甘いもん食べて元気だせ」
「……ありがとう、なつくん いるまくん」
少しだけ笑顔を取り戻したこさめの横で、
いるまがそっと呟いた。
「俺ら友達だろ
無理して笑うの、似合わねーぞ」
その言葉に、
こさめの肩が小さく震えて、
「……うん」と頷いた。
──窓の外では、
夕立が優しく音を立てていた。
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
放課後。
校舎裏の西陽が、窓の縁を黄金色に
染めていた。
こさめは鞄を握りしめながら、
ひとり深呼吸をした。
(今日、そんな話せなかった……。
でも、逃げてたら何も変わんないよな……)
鏡の前で作った笑顔を思い出しながら、
足を前に出す。
教室の扉を開けると、
まだ残っていたすちとみことの
姿が見えた。
──その瞬間、胸がぎゅっと痛む。
けれどこさめは、
それを押し殺して歩み寄った。
「すちくん! あのさっ」
「……ん?」
すちは顔を上げ、
ほんの一瞬だけ目を合わせたが、
すぐに視線を逸らした。
「昨日、ありがとね。傘。助かった」
「……うん、別に」
短い返事。
けれどこさめは、その“別に”の中に
少しだけ優しさを感じ取ろうとした。
「今日ね、あの……すっちーが好きそうな
カフェ見つけて今度行かない?」
笑顔を作る。
でも、声が少しだけ震えた。
「……そう。ありがと でも遠慮しとく」
それだけ。
またすちは、ノートへと視線を落とした。
──沈黙。
たまたま教室に入ってきて、
みことが少しだけ空気を察して、
そっと口を開いた。
「こさめちゃん、すっちー集中してる時
話しかけると無視する?タイプだからさ。
悪気ないよ」
「うん、わかってる」
そう答える声は明るかった。
でも、笑顔の裏で
拳がぎゅっと震えていた。
(いいんだ……。何回避けられても、
いつか絶対、俺のこと見てくれるって)
こさめはそう胸の中で呟くと、
もう一度だけ笑った。
「じゃあ、また明日ね! すっちー!
みことくん!」
背を向けて歩き出したあと、
誰もいない廊下で小さく息を吐いた。
「……はぁ…、ッ、だめだ、涙出そう」
それでも、
瞳の奥にはほんの少しだけ、
光が戻っていた。
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