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【side宗親むねちか



――こんなに色々とうまくいって大丈夫だろうか?


僕だってそう思わなかったわけじゃない。



春凪はなはしっかりしているように見えて、実は結構抜けたところがある子で、無理矢理手元に引き寄せてみると、今まで見えてこなかったアレコレがポツポツと顔を出した。



僕にとって一番の幸運は、春凪はな的には不幸以外の何ものでもなかっただろうけれど、彼女が住むところを失ったことだ。


不動産屋や実家からの電話に折り返さなかったことがその原因だけれど、その一端を担ったのはきっと僕だというのも分かっている。



社会人若葉マークの春凪はなを、少しでも長く自分のそばに置いておきたくて。

僕は彼女に有り得ないぐらい仕事を押し付けまくってしまった。


春凪はなを上げないギリギリのラインは見極めていたつもりだったけれど、なかなかどうして。

春凪はなはあのふわふわとした見た目に反して、かなりの頑張り屋さんで、その上バイタリティがあったから。


憎からず思う余り定時に帰らせたくなかった僕は、ついつい次々と彼女に仕事を頼んでしまった。



慣れない社会人生活の初日から、ブラック企業ばりにそんなことをされてしまった春凪はなは、家に帰ったら冗談抜きで倒れ込むような生活を余儀なくされたはずだ。


そんな生活の中で、携帯への着信の折り返しがおろそかになってしまったというのは、ある意味仕方がなかったのかも知れない。


とはいえ普通に考えて、春凪はなが僕の手元に来る前――入社前――からそれらの打診はあったはずで。

それに掛け直すのを怠っていたのは、純粋にあの子自身の問題だとも思うから。


だから春凪はなが僕のマンションところに来るのを渋る素振りを見せた時、僕は思わず彼女に理路整然と理詰めでものを言ってしまったんだ。



我ながら、強引に進められる同居話に戸惑っている女の子を捕まえて、

「最初から受けた着信への折り返しをおろそかにしなければ良かっただけのことです」

はなかったな、と思う。


なまじ真実だから、春凪はなも言い返せなかったんだろう。

けど……事実だからって「もう少し優しくですよね」と考えると、僕はあのあと結構反省したんだ。



***


それで。

春凪はなが引っ越してきた当日は、その時の反省を踏まえて、極力あの子に甘く接したつもり。


引越し祝いだからとそそのかして、春凪はなを同居人としてではなく客人扱いでチヤホヤして辛口のスパークリングワインとチーズの盛り合わせなんかでもてなしたのもその現れ。


ついでだったからシャンパングラスでの乾杯の仕方で春凪はなの行動チェックこそさせてもらったけれど、あれにしたって春凪はなのことを思えばこその行動だったし、それ以外ではなるべく優しく彼女の緊張をほぐすことに努めたつもりだ。



春凪はなが無類のチーズ好きだという新情報がゲット出来たのは、そんな僕に対するプチご褒美だったのかも知れないですね?



春凪はなが油断した時に時折もらす、僕の顔が好みだという発言も、いつか彼女が心身ともに僕のものになってくれるかも?と期待させられて結構嬉しかったし。


とりあえず見た目が合格ラインなら、全く脈なしではないですよね?とも思えて。むしろどんどん攻めた方が効果的かな?とかいつになく計算高く考えたりもしたんだ。



それなのに……。

よくよく聞いてみると春凪はなだけど、みたいで。


そこを少しずつほぐしていくのが、春凪はな攻略への近道だと理解はしたものの、このままの僕を愛せるようになってもらわないと意味がないじゃないか……とも懊悩おうのうして。



変に飾らず接し続けて、春凪はながそんな僕のことを好きだと思ってくれるようになったなら……きっとすっごく幸せですよね?



無防備にも僕の前、慣れないワインで可愛らしく酔っ払った春凪はなが、僕に抱きついて離してくれなくなったのを心裏腹な迷惑顔で見下ろしながら……。

存外攻略に手間取りそうなこの子のことを、一刻も早く身も心も僕のものにしたいと痛切に願ってしまったのは、もちろん彼女にはバレてはいけない。

――僕だけの内緒事だ。




***



そんな難攻不落にも思える春凪はなだけど、実は僕と暮らすことに関しては、結構肝をえて考えてくれているのかな?と思える出来事があった。



***



引っ越しの荷物に対して、「もし捨てたあとで必要になっても、また新しいのを買い直せば良い」と何気なく提案した僕に、物凄い剣幕で「あるもので間に合いそうなら買いません! 手放すのは本当に不要なものだけです!」って啖呵を切るような口調で言って僕を睨んで、「厳選するから待って欲しい」と付け加えたんだ。



――なのに、春凪はな。何でこんなに断捨離だんしゃりでもしたみたいに色々手放す結論に達したんですか?



春凪はなが、「これだけマンションに持ち込みます。他はリサイクルショップへ」と指さした品々を見て、僕は正直言葉を失ったんだ。



だって――彼女が残したのは可愛らしいドレッサーと、春凪はならしい色合いのパソコンラックとハート型のラグ、それから身の回りの服飾品だけ。

食器類なんかも、毎日愛用しているという茶碗とお気に入りらしいマグカップ、それから使い勝手がよくてヘビロテしていたといういくつかの食器以外はみんな処分する対象にしていたんだから。



就職を機に車を買うと決めた際、手にするであろう初任給を当て込んで通帳をほぼ空っぽにしてしまったという武勇伝?を酔いどれた春凪はなから聞かされた時にも、僕はその豪胆ごうたんとも言える綱渡りっぷりに驚かされたけど……何ていうのかな、これ。


滅茶苦茶臆病で慎重派なのかと思えば、バカみたいに無鉄砲……。


そんなキミの危うさに、僕は色んな意味で物凄くゾクッとさせられるんだけど。


いつも何かあった時を想定して、先の先まで考えてしまう僕にはとても真似出来ない芸当をしでかす春凪はなのことを、僕は心底放って置けないと思って。


それと同時、僕にはないその思い切りの良さを、凄く魅力的にも感じたんだ。



ねぇ春凪はな。キミは僕との生活が破綻はたんすることなんてないと信用してくれているの?


それとも自ら退路を絶って、決心を固めようとしてくれているだけ……?



どちらにしても……僕はキミを手離す気はないし、何もかもを処分してしまったキミを、露頭に迷わせるつもりなんて微塵もないのだけれど……。



こうなったらそうだな。

例えキミがどんなにダメだと言っても……。

「僕が欲しいから」という名目で、春凪はなのためにアレやらコレやらを増やしていくのもありですよね?なんてことを思ったんだけど。


そんな風に甘やかしたところで、きっと罰は当たらないはずだ。

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