「えへへっそろそろ貯まったかな ~ っ ?」
るなは自室にある大きなガラス瓶10個程をどんっと机に置いた。
ガラス瓶の中には、折り紙で折られた紙風船がぎっしり詰まっていて、るなはその瓶の蓋をあけて紙風船たちを中から出す。
そしてその紙風船を元の折り紙に戻せば、中に入った100円玉が顔を出した。
「わ 、これはゆあんくんと初めてデートした日のことかいてるっ!」
そしてその折り紙には、
『今日は初めてゆあんくんとデートしましたっ!!映画を見たりショッピングしたり……とても楽しかったです♪』
という文字が綴られていた。
__そうこの100円玉が包まれた紙風船がいっぱい入ったガラス瓶はるなの 『幸せ貯金箱』なのだ。
嬉しかったこと、楽しかったことなど幸せに感じた時に、それを折り紙に書いて100円入れて紙風船の形に折る。
そしてそれをガラス瓶に入れてお金を貯めるというどこかの雑誌に書いてあったアイディアを見よう見まねでやったもの。
気が付けば5年ほどやっていて、随分貯まったものだ。
これならるなの欲しいものも買えそうだ。
るなはまたふふっと笑みをこぼしながら、次の紙風船を開ける作業に取り掛かった。
ゆあんが告白してくれた日のこと。
初めて喧嘩して、そのあと仲直りのクレープを買って笑ったこと。
顔を真っ赤にしたゆあんに同棲しないかと誘われたこと。
(ゆあんくんと付き合ってから幸せでいっぱいだなぁ)
そうして思い出を開けていく作業が終わり、机の上にはたくさんの100円玉。
るなはそれを大きな巾着袋にいれた。
「よ ~ し ……!これを銀行に行って両替してもらって……あれを買うぞ ~ ♪」
るなは歌を口ずさみながら巾着袋を手に家を出た。
✱✱✱
「ゆーあーんーくん!!!今日はなんの日でしょうか ~ ?」
るなが作ったご飯を頬張るゆあんに、るなはそう聞く。
ゆあんはカレンダーの日付を眺めながら、あー 、と呟いた。
「そっか 。今日はるなと付き合ってちょうど5年の日だね。」
「うん !せいかーいー!!それでね、るな、ゆあんくんにプレゼントがあるんだ ~ 。」
「プレゼント?」
首をこてんと傾げるゆあんに苦笑しながらも、るなは頷きながら先程銀行で両替した後に買いに行ったプレゼントを後ろからとり、ゆあんに渡した。
「はい、どーぞ!!いつもありがとう。ゆあんくんっ」
「ありがとるな 。嬉しい」
そこまで高さのないプレゼントの箱のリボンをするっとゆあんが外す。
そして蓋を開けて現れたのは2匹のテディベアだ。
「テディベア?」
「そ ~ !!こっちの水色の子がゆあんくんで、るなは赤色なんだよっ!」
赤色のテディベアの方をるなは持ち上げてゆあんに見せた。
そのテディベアの首にはリボンが巻かれ、真ん中にはゆあんの誕生石のガーネットがきらりと光っている。
「すご 、……俺のはアメジストなんだ。」
「うん!るなの誕生石。本物だよ ~ !」
「ほっ……!?!?!!?」
そう、ゆあんにと用意した水色のテディベアにはるなの誕生石であるアメジストが飾られている。
テディベアの色と宝石の種類を自分で組み替えられるもので、アクセサリーショップでるなが一目惚れしたものだった。
ゆあんは宝石が本物である事に驚いているようで、目をパチパチと瞬かせる。
「も、貰ったものにお金の話をするのもあれだけど、……これ結構したんじゃ……?」
恐る恐ると聞くゆあんにるなはニコッと笑った。
確かにるなから見ても一般的には高いと思われるもので。
(でも、これは……)
「これはね 、ゆあんくんから貰った幸せで買ったものなんだよ 。」
「え?」
「付き合ってからずっと思ってたの。なにか記念日にあげれたらな ~ って。だからしあわせ貯金してたんだよ。」
「しあわせ貯金?」
聞き馴染みのない言葉に、ゆあんは首を傾げる。
「ゆあんくんがしてくれて嬉しかったこと、楽しかったこと、幸せだなぁって思ったことを書いて、その分お金を入れてたんだ。ゆあんくんと付き合って5年間、たくさん幸せなことがあって、このテディベアはその幸せだなぁって思って貯めたお金で買ったもの。」
