耳の先だけがぺこりと折れ、短い尻尾を持つテリア系の雑種の子。もともとは眩しいほど綺麗だったであろう白い毛は、ボサボサに縮れ、糞尿や汚れで薄汚くなっていた。目は、輝きを失い、諦めきったようだった。それでも立ち上がり、諦めきったその目でも、こちらを見つめてくる彼は、私達に一体、何を伝えたかったのだろうか。
この子は、人間からまともな愛情を受けず、ただ、ドリームボックスと言われる箱の中で二酸化炭素の窒息死によって、この世を去った。
この話は、実際に保健所に収容され、殺処分された動物をモデルに書いた話です。
僕はお外で生まれた。お母さんは真っ白いテリア。お父さんは見たことないけど、お母さんが、「お父さんはね、白い紀州犬の雑種なんだよ。」って教えてくれた。僕はお父さんがいなくても、兄妹とお母さんがいてくれたから、さみしくなかったよ。
でも、いつでもひもじかった。お腹はずっと鳴りっぱなしだけど、お母さんはね、「これが野生って言うのよ。あなた達といつはぐれたりするかわからないけど、頑張って生きるんだよ。」っていつも教えてくれた。だから、「うん。わかった!僕たち、ぜっったいそうする!」って頼もしくうなずいて見せたんだ。お母さんのほっとした顔がすぐにでも見たかったからね。僕達はお母さんの一家と一緒に群れで暮らしていたんだ。しばらくたって大きくなって、ついにお父さんを見ることができた。「はじめまして。これからよろしくね」ってお父さんが言ってくれて、僕たちすごく嬉しかった。弟、妹たちもすっごい喜んで、尻尾が千切れそうなくらい振ってたよ。
でもね、最近、青い服を着た数人の男の人をよく見るようになったんだ。その時、僕らは生後八ヶ月。警戒心というのもだんだん持ち合わせてきたんだ。お母さんは僕に、「ララ」っていう名前をくれた。女の子みたいだって従兄弟たちは笑ったけど、僕は全然変に思わなかったよ。「お母さんが心を込めてつけてくれた世界で一つだけの名前なの!僕はこれを誇りに思ってるもん!」って言ってやったんだ。
とにかく、お母さんはストレスが溜まっているようだった。「いいかい。子どもたち。【人間】っていうものは、絶対に信用しちゃいけないよ。」ある日、お母さんは慎重に僕に言ってきた。驚く僕らにお母さんは言葉を続けた。「あの最近見る青い服の人。特にあの人達はもってのほか。少しでも近づいたら最後、絶対にお母さんには会えなくなるからね。それに、最後は殺されちゃうんだ。たまーに優しい人もいるけど、そんな人はいないって思っていたほうがいいよ。わかった?」
僕は怖かった。殺されちゃうなんて。お母さんに会えないってだけで嫌なのに、殺されちゃうなんて!いつの間にか僕らはぶるぶると震えていた。
ここでふと、僕は一つの疑問が浮かんできた。そしてそれをお母さんに聞いた。
「ねえ。僕達さ、普通に暮らしてるよ。人を襲ったこともないし、近づいたこともない。生きるために必要な最低限をやっていたよ。なのに、どうして悪者扱いされなくちゃいけないの?」
それを聞くと、弟、妹たちは、「うんうん。そうだよそうだよ。ただ幸せに暮らしたいだけなのに。」と言った。
お母さんは顔を曇らせると、僕の顔をぺろっと舐めた。「仕方のないことなの。でも、一つだけ教えてあげる。ここで暮らしている理由は、もともと人間たちが私達のご先祖犬を捨てたことなの。」
「捨てた!!」僕はびっくりした。「人間のことを心から信頼している犬もいる。そんな我が子である犬を平気で捨てる人もいるのよ。でも、大丈夫。あなたたちのことはお母さんが守ってあげるから。でも、自分で守ることも大事よ。野生は過酷なんだからね。」
お母さんはそう言って僕ら兄弟を順番に舐めていった。「おかーさん。おとーさんは?」あどけない声で、末っ子の妹、「ポリー」は聞いた。「お父さんはね、あの青い服の人に連れて行かれちゃったよ」「そう、なの?」ポリーはまだわからない様子だった。だが、ポリー以外の僕ら兄弟はそれが何を意味するか、はっきりとわかった。
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犬達は何も悪くないのに……