テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
校舎裏から離れて、誰もいない廊下を歩きながら、翠は考えていた。
頭は、妙に冷えていた。
痛みも、悔しさも、全部いったん棚に上げて、
ただ「どうすれば、赫ちゃんが苦しまないか」だけを並べていく。
──俺が、ターゲットになればいい。
それだけで、赫に向く視線は減る。
赫は保健室登校で、直接の被害はもう出にくい。
だったら、その“矛先”を全部、自分が受ければいい。
それは、逃げじゃなかった。
計算だった。
いじめは、証拠がなければ“なかったこと”になる。
先生は通り過ぎた。
見ていたはずなのに、止めなかった。
──だったら、残すしかない。
翠はスマホをポケットの奥で握る。
いつも使う位置より、少し深いところ。
些細なことじゃない。
陰口とか、笑われるだけのやつじゃない。
呼び出されるとき。
囲まれるとき。
逃げ場がなくて、声を出せない瞬間。
そういう“重いやつ”だけを、こっそり。
カメラは向けない。
画面も確認しない。
ただ、起動して、音と空気を残すだけ。
「俺が壊れる代わりに、赫ちゃんが守られるなら」
その考えが、胸の奥で静かに根を張る。
放課後。
案の定、呼び出しは来た。
「おい、ちょっと来いよ」
軽い声。
でも、その裏にあるものを、翠はもう知っている。
スマホをポケットに入れたまま、指だけで操作する。
画面は見ない。
確認もしない。
失敗してもいい。
成功したら、それでいい。
校舎の死角。
人気のない場所。
「最近さ、調子乗ってない?」
誰かが笑う。
別の誰かが、近づく。
その瞬間、胸の奥がぎゅっと縮んだ。
怖い。
本当は、めちゃくちゃ怖い。
それでも、翠は下を向いたまま、何も言わなかった。
──大丈夫。
──これは、必要なこと。
殴られた衝撃で、視界が揺れる。
音が遠くなる。
それでも、スマホは離さなかった。
指が震えても、止めなかった。
「おい、黙ってんじゃねぇよ」
その言葉が、記録されていく。
翠は思う。
これがあれば。
これを集めれば。
赫の「言いにくそうな顔」を、もう見なくて済む。
黄が悩まなくて済む。
瑞が不安にならなくて済む。
学校に、ちゃんと“信じてもらえる”。
──だから俺は、平気。
そう言い聞かせながら、
翠は少しずつ、“自分を守る理由”を削っていった。
その夜。
家では、赫の話題ばかりだった。
「今日はどうだった?」
「無理しなくていいから」
翠は、聞くだけ。
ポケットの中で、
いくつか増えた“証拠”が、やけに重かった。
コメント
1件

ああああああ好きすぎる( 翠っちゃんよ自分をもっと大切にしてくれよぉ 続き全力ベット待機(((