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MOMO🩲
ひな
104
けだま15号🍓🐾໊
6,356
夕鳴
128
「菫お姉ちゃん」
その言葉が。
胸の奥で繰り返される。
静寂。
旅僧は息をすることすら忘れていた。
お師さんも動かない。
鐘撞きも。
墓守も。
全員が佐衛門を見ている。
だが。
佐衛門だけが。
桜を見ていた。
いや。
見ていない。
もっと遠く。
もっと昔を。
見ているようだった。
頭が痛い。
知らないはずの景色。
知らないはずの声。
知らないはずの笑顔。
それなのに。
懐かしい。
酷く。
懐かしい。
少女が首を傾げる。
「思い出した?」
静かな声。
佐衛門は答えない。
答えられない。
その時だった。
桜の花びらが舞う。
一枚。
また一枚。
そして。
世界が揺れた。
旅僧の視界が白く染まる。
風が消える。
音が消える。
花びらだけが舞っている。
そして。
誰かの笑い声。
幼い声。
『すみれおねえちゃん!』
静寂。
佐衛門の瞳が揺れる。
見える。
花畑。
春の日差し。
走り回る子供たち。
その中心に。
一人の少女。
黒髪。
木刀。
不機嫌そうな顔。
だが。
子供たちに囲まれている。
『遊ぼう!』
『もう一回!』
『おねえちゃん!』
少女は困った顔をしている。
けれど。
少しだけ笑っていた。
その瞬間。
景色が消える。
佐衛門が膝をついた。
旅僧が駆け寄る。
「葛城殿!」
返事はない。
頭を押さえている。
苦しそうに。
少女が見つめている。
悲しそうに。
「やっぱり」
小さな声。
「全部は残ってないんだ」
風が吹く。
桜の枝が揺れる。
その時。
鐘撞きが前へ出た。
少女を見る。
「花守」
静寂。
「お前は誰だ」
少女は笑う。
今度は。
本当に寂しそうに。
「分からない」
旅僧が固まる。
「分からない?」
少女は頷く。
「忘れちゃった」
桜を見上げる。
「ずっと前に」
静寂。
「名前も」
「顔も」
「みんな」
風が吹く。
「だけど」
少女は佐衛門を見る。
「待ってた」
長い沈黙。
「お姉ちゃんが帰ってくるの」
その言葉に。
お師さんが目を閉じた。
墓守も。
鐘撞きも。
皆。
何かを思い出しかけていた。
花守。
第六封印。
その名だけが。
頭の奥に引っ掛かっている。
だが。
何を知っていたのか。
まだ思い出せない。
その時。
旅僧の懐で札が燃える。
慌てて取り出す。
文字が浮かぶ。
今までとは違う。
血文字ではない。
花びらのような文字。
『思い出すな』
静寂。
全員が固まる。
次の文字。
『まだ早い』
風が止む。
そして。
最後に。
『彼女が壊れる』
旅僧の背筋が凍る。
彼女。
誰のことだ。
花守か。
それとも。
佐衛門か。
その答えを聞く前に。
村中の花が揺れた。
一斉に。
まるで。
何かに怯えるように。
少女の顔色が変わる。
初めてだった。
心から怯えた顔を見せたのは。
「来る」
掠れた声。
風が吹く。
空が曇る。
月が隠れる。
そして。
花びらが。
一枚。
黒く染まった。
また一枚。
さらに一枚。
白い花が。
青い花が。
紫の花が。
赤い花が。
次々と黒く染まっていく。
少女が後ずさる。
「嫌……」
その声は。
今まで聞いたことがないほど。
幼かった。
コメント
1件
第十五話、読み終わりました……。 「すみれおねえちゃん」っていう呼びかけがあんな風に重なるなんて思わなくて、胸がぎゅっとなりました。 少女が「待ってた」って言うシーン、すごく切なかったです。 それなのに、最後の花が黒く染まっていく場面の怖さ……。 この世界、何もかもが繋がってそうで、でも何も思い出せなくて。続きが気になりすぎます。 大切に紡がれてる言葉、ちゃんと受け取りました。🌸