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桐島の冷たい言葉が、日菜の心に深く刺さってから、数週間が経った。
彼のことをずっと忘れようとしていたけれど、どうしても胸の中から消えなかった。
悠真と過ごす時間は、幸せそうに見えたけれど、日菜は心のどこかでずっと引っかかっていた。
桐島に対する申し訳なさが、どうしても拭えなかった。
日菜と悠真の関係は、確かに始まったばかりだった。
でも、その幸せが、今、崩れ始めていることに気づかないままでいるのは、もう無理だった。
その日も、いつも通り放課後に二人で帰ろうとしたとき、日菜はふと足を止めた。
「悠真、ちょっと話があるんだけど」
悠真は少し驚いた顔で日菜を見た。
「何かあったの?」
日菜はゆっくりと深呼吸をした。
その瞬間、すべてを言葉にしなければならないという思いが強くなった。
「私、桐島に対して本当に申し訳ない気持ちでいっぱいなんだ。私が彼を傷つけてしまった…そのことがどうしても心に引っかかって、悠真との関係にも影響を与えている」
悠真は驚いたような顔をし、少し黙ってから答えた。
「日菜…桐島のことを気にする必要はないよ。俺はお前と一緒にいたいんだ」
その言葉に、日菜は胸が締め付けられるような感覚を覚えた。
悠真の気持ちを傷つけることになるかもしれない、それでも自分の中でどうしても答えを出さなければならない。
「でも、私、もう悠真と一緒にいるのが正しいことなのか分からなくなってきた。桐島に申し訳ないって気持ちが、ずっと頭を離れないの」
悠真は一歩踏み出し、日菜の前に立って真剣な顔で言った。
「日菜、そんな風に思う必要はないよ。お前が桐島に気を使うことないし、俺たちの関係が大事だと思う。でも、お前がそう思うなら、俺が無理に引き止めることはできない」
その言葉に、日菜の目から涙がこぼれた。
悠真がこんなにも優しく、理解してくれようとするのに、どうしても心の中で桐島を切り捨てられなかった。
「悠真、私が桐島に対してどうしても罪悪感を感じて、あなたとの未来をどうしても信じられない。私、桐島との関係をきちんと終わらせなきゃいけないと思ってる。そして、そのことがあなたにも影響を与えてる気がして…」
悠真は黙って日菜の目を見つめ、その後、静かに息をついた。
「じゃあ、日菜がその気持ちを解消するために、俺と一緒にいることができないってことか?」
その問いに、日菜はただ静かに頷いた。
「うん…ごめん、悠真。私、もうこれ以上あなたに迷惑をかけられないと思う。あなたは本当に素晴らしい人で、私にはもったいないくらいだけど、どうしても桐島のことを切り捨てられなくて…」
その言葉を聞いた悠真の顔に、かすかな悲しみが浮かんだ。
「そうか…俺も、日菜が辛い気持ちを抱えたままでいるのは辛いけど、無理に続けることはできないんだな」
悠真の声が、少し震えていた。
日菜の心は、ますます痛んだ。
「うん、だから……私と、別れてください」
その言葉を最後に、二人の間には沈黙が流れた。
悠真はゆっくりと歩き出し、日菜に背を向けて言った。
「分かった。俺、もう行くよ」
日菜はその背中を見送りながら、涙を止めることができなかった。
もう二度と振り返らないと決めた悠真の後ろ姿が、日菜の心を引き裂くようだった。
数日後、日菜と悠真の関係は完全に終わりを迎えた。
悠真は日菜に最後まで優しく接してくれたが、彼女の心の中には、桐島への申し訳なさが重くのしかかり続けていた。
日菜は一人、桐島と悠真、それぞれに抱えた罪悪感を胸に、どこか虚ろな気持ちで日々を過ごしていた。
悠真との破局が、彼女にとってどれほど辛いものだったかは言葉では表せなかった。
桐島への申し訳なさが、悠真との未来を引き裂いた。
そして、どちらを選ぶこともできなかった自分に、日菜は深く後悔し続けていた。
自分の選択がどんな結果を生んだのか、それをきちんと受け止めることができなかった。
そして、桐島との関係も、もう戻ることはない。
日菜はそのことを痛感していた。
すべてを失った日菜は、静かにその日々を送っていくしかなかった。