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萩原なちち
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ゆうたくんが、ニコニコと嬉しそうに小さな荷物を抱えて、階段をポテポテと上がってくる。
……これは確かに、可愛い。仕草が完全に女の子のそれだ。
「いつきくん、今『可愛すぎるだろ』って思ったっしょ? いつきくん、可愛い子に弱いから、ちょっと心配だなぁ」
「何の心配だよ。そんな、誰でもいいわけじゃないし」
「知ってますぅ。ずっっっと、りゅうせいしか見てないっすもんね?」
いっちゃんに揶揄われ、思わず視線を逸らす。
「りゅうせいくんは、いつきくんとお仕事できて幸せですね。僕も、いつきさんと一緒の職場で働いてみたいです」
ゆうたさんのその一言に、いっちゃんが食い気味に反応した。
「あ、じゃあ明日、退職届出してきます。俺、この店を手伝うことになったんで。いつきくん、引き継ぎお願いしますね?」
なんなんだ、その変わり身の早さは。
いつか辞めてしまうんだろうなという予感はあったから、冗談に聞こえなくて一瞬ドキッとした。
「ふふふ。ネットショップが軌道に乗って忙しくなったら、その時は本当にお願いしますね?」
「うわっ、マジか。現実味ありすぎて、今、心臓がギュッてしたんだけど」
「なんなの~? マジでいつきくん、俺のこと大好きなんだからぁ」
「……ふふ。バカ言ってないで、早く行くぞ」
笑って誤魔化したけれど、いっちゃんのことを嫌いなやつなんて、この世にいないと思う。
本当に、いいやつすぎるんだよ、あいつは。
「なんか、上ですっごい楽しそうな声してたぁ……」
「じゃあ、上がってくればよかったじゃん」
「だって、俺、荷物持ってなかったし」
「荷物を持ってなきゃ通れないセンサーなんて、二階についてないからね?」
「本当、バカだなぁ、りゅうせいは」
いっちゃんとだいきに馬鹿にされて、りゅうせいが盛大にブー垂れている。
「……まぁ、そういうところが愛おしいんだけどね、りゅうせいは」
やば。しまった。
思ったことが、そのまま普通に口から出た。
全員がピタッと黙ってこっちを見ている。……うわ、何これ、死ぬほど恥ずかしい。
「……さ、イチャイチャが本格化する前に、お店に移動しましょうか?」
いっちゃんが、引き攣った笑顔で助け舟を出してくれた。
「今日のお店はどこ? いっちゃん」
「俺らといえば、焼肉食べ放題でしょ。だいきくんとカレンちゃんの『始まりの場』でもあるし」
「始まりの場は初詣だろ。……『裏切りの場』でもあり」
「……いつきさん。カレンちゃんって、どなたですか?」
ゆうたくんの目が少し細くなる。
「あー……それ、説明すると長くなるんで。……ベッドで話します」
「うわっ! 今の言い方、なんか興奮した!」
「……本当に。今日のだいきさん、いっちゃんに恋に落ちすぎてて終始イラッとします」
「もういい加減、腹減って死にそうなんだけどぉ!」
「……あっちぃ。飲みすぎた」
りゅうせいの終わることのない食欲に、ビールで対抗していたら、思ったより回ってしまった。顔も体も火照って、外の空気を吸わないともう限界だ。
駐車場の隅にある喫煙所に一人で座り、一服ふかす。……やっぱりマズい。そろそろタバコ、やめようかな。
「いつきくん、僕も一本いいですか?」
「うぇっ!? 本当に!? そんなイメージなかったんだけど」
ニコニコと笑いながら、隣にゆうたくんが座る。マジで……? この可愛い顔でタバコ吸うのか!?
「……というのは、冗談なんですが。あの、りゅうせいくんをテーマパークに誘ったの、僕なんです。すみません、勝手なことして」
「え……」
意外だった。てっきり、りゅうせいが興奮して言い出したことだとばかり思っていた。
「はっきり聞いたわけではないんですが、いつきさんがふんわ~りそんなお話をされていて。今日の様子を見たら、お二人がお話しされている様子がなかったので……やっぱり、って確信したんです」
「いや、それは俺が大人気ない対応をしたから、りゅうせいが怒っただけで……ゆうたくんのせいじゃないよ。俺の心配が行き過ぎた結果だから。ゆうたくんがどんな人か、今日で少しわかったし。前よりは心配してない。……まぁ、その日はだいきと飲みに行くことになったから、俺らのことは気にしないで楽しんでくれるとありがたい」
「本当ですか? 僕、久しぶりにお友達ができたから、嬉しくなっちゃって。でも、よく考えたら、僕だっていつきさんが、新しいお友達と急に旅行に行くって言い出したら、すごく嫌だなぁって……いつきくんの気持ち、すごく分かったんです」
ゆうたさんが、真っ直ぐに俺を見る。
「心配なら、僕がいつきくんに連絡いっぱい入れますから。……連絡先、交換させてもらっていいですか?」
「本当に? それは、めちゃくちゃ助かる! 信用してないわけじゃないけど、やっぱり心配なものは心配だからね。……あとでいっちゃんにも言っておくよ」
「はい、もちろん。大阪から、いつきさんにも連絡しますね」
「あ、じゃあLINEのグループ作ればいいじゃん。そのほうが楽だし。いっちゃんとりゅうせいとしゅうとと……だいきは入れないほうが面白いな」
「ふふっ。だいきさんって、そういう扱いなんですね。でも、グループってどうやって作るんですか? 僕、作ったことも入ったこともなくて」
「……本当に友達いないんだな。ごめん、りゅうせいのこと、頼むね」
「……あ、いや、そんなトーンで言われると悲しくなります……」
「ふふ、冗談だって」
笑いながらテーブルに戻ると、りゅうせいといっちゃんが真顔でこっちを見ていた。
なになに、そんなに意外な組み合わせだった?