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あからさまな愛想笑いをどうにか浮かべる。高見は腕組みして、
「まぁ、事情はわかったよ。……改めて、未来の話をしようか。――俺としては、仕切り直してもっぺんどうかなと思ってるんだけど」
雪緒は怪訝な顔で高見を見上げた。
「もっぺん……」
「バーでムード作るとこから」
そこをかっ飛ばしてホテルの部屋からやり直さないところが、高見らしい。
雪緒は黙って頭の中に『仕切り直した場合のシミュレーション』を浮かべてみた。
……一旦冷めきった頭で、この、会社の先輩の前で裸になる自分を想像してみると、それくらいなら下着姿で天気予報の中継の後ろを駆け抜けるほうがましな気がしてくる。
よく、あのときはやれると思ったものだ。
気が狂っていたとしか思えない。
「すみません。あのときは頭がどうかしていたみたいです」
「……ストレート過ぎない?」
一周回って、感心したように高見が漏らす。
それから一つ息を吐き、
「そうだよな。清水ってそもそもそういうタイプだよな。だから俺も飛びついたんだから……って、千載一遇のチャンスをふいにしたってこと? 辛いわ」
重ねて謝ると、苦笑いの高見に解放された。
一人で、サーバルームから退去する。
部屋を出て、通路を右に向かえば元の居室。
――ふらりと、左に向かった。
タイルカーペットが敷き詰められた通路の行き止まりは、天井から足元までガラス張りだ。
定期的に内も外も掃除されるガラスは染み一つない。
眼下には東京の街が止めどなく広がっている。
広い、広い、果てしなく広い。
人一人、いくらでも、隠れられる。
真。どこにいるの?
この、無数の建物のどこかにいるの?
今なら、許す。だから、帰ってきて。
そう考えて、自嘲する。
真は私の許しなんか求めない。
私より愛する相手ができて、出ていったんだから。
子供のころから、背が高かった。
単に口下手だから口数が少なかっただけなのに、「クール」「ミステリアス」と言われた。
大人になってからもそれは変わらず。
長女体質でしっかりしていたから、「隙」とか「天然」などとは無縁だった。
「ほっとけない」「俺がいないと」などと、男心や庇護欲をかき立てるような部分が皆無な自覚はある。
そんな自分を選んでくれたのが、真だったのに。