テラーノベル
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魂が肉体から切り離された感覚がした、それか、足元にぽっかり穴が開いてストンっと地獄のそこまで落ちた気分、あたりが真っ暗になって、ジャスティンしか見えない
は・・・半年の命?
そこで考えが頭を巡らす、ジャスティンは死ぬの?・・・・・・
「び・・・病院・・!く・・・薬・・・あ・・・あきらめなければ・・・きっと・・・」
竜馬は弾けるように立ち上がった、今すぐにでもジャスティンを病院に連れていかなきゃ、咄嗟に浮かんだのは救急車だった、例の黒のスーツの人物は落ち着き払った表情で二人のやり取りをじっと見ている
「き・・・・救急車っ―」
「無駄だ・・・竜馬・・・・落ち着け・・・・金にものを言わせて、今までさんざん最先端の治療を受けてきた」
ジャスティンもとても落ち着いていた、まるですべてを悟っていかのような仏様みたいに、彼が竜馬に優しく言った
「俺には時間がない・・・・竜馬お前に話したいことがある・・・」
。 .:・.。. .。.:・
【シカゴJBOYカンパニー事務所】
「かぁ~!金も持っていて顔もハンサムなんてな!世の中不公平だぜ!」
宗一郎が毎月定期購読している、ナショナルジオグラフィックの雑誌をまた読んでぼやいた、この雑誌はもっともアメリカの一般家庭で読まれる雑誌で、アメリカに貢献するレジェンドが、数々紹介されている宗一郎の愛読雑誌の一つだ
宗一郎は無意識にトップ表紙に写っている人物を指で弾いた
「しかし・・・読めば読むほどすげ~な!コイツ!元犯罪者がここまで成功するには、それなりの苦労があったんだろうな!」
「そんなにすごいんですか?その投資家って・・・・」
会計係のジミーがセドリックマミー差し入れのハンバーガーを頬張りながら、宗一郎の読んでいる雑誌をのぞき込む
「ああ!俺らと歳、変わらないんだぜ」
「竜馬社長、今頃うまいもんでも食ってるんですかね~?」
「へぇ~・・・この表紙の人が竜馬社長が行ってるパーティに来てるんですか?」
「嫌なヤツなんじゃね~の?よく知らんけど、まぁな・・・どっちみち俺達とは縁のない人物だよ」
ポンッとテーブルに放りなげた、雑誌の見出しにはこう書かれていた
【今月の目玉記事】※独断ロングインタビュー※
―若き億万長者の投資家【ジャスティン・アレン】の財務エキスパートとしての知識・経験・思考法はすべて刑務所で学んだ―
。 .:・.。. .。.:・
その週の日曜日は比較的冬が来ようとしているような秋晴れだった、竜馬は愛車、ブルーのフォードを運転し、ミシガン湖の畔まで来ていた
フォードはミシガン湖の畔の小さな高級住宅街ロイヤルタウンの最奥にある灰色のヨーロッパ風の邸宅を目指した、美しくてとても大きな邸宅だった
すぐ裏にはミシガン湖の遊歩道になっていた、竜馬は黒い鉄製のゲートの前で愛車フォードを停め、ゲートの電気キーにあらかじめ聞いていたパスコードを入力した
ゲートが重々しくゆっくりと開いたのでほっと胸をなでおろした、本当にこの家で合っているのか、竜馬は半信半疑だったからだ
広い舗装された道を通って家の前まで行くと、道はそこで二股に分かれ、一方は屋敷の正面玄関に、もう一方は外国車を10台ほど駐車できそうな別棟のガレージに続いていた
竜馬はガレージに車を入れ、なるべく目立たない隅の方に駐車した、なんとなく不安で頭がぼうっとしているので他の車を見る余裕はなかった
車から降りると緊張して汗ばんだ額を冷たい風が冷やしてくれた、パソコンを詰め込んだバッグを抱えて、竜馬は正面玄関に向かって歩いて行った
カバンを玄関先に置いて、インターフォンを鳴らすと、防犯カメラがウィーンと音を立てて竜馬に焦点を合わせたので思わずあとずさりした
5分も経たないうちにドアが開き、ほっそりとした若い女性が出てきた、グリーンのパンツ、ビーズのサンダルに柄もののシルクのシャツを着ていた、そして肩までの金髪にその眼はジャスティンと同じ青いブルーだ、竜馬は懐かしくなって微笑んだ
