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「……今日の宿題は…」
阿部は小さく呟きながら、夜遅くの交差点を歩く。
難関大学への進学を目指す阿部は、週4で予備校に通っているのだ。
生徒会長であり、学年1の優等生。
定期試験では毎回学年1位を飾り、彼を知らないものは学校にはいないだろう。
「……今週は予備校の試験あって…学校の定期試験は、3週間後か…」
スケジュールを確認しながら、頭の中で学習スケジュールを組み立てていく。
歩きスマホは危ないため、一旦立ち止まり、カバンからスマホを取り出す。
「前回の点数と順位を見ると…英文を勉強した方がいいかな…」
さすが難関大学を目指すものが集まっている場所だ。
前回の試験の結果、阿部は総合3位。
阿部にとって、自分よりも上の存在、超えるべき存在がいる方が熱くなれるのだ。
「………あれ?阿部ちゃん?」
店の前で立ち止まっている阿部のもとに、一つの影が近づいてくる。
その声に、阿部は驚いたように顔を上げる。
そこに立っていたのは…
「…………ふっか…?」
深澤は笑顔で阿部の元へ走っていく。
「久しぶり〜!元気してた?」
「……う、うん。その、ふっかはなんで…?」
阿部は困惑しながら目の前の深澤に問いかける。
「俺?今日はねぇ、夕飯の買い物?わら」
「こんな時間に…?1人じゃ危ないでしょ?」
「それ阿部ちゃんが言う?わら」
急な深澤の登場に、阿部は困惑しながらも自然と笑顔が溢れていた。
阿部にとって、深澤と話したのはいつぶりだっただろう。
「阿部ちゃんは………予備校?」
深澤は視線を阿部のかばんへ移す。
阿部の通う予備校には指定のかばんがあるのだ。
それに気づいた深澤の表情が少し曇る。
「…あ、うん。予備校の帰りだよ。」
深澤の表情の変化に気づいた阿部も少しだけ表情を曇らせる。
「……そっかぁ…阿部ちゃんは“まだ“通ってるんだ…」
短い沈黙を破るように、深澤は口を開いた。
「……ぇ…あぁ、うん。親が、合格するまでは通うようにねって…」
笑顔なのに冷たい瞳の深澤に、動揺しながらも答える。
「ふぅん……ま、そうだよね!頑張ってね、阿部ちゃん!!」
一瞬だけ複雑そうな表情をした深澤だが、すぐに満面の笑顔で阿部の肩をポンポンと叩く。
「あんまこん詰めすぎんなよ〜、じゃ、またね〜」
そのまま、立ち尽くす阿部を置いて深澤は人混みの中へ消えていった。
「……ふっか…ごめん……」
阿部の小さな謝罪は、誰の耳にも届くこともなく消えていった。
「ふんふふ〜ん♪ふんふ〜ん♪」
深澤は1人、人混みの中を歩いている。
常備のイヤホンを耳につけ、お気に入りの音楽を聞いて…
「………」
そして、とある場所の前で立ち止まる。
阿部のかばんの紋章と同じものを自動ドアに光らせる建物。
……かつて、深澤も通っていた予備校。
「……こんなとこ、なんの意味があるんだろ…」
吐き捨てるように言い放ち、開きっぱなしになっている自動ドアに背中を向ける。
ドアの閉まる機械音が遠ざかる。
深澤は先ほどコンビニで買った夕飯の入っている袋をブンブンと揺らして歩く。
「ふふ〜ん♪ふふふ〜ん♪」
まるで何もなかったかのように鼻歌を歌い始めた。
『君、見ない顔だね?新人くん?』
『やっぱり?俺、………!……って呼んでよ!』
『……って言うの?じゃあ、…………ね!よろしく〜』
『えぇ!?中学生!?受験生か〜、ま、頑張ってね〜、わら』
『……俺と同じ学校に来るの?えぇ?俺がいるから!?わら、照れちゃうんだけど〜、わら』
『やっぱ合格じゃん!!さっすが!』
『この予備校のおかげじゃん!あと、俺のおかげ?わら』
『でも、やっぱり1番は…』
『阿部ちゃんの努力じゃん?』
「………っ!!」
阿部は、勢いよく体を起こす。
どうやら、明日の授業の予習をしていたら眠ってしまっていたらしい。