銀行で両替しにいくときも、あまりの小銭の量になかなか大変で。
テディベアを買っても尚、お金は余っていて。
それくらい、いやきっとこのお金以上にゆあんはるなに幸せをくれているのだ。
「ゆあんくん、最近仕事で夜遅くに帰ってくることが多くなったでしょ?外国に行くことも沢山あるし……。だからね、お守り代わりにでもなれたらいいなぁって思って。」
「……るなっ」
「わわ……!?」
るなの話を静かに聞いてたゆあんが顔を上げ、力一杯るなを抱きしめた。
「るな、ありがとう…テディベア、一生大事にするから。」
「えへ……、どういたしましてです!」
涙声でそう言うゆあんが可愛くて、るなは笑いながら返事する。
しばらくるなの肩に顔を埋めていたゆあんだったが、急にがばっと顔を上げた。
「るな、さっきの話だけど、るなだけじゃないよ」
「え…?どういうこと、?」
るなだけじゃない、とは一体なんのことだろうか。
るなはこてんと首を傾げながら頭にはてなを浮かべてると、ゆあんは真剣な顔で続けた。
「告白をした時、真っ赤になりながらも笑顔で俺の想いに応えてくれた時。初めて喧嘩した時に、仲直りのクレープを俺もるなも買ってきて2人で笑った時。2人で旅行に行った時。同棲しない?っていう俺の誘いに答えてくれた時も、それ以外の時だって、俺もるなに幸せをもらってるんだよ。きっと、俺が幸せ貯金をしたらるな以上にお金が貯まるくらいにね」
「ゆあんくん……」
ゆあんが話してくれたのは、全部るなが幸せ貯金で書いてたもの。
その時もそれ以外も、るなと同じように幸せを感じてくれてたなんて。
るなは嬉しさで胸がいっぱいになって、ただゆあんの名だけを呼んだ。
そんなるなの手をぎゅっと握って、ゆあんはさらに続けた。
「この先も、るなの隣で幸せを感じ続けたい。そしてるなも、俺が絶対に幸せにするから。」
「うん、……うん!るなも、ゆあんくんを世界一幸せな人にするっ!」
るなはゆあんの手を握り返して、大きく大きく頷いて、笑顔で宣言した。
そんなるなを慈しむような優しい表情を浮かべていたゆあんが、はっと何かを思い出したかのような顔をした。
「そうだ、俺もプレゼントがあるんだった。開けてみて欲しいな」
「わぁ……!ありがとうっ!……ってこれ…」
ゆあんのポッケから出された小さなジュエリーケースの箱を開ければ、そこにはお月様の真ん中に小さな宝石__ガーネットが埋め込まれているネックレスで。
驚いたるながゆあんの首元を見れば、同じお月様にアメジストが埋め込まれているネックレスが揺れている。
「ごめん、まさか誕生石が被るとは思わなかったから……」
「う、ううん!!嬉しい!!超嬉しいです!!」
申し訳なさそうに頭を下げるゆあんに慌てて首を振るるな。
だって、好きな人と思考回路が一緒なのだ。嬉しくないわけがない。
るながもう一度ジュエリーケースを覗けば、ネックレスがキラキラと輝いていて。
るなはそのネックレスを首に下げ、ぎゅっと大切にお月様を握った。
「えへへっ……今日だけで2つも宝物が増えちゃったね……!」
「うん、そうだね 。」
「これからもよろしくお願いしますっ 。ゆあんくんっ!」
「うん 。これからもよろしく、るな 。」
ゆあんとそう言いあって、お互いもう一度ぎゅっと抱きしめた。
✱✱✱
「俺もるなみたいにしあわせ貯金してみようかな。」
「いいね 。るなもまだ貯めてるんだっ、それにテディベアを買って余ったお金もあるの!」
「今度2人で貯めたしあわせ貯金で旅行でも行く?」
「えっ!?いきたいいきた ~ い!!」
大きなソファに2人がくっついて座って、幸せ溢れる会話を紡いでいく。
そんな2人を、2人の首元できらりと光るお月様と、2匹のテディベアが優しく見守っていた。
コメント
5件
すごくすごくかわいいおはなしでした! こんな世界があったとは…✨すごく素敵でした😭
ただただ尊い…😭 お話が天才すぎる…!! あおちゃんのyarnの小説の中でも 一番好きになりました✨💪 本当に天才!!!!!! 癒しをありがとう🥹🫶
スンッ( ˙꒳˙ )