「やぁ・・・ウェンディ・・・久しぶり・・・ 」
ウェンディは竜馬を見るなり、両手を口に持っていき、みるみるその青い瞳に涙を溜めた
「ああ・・・・竜馬だわ! 竜馬が来た! 」
ウェンディが竜馬の首にすがりついて泣いた、竜馬もしばらくウェンディをキツく抱きしめた
「また会えて嬉しいよ 」
ふと抱きしめているウェンディの肩越しに、玄関の廊下でこちらをじーっと見ている、一歳ぐらいの女の子の視線を感じた
グスッ・・・ 「・・・私の娘よドロシーっていうの 」
ドロシーが満面の笑顔で竜馬に腕を広げてトコトコやってきた、まるでさっき母親にしたように、自分にも同じことをしろと言っているようだ、竜馬がしゃがんでドロシーを抱き上げた
「キスしていい? 」
ウェンデイが目に涙を溜めながら、クスクス笑った
「もちろん」
ん~~~~っと竜馬がドロシーの耳と首の付け根にブブブブッと口で空気を拭きかけた、きゃ~~っとドロシーが声をあげて笑った
そのままドロシーは竜馬の腕の中でクピクピ喉を鳴らした、竜馬は肩をすくめ、このかわいい娘の頭にフッと息を拭いた、まるで風に揺れるススキのようなふわふわの短いブロンドが揺れた
「さぁさぁ入って 、あなたが来るって、兄が朝からとてもソワソワしているわ 」
信じられないぐらい大きくて美しい屋敷だった、案外近くにずっとジャスティンはいたんだと竜馬は思った、三人は大理石の廊下を中へ進んだ
天井は吹き抜けで、二階建て分ぐらいの大きさがあるウェンディは廊下の突き当りのエレベータのボタンを押した
「階段でも行けるけど、ドロシーがいるときは、こっちの方が楽なの」
「ここに住んでるの? 」
竜馬はガラス張りのエレベーターが登るのを、ドロシーとキョロキョロ見ながら言った
「ええ・・・隣の別棟に夫と三人で住んでいるわ、その方が介護がしやすいから、あと今日は日曜日だけど、平日は毎日兄の会社の秘書の方や、弁護士が家を出入りしているから、その人達のお世話もしてるの 」
「ジェシカは?」
「五年前に・・・」
二人は目を合わせた
「お悔やみを申し上げるよ・・・」
「いいのよ」
ウェンディがそっと竜馬の腕を叩いた
チン・・・・と二階のエレベーターのドアが開いた、そこは広いリビングに大きなキッチンスペースがあった
「今まで辛かったね、ウェンディ・・・ずっと気づいてやれなくてゴメンね、でも、もう大丈夫だよ、これからジャスティンの傍には僕がいる、あとで彼のこと・・・なんでも聞かせて 」
再びウェンディの瞳にじわりと涙が溢れる
「あ・・・ありがとう竜馬・・・」
「ジャスティンの部屋は?」
グスッ・・・ 「右の廊下の・・・一番奥よ・・・ランチを一緒にどう?今キチンダンプリングを作っているの 」
竜馬はニッコリ笑った
「それでか!さっきから良い匂いがしてるなと思っていたんだ、楽しみにしているよ、ねぇドロシーを連れて行っていい? 」
クスクス・・・「ええ、もちろん!とっても助かるわ」
ウェンディはドロシーに一枚ビスケットを持たせた、ドロシーはそのビスケットをよだれでべちゃべちゃにして竜馬の腕も汚した、竜馬はドロシーを胸に抱いたまま、奥のジャスティンの部屋に向かった
ドアを開けると見たこともない広々とした寝室が広がっていた、竜馬のアパートメントの2倍を押し込めてもまだ空間はあまりそうだった
ここへきてジャスティンは莫大な富を築いたのだと改めて実感する、今はずらりと並ぶ背の高い窓にはクリーム色のロールスクリーンのブラインドがかかっていた、螺旋状に彫刻された柱が付いた、キングサイズのベッドが部屋の斜めに置かれ、その隣には座りごごちが良さそうな、ソファーセットと電動のマッサージチェア一、壁には大きなブラズマテレビが掛かっていた
そして竜馬の目はキングサイズのベッドの中央に、まるで傷を負ったライオンのように横たわっているジャスティンを捕らえた 、途端に竜馬は心臓を鷲し掴みにされた
自分の知っているジャスティンはこんな昼間っからベッドに横になっているような人間ではない、竜馬はドロシーを抱えたままベッドに這い登り、ドロシーをベッドに降ろした