「今の夢は……」
阿部は、苦々しい表情を浮かべる。
今の夢を見たことによって思い出される1つの記憶。
2年前に起こった出来事。
阿部と深澤の距離を広げてしまった事件。
「………全部、俺のせいなのに…」
暗い部屋の中に、阿部の悔しそうな声が響いた。
「はぁぁぁぁ…」
「なんだよ急に、お前がため息つくなんて珍しいじゃん。」
ファミレスの一席で、佐久間の大きなため息と渡辺のどうでもよさそうな声が響いた。
「俺も、そろそろ真面目に勉強しないとかなぁってさぁ!」
「お前が?」
佐久間の話に渡辺が意外そうな顔をする。
失礼だなぁと佐久間は笑いながら話を続ける。
「さすがに3年生だしさ、予備校くらいは通うべきかなって。」
「いやいやいや…まじで言ってんの?」
渡辺は困惑を隠しきれない。
まさか佐久間が真面目に勉強をするなんて微塵にも思っていなかったのだ。
「だってさ、阿部ちゃんが通ってる予備校があるじゃん?」
「阿部ちゃん……あぁ、あの生徒会長か。」
「そうそう、だから阿部ちゃんと同じように頑張ってみようかなぁって。」
佐久間は笑顔のまま続けるが、渡辺はずっと口を開いたままだ。
「翔太もさ、一緒に通う?」
「いや、絶対行かねぇ。」
佐久間の提案に渡辺は即答する。
「え〜、なんでよ〜」
「だって、予備校なんて通ったら自分の時間減んじゃん。」
「まぁ、確かに?」
渡辺の率直な感想に、佐久間の頷く。
だが、すぐに人差し指を立てて思いついたように顔を輝かせる。
「でもでも!阿部ちゃんと同じ予備校に通うことでさ、もっと阿部ちゃんと一緒にいる時間が増えるじゃん!!」
「それはお前だけだろーが。」
佐久間の発言に、すぐに渡辺がつっこむ。
「じゃあ…家庭教師だ!阿部ちゃんに家庭教師してもらおう!!」
佐久間の次なる提案に渡辺は一瞬考えるが…
「それは阿部の方が大変じゃね?」
「……にゃ!?確かになぁ……」
生徒会長をして予備校に通っている阿部に、更なる仕事を頼むのは流石に申し訳ないのだろう。
佐久間は必死に頭を回転させる。
「……てかさ、阿部ってお前の後輩だろ?なんで後輩から勉強教えてもらう前提なんだよ?」
冷静になった渡辺が、佐久間にとどめを指すように呟いた。
「……………だって、俺、高校の勉強なんも頭に入ってないもん!!」
渡辺の指摘に猫のように目を開いてから、佐久間は潔く勉強ができない発言をする。
「お前、それやばいじゃん!!」
「だから言ってんだって!てか、お前はどうなんだよ!」
渡辺の驚いたような顔を見て、佐久間は渡辺の成績について問いかける。
「……お、俺は…普通だよ普通!!」
「嘘つけ!お前だって追試常連だろっ!!」
「うるせー!!追試って言ってもな!俺はあと数点なんだよ!!」
「それでもだろ!!追試対象の点数30だぞ!?」
「お前は何点だよ!?」
「お前とほとんど変わんねぇって!!」
そんな風に佐久間と渡辺がやりとりをしていると、料理が届いたようだ。
届いた料理が目に入った2人は、すぐに目を輝かせて料理に飛びついた。
コメント
3件
フォロー失礼しますね!Blake out方も前々から読ませていただきました。最高😀ふっかさんと阿部ちゃんに何があったか気になるぜ⭐︎最後の翔太君と佐久間君可愛い🩷
読了しました。第5話、じわじわと切なさが滲む回でしたね……。 阿部ちゃんと深澤くんの再会シーン、あの「笑顔なのに冷たい瞳」の描写が本当に心に刺さりました。かつて深澤くんも通っていた予備校の前で「こんなとこ、なんの意味があるんだろ」と吐き捨てるところ、2人の間に何があったのか気になって仕方ないです。 最後の阿部ちゃんの「全部、俺のせいなのに」という後悔の独白も切なくて……。2年前の事件がどう距離を広げてしまったのか、続きがすごく気になります。佐久間くんたちの軽いやり取りが、逆に阿部ちゃんの重さを浮き彫りにしていて、構成が上手いなと思いました。