静かな朝だった。
都心の一角にあるスタジオビルの一室。
壁際に並ぶモニターと、散らかったキーボード。
その中央に、ぽつんと座っているのは――おらふくんだった。
「……ぼく、いない方がいいのかな」
つぶやいた声は、誰にも届かない。
画面には、昨日の収録映像。
こめしょーがテンション高く叫んでいる。
「おらふくん、ナイスすぎるってぇぇぇ!!」
その声に、少しだけ目を細めて、おらふくんはつぶやいた。
「……ほんとに、そう思ってる?」
編集は進まない。
手は止まったまま。
最近、収録中に空回りすることが増えた。
笑いを取ろうとして滑ったり、タイミングを外したり。
みんなは優しい。誰も責めない。
でも、それが逆に苦しかった。
「ぼんさん、また寝てたでしょ〜」
「いやいや、集中してただけだって」
「それ昨日も言ってたよね」
――こめしょーの声が、スタジオの奥から聞こえてくる。
今日は合同収録の日。
ドズル社とさんちゃんくが集まる、年に数回の特別企画。
おらふくんは、そっと席を立った。
編集ソフトを閉じて、マイクを外す。
「今日は……裏方に回ろうかな」
誰にも言わず、誰にも気づかれず。
それが、いちばん楽だった。
「おらふくん、今日裏方?」
スタジオの入り口で、めんが声をかけてきた。
「うん、ちょっと……今日はサポートに回るね」
「えぇ〜? いいじゃないっすか〜、一緒に出ましょ〜よ〜」
「いや、今日は……いいの」
おらふくんは笑ってみせたけど、目は笑っていなかった。
「……そっか。じゃあ、なんかあったら呼ぶっすよ」
めんは軽く手を振って、スタジオの奥へと消えていった。
おらふくんは、モニター越しにみんなの様子を見ていた。
ドズルさんが進行を務め、おんりーが冷静に指示を出す。
ぼんさんは相変わらずマイペースで、こめしょーはテンション高く盛り上げていた。
雨栗さんは静かに全体を見渡し、るざぴは時折ふざけながらも、的確な動きをしていた。
「……みんな、すごいな」
おらふくんは、ぽつりとつぶやいた。
自分がそこに入る余地がないような気がして、胸が少しだけ痛んだ。
収録が終わったあと、スタジオには笑い声が響いていた。
「いや〜、今日も楽しかったな!」
「ぼんさん、途中で寝てたでしょ」
「寝てない寝てない、集中してただけだって」
「それ昨日も言ってたよね〜」
こめしょーのツッコミに、みんなが笑った。
そのときだった。
「……あれ? おらふくん、今日ずっと裏方だったよね?」
こめしょーがふとつぶやいた。
「うん、ちょっとね」
「なんか……さみしかったっすよ」
その言葉に、おらふくんは目を見開いた。
「おらふくんがいないと、なんか空気が違うっていうか……」
「そうそう。なんか、落ち着かないっていうか」
めんが続けた。
「俺も、ちょっと寂しかったです」
おんりーが、少し照れくさそうに言った。
「……みんな」
おらふくんの声が、少しだけ震えた。
「ぼく、いてもいいのかな」
「当たり前でしょ」
ドズルさんが、はっきりと言った。
「おらふくんがいるから、ドズル社も、さんちゃんくも、ちゃんと“チーム”になるんだよ」
その夜、おらふくんは久しぶりに編集ソフトを開いた。
画面には、今日の収録映像。
みんなが笑っている。自分のいない場所で、でも、自分を想ってくれていた。
「……ありがとう」
小さくつぶやいて、再生ボタンを押した。
画面の中で、こめしょーが叫んでいた。
「おらふくん、ナイスすぎるってぇぇぇ!!」
今度は、その声に―― おらふくんも、ちゃんと笑っていた。
翌日。
スタジオには、いつも通りの空気が流れていた。
こめしょーがテンション高く叫び、めんがふざけて爆弾を作り、おんりーが冷静にツッコミを入れる。
雨栗さんは黙々と建築を進め、るざぴは静かに笑っていた。
ぼんさんは……今日も寝ていた。
おらふくんは、昨日の言葉が頭から離れなかった。
「おらふくんがいないと、なんか空気が違うっていうか……」
「おらふくんがいるから、ドズル社も、さんちゃんくも、ちゃんと“チーム”になるんだよ」
その言葉を、信じてみたいと思った。
だから今日は、収録に参加することにした。
「おらふくん、今日は出るんすか!?」
こめしょーが目を輝かせて言った。
「うん、ちょっとだけね」
「よっしゃああああ!テンション上がってきたぁぁぁ!!」
「こめしょー、うるさい」
おんりーが冷静にツッコむ。
「でも、嬉しいっすよ。やっぱおらふくんがいると、安心するっていうか」
「……ありがとう」
おらふくんは、少しだけ照れくさそうに笑った。
収録が始まると、空気が変わった。
おらふくんの声が入るだけで、笑いが増えた。
ぼんさんのボケに、的確なツッコミを入れ、 めんの爆弾に、絶妙なタイミングで驚きのリアクションを返す。
「おらふくん、ナイスすぎるってぇぇぇ!!」
こめしょーが叫ぶ。
「いや、ほんとに助かってるっすよ」
めんが笑いながら言った。
「おらふくんのリアクション、マジで編集しやすいっす」
「……そう?」
「そうっすよ。てか、いないと困るっす」
「俺も、そう思います」
おんりーが静かに言った。
「おらふくんの声があると、動画が“完成”する感じがする」
その言葉に、おらふくんは胸が熱くなった。
自分の声が、誰かの役に立っている。 自分の存在が、誰かにとって“必要”とされている。
それだけで、十分だった。
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中途半端だけど終了。
じゃね👋
コメント
1件
…、最高すぎて泣ける( ( (