ドロシーはすぐさま左からジャスティンに抱き着いた、竜馬も右からそのまま両腕をジャスティンに回した、唇を頭のてっぺんにつけると、ふわりと懐かしいシャンプーの匂いがした
自分も今でも同じものをずっと変わらず使っている 、どれだけ億万長者になろうと、どれだけ体を病に蝕まれようとも、 一緒にいた頃とジャスティンは何も変わっていない、ジャスティンはドロシーを片手に抱き、もう一方の片手で竜馬の背中をポンポンと叩いた
「おいおい 」
と優しい声がした
「泣き虫は相変わらずだな 、見た目よりもそんなに俺は悪くないんだ」
竜馬は濡れた頬を拭って背筋を伸ばした、ジャスティンが微笑んで小さくエヘンと咳払いした、咳が昨日から止まらないので、気管支拡張薬を4時間置きに飲ませないといけないと、ウェンディに言われたことを思い出した
薬はどこかとジャスティンに聞いたら、通いのハウスキーピングの誰かが昨日、バスルームのカウンターのどこかにしまったので場所がわからないと彼が怒って言うので、竜馬はすかさずバスルームに向かった
少しジャスティンと離れて、感情を落ち着かせたかったので竜馬はホッとした テラコッタのタイルと大理石の覆われた、広大なスペースの中央には、半分埋め込まれた楕円形の大きなバスタブがあった
ウォークイン・シャワーと窓は全部がガラス張りで仕切られている、これならジャスティンが寝たきりになってしまっても、バスルームがこれほど大きければ二人で入れると、竜馬はチェックした
前面ガラス張りの二つ並んでいる、洗面ボウルの横のカウンターに、茶色の薬瓶がいくつも並んでいたその手前にはプラスチック製のメモリのついたコップも山ほどあった、ここは薬局じゃないかと錯覚するぐらいだ
籠には個包装された粉薬や色んな形の錠剤が無数にあった、竜馬はぞっとした、これは全部ジャスティンたった一人が飲むものだ、 モデルルームのような完璧な洗面台に、これほど似つかわしくない光景があるだろうか
コップにウォーターサーバーの水を満たし、咳止めの錠剤を手のひらに乗せてジャスティンに差し出す、彼は顔をゆがめて薬を飲んだ薬の飲みすぎで口の両端が紫に荒れている、肌もカサついている、 リップクリームが必要だ、あと保湿クリームも・・・
竜馬はジャスティンのための買い物リストを頭の中で作った、彼の体がどんなに今大変か、健康体の竜馬には想像もつかなかった 、癌細胞が暴れているのだろう、彼の体はこれほどのダメージを治癒させることで、とても消耗しているのに違いない
「いや・・それは食えないぞ ドティ・・やめなさい」
薬を持って部屋に戻ると、ドロシーがジャスティンの髪の毛をつかんでチュパチュパしゃぶっている、ドロシーに引っ張られてジャスティンの頭がずっと斜めになっている、ジャスティンもこの姪っ子がかわいいのだろう、竜馬は優しくドロシーの指をジャスティンの髪からほどき抱き上げた
「おなかがすいているのかな?ウェンディがチキンダンプリングを作っているらしいよ?食べれる? 」
「食いたいな食堂に連れて行ってくれ」
するとベッドの横のサイドボードの電話が鳴った
「仕事の電話だ、ちょっと待って」
そう言うとジャスティンがワイヤレスマイクを装着して、早口のフランス語で話しだした、膝には小さなノートパソコンを叩いている
―ベッドの中でも・・・仕事なんてすごいな・・・ ジャスティン・・・―
30分経ってもジャスティンの電話が終わりそうになかったので、今やお腹がすいてグズり出しているドロシーを抱いて、竜馬は一旦キッチンへ向かった
「あいぃぃいぃぃ~~~ 」
「ハイハイ・・ママの所へ行こうねぇ~」
ドロシーのグズりが本格的になって来た、竜馬の腕の中で体をエビぞりにして、腹が空いた事に抗議している、キッチンへ行くと見知らぬ男性とウェンディが一緒に料理をしていた
「ウブブブブ~~~!! ウプ~~~~~!! 」
「このゴジラちゃんに何かあげて」
ウェンディが慌ててドロシーを竜馬から抱き上げた
