テラーノベル
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真っ暗闇を無様に落下した後——僕は硬い地面に、お尻を強かに打ちつけた。 呻きながら、何とか床に落ちた拳銃に手を伸ばす。
そこは、周囲を石造りの壁、床、そして天井に囲まれた一室だった。
天井に取り付けられた裸電球が、床に倒れている制服姿の少女を照らし出している。
「——由宇っ!」
僕は大声で叫びながら、必死に立ち上がった。
駆け寄り、横たわった由宇の顔を覗き込む。
由宇は安らかな寝顔で、すうすうと寝息を立てていた。
ほっとしたのも束の間、全身の毛が逆立つような悪寒に襲われ、僕は慌てて立ち上がった。
銃口を部屋のあちこちに向けるが、自分と由宇の他には誰一人として見当たらない。
しかし、明確な敵意——いや、殺意が僕へと向けられている。
僕は深呼吸しながら、ゆっくりと目を閉じた。
頬を嫌な汗がつたう。
落ち着け。
落ち着け、落ち着け、落ち着け。
殺意の出どころを見極めろ。
自らに言い聞かせながら、僕は精神を集中させた。
——数秒後。
僕は目を見開き、勢いよく振り返った。
背後では、いつの間にか由宇が立ち上がっていた。
いや——もはや、それは由宇ではなかった。
失敗した福笑いのように、顔面の各パーツが不自然に左側に寄っている。
その右手は、鋭い五本の爪が二十センチ程の長さに伸びていた。
「——イイイィィィィィィィッ!」
それの口から、甲高い奇声が発せられる。
右腕を振り上げたそれが、僕に襲い掛かろうとする寸前——僕はそれの鼻先に突き付けた拳銃の引き金を引いた。
バァン、という発砲音が響き渡り、反動で手が跳ね上がる。
赤い閃光が瞬くと同時に、魔力の込められた弾丸がそれの顔面を撃ち抜いた。
鼻から上が爆ぜ、周囲に飛び散る。
至近距離に居た僕も、それの一部を浴びた。
顔や服に、ピンク色の肉片が付着する。
「イ……イイィ……」
それは喉の奥からか細い声を絞り出しながら、よろよろと後退した。
吹き飛んだ顔面からは、血は一滴も流れ落ちていなかった。
抉れた部分から垣間見えるそれの内部には、ただただピンク色の肉が詰まっていた。
と——それの輪郭が、ぐにゃりと崩れ。
その体は、蝋人形のようにどろどろになって溶けてしまった。
廃ビルで一杯食わされた、偽物の由宇と全く同じ溶け方だ。
吐瀉物のように広がるそれを見下ろしながら、僕は大きく息を吐いた。
手が小刻みに震える。
銃を撃つのは初めてだ。
磯田さんが言っていた通り、「撃つ」という意志に従い、体は勝手に動いた。
もしこれが本物の由宇だったら——少しでもそう疑ってしまっていたら、今頃は爪で切り裂かれていただろう。
「やるじゃあないか」
突然、しゃがれた声が背後から聴こえた。
振り返るより先に、何本もの蔓が体に巻き付く。
銃を握りしめたままの状態で、僕の体はぐるぐる巻きにされてしまった。
銃口は下を向いており、自力で動かすことはできない。
「く、くそっ——」
「男子三日会わざれば何とやらと言うが——この短時間で、随分といい顔になったじゃないか。ちゃあんと、相手を殺す覚悟のある顔だ」
ひっひっひっ、という笑い声と共に、蔓が僕の体を持ち上げる。
蔓は空中で、先端部分——じたばたと暴れる僕を、くるりと方向転換させた。
こうして僕は、ようやく嫌悪しつつも探し求めた相手——〝宵闇〟の魔女と、再び顔を突き合わせることとなった。
にやにやと笑う魔女の肩にはナハトが乗り、今まさに僕を拘束している蔓を吐き出している。
「にしても、よくこんなところまで追いかけてきたねえ。こっちの世界には、次元の門を潜ってやってきたんだとして——この家には、どうやって忍び込んだんだい?」
「畜生!由宇はどこだ!?」
「相変わらず無礼な餓鬼だねえ。質問に質問で返すんじゃあないよ」
#怪異
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123
リユ
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#ダークファンタジー
