「そんな風に思ったりはしてないです……」
咄嗟にその場を取り繕う。
そこへ、グラスが空いたことを察したソムリエが現れ、新たにワインを注ぎ入れた。
「私と食事をするのは、君にとっては楽しいというよりも、苦痛なようですよね?」
またしても、胸の内を覗くようにも告げられて、
「苦痛だとまでは……」
口の中でぼそぼそと言いよどむ私に、
「私とこうして会っていて、そんな風にため息ばかりを吐いている女性を見たのは、初めてです」
政宗医師はそう口にして、その整った顔をにわかに歪めた……。
……目の前のこの男は、一体何人の女性とここで向き合って、ワインを飲んできたんだろうと思う。
そうしてその誰もが、たぶんあの真梨奈のように、整然と美しい容姿を熱っぽく見つめたのに違いなかった。
(……美しいけれど、あんまり人間味が感じられない、外見だけの男……)
私には、どうしてもそんな風にしか考えられなかった。
「……それなら、多少は楽しそうな顔ができるよう、もう少しワインをいただきますか?」
私の表情を観察するようにも眺めて、低く言いくるめるようにも口にする。──見れば、先ほどソムリエが注いだボトルは、既に空になっていた。
「いえ、もうワインは……」
ただ、これ以上飲むのは危うい気がして断ると、
「どうぞ遠慮なく。私は、あなたが酔って、少しでも楽しげになる姿を見たいだけですので」
彼は極めて紳士然とした口ぶりで話して、唇の端を薄っすら引き上げると、新たにワインを一本オーダーした。
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