「まぁ!ご迷惑じゃなかった? 兄は?」
「はじめまして!竜馬だね、僕はウェンディの夫のフランクだよ、会えて嬉しいよ」
黒縁眼鏡で、こげ茶髪の男性は、竜馬よりもかなり年上だった、二人は微笑んで固く握手した、温厚そうで鼻が大きいフランクは、今はジャスティンの投資会社のファンドマネージャーだと言った
「ジャスティンは放っておくといつまでも仕事しかしないんだ 」
困った顔でフランクは言った
「止められるのはきっとあなただけですよ、竜馬 」
先ほどの光景を見たらそんな感じだ、竜馬はウェンディが用意してくれた美味しそうな料理が沢山乗った三段ワゴンを押して、再びジャスティンの部屋に向かった
部屋に入るとまだジャスティンは電話をしていた、しかし先ほどと電話の相手は変わっていた、今は彼は英語をしゃべっている、大きな壁掛けテレビには、株価が表示されている、
ジャステインは壁掛けテレビと、膝の上のパソコンのモニターを交互に見て、何やら大声でまくし立てている竜馬はウェンディが用意してくれたワゴンから、新鮮なマスカットが入った皿をもって、靴を脱いでモソモソと小さな小島ほどあるベッドに這い登っていった
大の大人が4人ぐらい余裕で寝れるなと思った、今やその辺に書類をぶちまけながら真ん中にいるジャスティンにたどり着くと、マスカットの皮を剥いて一粒口に入れた、ジューシーで上手い、竜馬はもう一つ皮を剥いた、そしてモニターを睨みながらまだマイクに向かって怒鳴っているジャスティンの顔を無理やりこっちに向かせ、マスカットを口の中に放りこんだ
途端にジャスティンがモグモグして黙った、電話の相手は急に無言になったジャスティンに慌てふためいていた
「この僕と一緒にメシを食うより大事な仕事ってある?」
竜馬は皮肉っぽく尋ねた、ジャスティンはニッコリ笑って言った
「こんなに食い物が旨いと思ったのは久しぶりだ」
電話の相手に明日電話すると言って、ノートパソコンをパタンと閉じた
「たまにはベッドの上で食おうよ、怠け者みたいに、自堕落に食うんだ、好きなものを好きなだけ」
そう言って竜馬はウェンディの用意してくれた料理をジャスティンの横に広げた
。 .:・.。. .。.:・
その頃キッチンでフランクが、ドロシーを抱きながら横で洗い物をしているウェンディに言った
「なんか・・・・不思議な人だね竜馬は・・」
フフフとウェンディが言った
「やっと噂の竜・馬・を見たご感想は?」
「ジャスティンが惚れるのも無理ないね、彼は不思議だ、とても一緒にいて癒される 」
「そうね」
ウェンデイは手元を見つめながら言った
「兄はどんな時も竜馬を忘れたことはなかったわ、十一年離れていてやっと二人は一緒になれたのよ、兄の心の故郷は、いつでも竜馬なんだと思う・・・でも残された時間が・・・ 」
「黙って見守ってあげよう、僕達・・・・」
フランクがまた泣くウェンディを抱きしめた
。 .:・.。. .。.:・
大きな壁掛けテレビには、今はトムとジェリーのアニメが流れていた、二人は一心不乱にフライドポテトをむさぼりながら、そのアニメを見た、竜馬はジャスティンの腕枕に頭をもたせて、ジャスティンは腕を回した手で、ずっと竜馬の髪の毛をいじりながら
二人は何も言わなかった、なぜなら十八歳の頃の一番幸せだった時に戻っていたから
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レンコン 煮付け
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コメント
1件
ああ…このエピソード、すごく心に沁みましたね。十一年ぶりに再会した二人、なのに今度は半年の命って宣告の中で、あえて日常の仕草や食事に戻っていく竜馬の優しさが印象的でした。特にベッドで二人でトムとジェリーを見ながらポテトを食べる風景が、タイムスリップしたみたいで泣けます。ウェンディさんの「兄の心の故郷はいつでも竜馬」という言葉も重くて…あとたぶん、この先どうなるんだろうって気になっています。