阿炎快空
82
阿炎快空
111
顔をしかめて、魔女が続ける。
「お前らだけの力で、ここまで来られるわけがない。それに、肉人形の頭を吹っ飛ばした、その物騒な玩具。何やら面白い魔法がかかってるねえ。誰かが後ろで手を引いているのか——ま、詳しい話は後でゆっくり、お前の体に聞こうじゃないか。アタシは今、忙しくってねえ」
魔女はそこで言葉を切ると、肩の黒猫をチラリと見て、
「ナハト」
と声をかけた。
ナハトがそれに応え、口を大きく開ける。
次の瞬間——僕の体はまるで巨大な掃除機に吸い込まれるかのように、ナハトの口内へと引き寄せられた。
「う——うわああああああああああっ!?」
自分の体が歪み、口のサイズに合わせて縮小するのを感じる。
口が閉じ、視界が闇に包まれる寸前——絶叫する僕の耳に、魔女の言葉がやけにはっきりと届いた。
「安心しなあ——愛しの彼女には、すぐに会わせてやるからさあ」
一体、どれほどの蜥蜴人間を屠ったのか。
蒼梧はとっくに、数えるのをやめていた。
「ウオラアアアアアアアッ!」
蒼梧は獣のように咆哮しつつ、金棒を手あたり次第に振り回した。
いくら蒼梧とはいえ、本来であれば蜥蜴人間の人海戦術を前に、やがては力尽きていただろう。
しかし。
不可思議なことに——死闘を続ける内に蒼梧の動きは、右肩上がりにキレを増していった。
当人は気づいていなかったが、蒼梧の見た目は鳥居の前で拝み屋・幸村汐里の結界を破った時と同じく、徐々に変貌を遂げていた。
目は血走り。
血管は浮き上がり。
そして——頭部には、小さな二本の角のようなものが生え始めていた。
壁の瞳達は驚愕のあまり大きく見開かれ、口達は恐怖のあまりその声を震わせた。
「なんだこいつは……」「人間ではない……」「鬼だ……」「地獄の鬼だ……」
やがて——蒼梧は最後の一匹の頭に、金棒を振り下ろした。
「ギエエッ!?」
舌が異様に長い個体が、脳漿を撒き散らしながら倒れる。
今や蒼梧の周りには、百体ほどの屍が、無残な姿で転がっていた。
部屋中に血や内臓が飛び散った地獄絵図の中心で、蒼梧自身も返り血を全身に浴びている。
蒼梧は金棒を杖のようにして体を支えつつ、ゼイゼイと荒い息を吐いた。
(……流石に……疲れたな……)
「蒼梧さん、大丈夫ですか!?」
背中から、オーマの不安そうな声が聞こえる。
「ああ——全然余裕だ」
蒼梧は強がって笑うと、顔をあげ、声を張り上げた。
「どうした!?もう終わりか!?」
その瞬間——部屋中の蛍光灯が、示し合せたかのようにチカチカと点滅を始めた。
続けて、照明が一斉に落ち、室内が暗闇に包まれる。
「わわっ——こ、これは——」
オーマが何事かを言いかけたが、それを遮るように、パッと部屋が明るくなった。
停電の時間は、僅かに二秒ほど。
だが。
「……マジかよ」
溜息をつく蒼梧の目の前には、廃ビルにも居た、真っ赤な巨漢の怪物が立っていた。
魔女の側近らしき、赤と青のコンビの片割れだ。
赤い怪物は蒼梧を見下ろし意地悪く笑いながら、手の骨をポキポキと鳴らした。
「糞ったれが……」
蒼梧は毒づきながら、最後の力を振り絞って金棒を構えなおした。
しかし、そんな蒼梧を嘲笑うかのように、背後から、
「イヒヒッ」
という耳障りな声が聞こえた。
咄嗟に振り返った蒼梧が見たのは、もう一体の側近——ひょろりとした体型の、青い怪物の姿だった。
(しまった——)
反撃も、回避もできなかった。
青い怪物の拳が、凄まじい速度と威力で顔面を捉え——蒼梧の意識は、そこで途絶えた。
コメント
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うわっ……もう息詰まる展開すぎて読んでる間ずっとドキドキしてたよ……。主人公が由宇ちゃんを撃つ覚悟決めたところ、震える手とか銃が初めてって描写がリアルで胸が痛かった。それなのに魔女にあっさり捕まってナハトに飲み込まれるとか、絶望感がやばい……。蒼梧さんの鬼化も気になるし、次が待ちきれないよ😭