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「お前が、お前さえいなければ。娘は死ななかったんだ!」
「お前らが加奈子を奴隷のようにこき使うから!!」
首を絞められている。
刺された傷口からこぼれる血が止まらない。
長く伸ばした前髪の隙間から、惨状が見えた。
メラメラと燃えさかる屋敷、ナイフで刺された親父と、その愛人。
我先にと逃げ出す使用人たち。
現代日本を代表するグループ企業、オレのシヴァ・コンツェルンがこんな形で終わるとは思わなかった。
「お前は人間のクズだ。他人の命を使い潰して利益を吸い上げる、醜いヒルめ! これは当然の報いだ!!」
男が何か騒いでいる。
確か、娘を殺されたとか言っていた。
殺されたというが、自殺だろう?
ちょっとパワハラされただけで死を選ぶとは情けない。
その女が特別弱かっただけじゃないのか?
絞り出したオレの言葉に男が激高する。
人権がどうのとか、娘はあんな死に方をするべきじゃなかっただのと言う。
笑わせる。
オレから言わせれば、人権など弱者が生み出した妄想に過ぎない。
命は地球より重いとか言う馬鹿がいるが、あれは戯れ言だ。
しわくちゃの老人より、精悍(せいかん)な若者の方が遙かに利用価値がある。
死にかけの病人より、健康な人間の方が使えるのは当然のことだ。
なぜ事実から目を逸らす?
答えは簡単だ。弱者は自分の無価値さを知りたくないのだ。
現実と向き合わず、考えることを止めた豚は食い殺されると決まっている。
こんなこと23のオレにもわかるのに、この愚かな男は40になっても気づけないでいる。
考えるだけの頭がないのだ。
だから、感情的に放火し殺人まで犯してしまう。
底抜けの馬鹿というのは恐ろしい。
お前のせいでどれだけの社員が職を失い、首を吊ると思っているのか。
関連企業が連鎖倒産することの意味を何も理解していない。
一人だ。
たった一人死んだだけだ。
失われたなら補填(ほじゅう)すればいい。
ただ、それだけの話なのに。
「馬鹿が、ガキが欲しいならまた作ればいいだろう」
「このガキが!! 娘は、オレ達は奴隷じゃない!! 数字でもない!! 命は平等なんだ!! なぜそれがわからない!! お前のような奴がいるから……!!」
奴隷、奴隷か。
いいなぁ。それはいい。
そもそも労働者に権利があるというのが間違っている。
仕事を与えられ、対価として金までもらっているというのに、文句を言うような労働者は全員パワハラで死ぬべきだ。
意識が薄れていく。
どうやら、ここまでのようだ。
もし、来世があるのなら奴隷商人にでもなろうか。
正しく命に値段をつけ、不要な者は殺し、有要な者だけを生かすのだ。
この世のすべてに傅(かしず)かれ、オレは幸福のうちに生涯を終えるだろう。